死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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一章

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 確かにヒューベルト・ファン・エヴァンデルはあの凄惨な結婚式の場で絶命した。しかし彼は再び生を受けたのだ。生まれ変わりなどではなく、彼自身として。そして彼があの二人と出会う事になる、十歳の姿で。

「正直な所、初めはすごく混乱したんだ」

 そう苦笑を浮かべる侯爵を前に、わたしは今大絶賛混乱中ですとアニタもまた苦笑で返す。それ以外の方法がアニタには浮かばない。余計な事だけは言わないようにと、そればかりを気にしてしまう。そんなアニタに気付いているのかいないのか、侯爵はそのまま話を続ける。

「身体は十歳の子どもの状態なのに、意識は今の俺だからね。悪い夢でも見ているんじゃないかとそう思っていたけど……」

 ひどい悪夢に魘されていたのだろうと思いたかったが、ならば子どもの身体なのに意識が大人なのはどういう事なのかとヒューベルトの混乱は続いていた。しかしその数日後、初めて王太子であるギルバートと出会い、そしてそこからさらにケイトリンと出会った事で彼はあの記憶が現実であったのだと思い知る。彼らとの楽しかった思い出が繰り返されるのだから嫌でも痛感するしかない。しかしだからこそ喜びも満ちた。

「これならやり直しが完璧にできる、と思ったんだ。何しろ俺には先の記憶があるからね。それを辿っていけば、あの悲劇を回避するなんて簡単だろうと」

 しかも十歳からのやり直しだ。いくらだって時間はある。これは神が与えたもうた奇跡だと、それまではあまり熱心に通う事はなかった教会にも足繁く通う様にもなった。
 やがて出会う事になったダイアナに対しても、すでにヒューベルトの中ではどう対処すれば良いかが分かっている。だから彼女を時に遠ざけ、時に糾弾し、最終的に社交界から追放する事にも成功した。
 これでやっと、二人の幸せな姿を見届ける事ができると心の底から喜んだ。けれど、それでも悲劇は起こる。より一層、最悪の形で。

「式場に爆薬が仕掛けられていたんだ」
「ば……爆薬、です、か?」
「そう。突然の轟音と衝撃、に熱風。俺も間近で喰らったものだから身体半分吹き飛ばされて、最初は何が何だか分からなかったんだけど」
「でしょうね!?」

 淡々と話されても流石に突っ込みを入れざるをえない。そんなアニタに構わず話は続く。

「気付けば俺の近くに赤黒い固まりがいくつか散らばっていて」
「あ、待ってください侯爵、ちょっとそれはとっても聞いてはいけない気配がします!」
「こう……十字に重なった固まりに、それぞれ指輪が付いているのを見て、ああこの固まりはあの二人なのかと気付いた時に俺はまた死んだわけだ」
「やっぱりそういう展開じゃないですかーっ!!」

 爆死した幼馴染み二人の肉片に囲まれたヒューベルト・ファン・エヴァンデルの心境如何ばかりか。アニタは震え上がる事しかできない。

「また失敗したと思ったよ、この時は」
「……と、言うことは……?」
「また目覚めたら、十歳に戻っていた」

 三度目も十歳の自分である。今度こそ、これが三度目の正直であると、ヒューベルトは二回目の時よりも細心の注意を払って時を過ごした。


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