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一章
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しおりを挟む「あの時はなかなか死ねなくて辛かった……」
「……え……?」
懐かしむ様な顔でとてつもなく物騒な発言をされ、これまたついついアニタは突っ込んでしまう。特段突っ込み体質でもなかったのに逐一反応してしまうのは、少しでもこの異様な会話に正常な何かを見出したいからだが、当然ただのやぶ蛇で敷かない。
「三度も死に戻りを繰り返しているからだろうな、俺の身体が、なのか、そもそも俺という存在が、なのかは分からないけれど……おそらくはこの世界においてのそれこそ【異物】なんだと思う。病気は元より、怪我をしなくなってね。怪我というか、傷がつかないんだ」
そう口にしたかと思うと、ヒューベルトは立ち上がり部屋の片隅ある小さな机からペンを一本持ってきた。そうしてまたアニタの向かいに腰を下ろすと、大きな掌をテーブルに乗せ、そのままペン先を己の掌に突き立てる。
ヒッ、とアニタは悲鳴をあげた。それでもなんとか口元を覆い、外に漏れるのだけは防ぐ。そんな努力をするアニタを裏切る様に、ヒューベルトはさらにその突き立てたペンを手首に向けて一気に引いた。
赤い線が痛々しく走る。しかしその傷は見る間に消えていき、ほんの数秒で無傷の状態にまで戻ってしまった。
ほらね? とでも言わんばかりにヒューベルトが軽く肩を竦めてみせるのを前に、アニタは彼の話が真実であるのだと突きつけられたのを知る。
「それでもまあ、四肢を切断されたりそれこそ三度目の時の様に首を跳ねられたら死にはするけど」
「首を跳ねられたんですか!?」
「三度目にしてやっとおそろいの死因になったよ」
「心の底からさいっていの冗談ですね!?」
侯爵相手に暴言も暴言だが、もうアニタにそんな事に構っている余裕などない。そして何故かそんなアニタの発言に当の本人が嬉しそうに笑っているから問題ではないのだろう。
「そこでまた繰り返しになって……たしかこの時から少し年が過ぎていたかな?」
「え……待ってください……それって四度目ってことですよね?」
「そうだな」
「それは……今、ではなく?」
「なく」
うん、と大変気安く侯爵様は頷く。が、アニタは途端に胃の底から全身に寒気が走った。
この人は、一体どれ程の死に戻りを繰り返しているのだろうか――
口から飛び出そうになったその問いを、アニタは寸前で飲み込んだ。けれどそんなアニタの気遣いを侯爵自身が踏み潰していく。
「七度目くらいまでは数えていたけど、それ以降はもう数えるのを止めたよ。正気を保っていられなくなると思って」
「今でも充分正気を保っておられるとは思えませんが!?」
「確かに。きちんとした意味合いでは、俺はもう正気ではないだろうな。どんな事をしてでも助けたいと思う相手の死に様を見続けているから、まあ、無理な話だよ」
「穏やかな笑顔で仰る発言ではないかとー!」
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