死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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一章

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「あの爆発の時に、一瞬だがはっきりとノードリー伯爵の笑い声が聞こえてね。ああ、これは彼が娘を追放された報復で仕掛けたんだと気が付いた」

 彼は随分と娘を溺愛していたから、とヒューベルトは笑うが、話を聞かされているアニタは到底笑えない。

「それじゃあ……その、三度目? では件のご令嬢を追放はなさらなかったんです?」
「ああ、最早彼女の存在があの二人を死に至らしめているのは間違いなかったからね」

 ん? とアニタは首を傾げる。なにやら会話が噛み合っていない様な、そんな気がする。あと侯爵が浮かべている笑みがとてつもなく恐ろしい。

「侯……?」
「幾つくらいだったのかな……? まあ俺が十と少し過ぎた辺りだったから、まだ幼児の域だっただろうけど」

 続きを聞くのがアニタは怖い。あ、もう結構です、と制止の声を届けようとするがそれより先にヒューベルトがにこやかに爆弾を投げ付けるのが早かった。

「俺がこの手で殺した」

 ヒッ、と悲鳴を上げなかったのはただの偶然だ。アニタはその奇跡に感謝するしかない。だってこの騎士様は、今自ら、幼子を殺したのだと言い切ったのだ。

 これまでの話がただの妄言であれ、流石にこの発言は酷すぎる。そしてなにより、これが妄言ではないと、何故かアニタは強くそう感じてしまっている。

「彼女がいなければ、そもそもの原因が起きない。今度こそ二人を幸せに……穏やかに生きる未来を敷く事ができれば、俺自身はどんな末路でも受け入れる覚悟ができていた」

 いずれ罪深くなるとはいえ、その時点では何も罪を犯していない幼児を手に掛けたのだからそれ相応の報いはくるはずだ。それに関してはヒューベルトは当然だと思っていたし、きっとその罰として自分はこの三度目で生を終えるだろうとも考えていた。

 そしてその報いはきた。三度目の悪夢として。

「教会には一際大きなステンドグラスがはめられているだろう?」
「……ありますね……あの……女神様を描いた、丸い縁のですよね……」

 先程以上に嫌な予感しかしない。聞きたくない、それが無理ならせめて言葉を濁して欲しいと、アニタは必死に目の前の相手に念を飛ばす。

「それが突然落ちてきたんだ、ちょうど真下にいた二人の……さらに首に直撃したから見事に飛んできたよ、俺の足元に」
「いーやーあーっ!!」

 想像したくないのに明確に脳裏に浮かんでしまうその地獄絵図である。頭を抱えて悶絶するアニタに、ヒューベルトはさらに追い打ちをかける。

「これには流石に俺も半狂乱になったなあ。三度目で、諸悪の根源と思っていた彼女もいないのにまだこんな惨い事が起きるのかって」

 その衝撃のあまり、ヒューベルトは二人の首を抱えて祭壇に駆け寄った。そうして携えていた剣を抜くと、血塗れになったまま女神像に斬りかかった。

「それこそ俺自身が悪鬼か何かの様だったろうな……部下の一人が必死に止めようとして、けれど俺はそれに止まるどころか反対に斬りつけて、最期は数人がかりでメッタ刺しにされてしまったよ」

 ハハ、と笑うヒューベルトに最早アニタはどういう態度でいればいいのかが分からない。本当に、お願いだからこの侯爵様はただの――頭のイカれた人物であればいいのにと、そう切実に願ってしまう。


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