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おまけ
寝起き・1
しおりを挟むふと肌寒さでフェリシアは目が覚めた。きちんと覚醒したわけではないので、瞼は半分しか開かない。それでもどうにか瞬きを繰り返せば、その度に視界は明瞭になってくる。
カーテンの隙間に目を凝らせばまだ夜明け前のようだ。時間、と首を動かそうとするが背後からがっしりと抱きかかえられているので身動きが取れない。
極力相手――グレンを起こさない様に気を付けながらフェリシアは彼の腕の中でどうにか身体の向きを変える。眠りが深いのだろう、グレンは静かな寝息を立てたまま瞼を開こうとはしない。
いつもよりかは伸びた前髪がグレンの目元にかかる。それをフェリシアはそっと横に流した。
顔色があまり良くない様に見えるのは、室内が暗いからだと思いたい。いや、昨夜遅くに帰宅した時は本当に顔色が良く無かった。
普段から忙しい身の上ではあるが、ここ最近は特に酷かったと思う。屋敷を留守にする日が増え、それでも一緒に過ごす時間が欲しいからと少しの時間を見つけては帰宅しどうにか食事だけは共にする。それすらも無理な時は顔だけを見せに来て、そしてそのまま王城へと戻るのだ。
フェリシアだってグレンの顔は見たい。だが、この時間を作る為に無理はして欲しくない。
「グレン様、無理にご帰宅されなくてもなにかあったらすぐに連絡を入れますから!」
食事を摂る手があまりに鈍いグレンにフェリシアはそう言った事もある。食欲よりも眠気が勝っているのだ。つまりは、一時の帰宅の為に相当無理をしている事に他ならない。
「グレン様にお会いできるのは嬉しいです。でも、そのためにグレン様が無理をしていたら意味がありません。あちらにはグレン様のお部屋もあるんですよね? そこでちゃんとじっくりゆっくりぐっすりお休みしてください!」
「ああ……すまないフェリシア、君の言う通りだ。でも俺が我慢できないんだよ。君に一目でいいから会いたいと思ってしまう、俺の我が儘なんだ」
「そんな切なそうなお顔で言えば私が絆されると思ったら大間違いですからね! 夫の体調管理も妻の務めなんですから!!」
んんんっ、と言葉に詰まった後にそう反論してみせたが当然フェリシアは絆された。滅多に甘えるというか、こちらに頼る様な事を口にしない、そして最愛の夫からのお強請りである。これを拒否できる妻がはたしてこの王都に一体何人いる事か。フェリシアには逆立ちしたって無理な話だ。
それでも、この激務ももうすぐ終わるからという話があったからこそ、フェリシアはグレンのお強請りに首を縦に振った。そうでなければフェリシアも心を鬼にしてグレンを王城へと送り返していた。
そんな日々もようやく昨日で終わりを迎えた。グレンの疲労はこれまでで一番凄まじく、食事もろくに摂らずに寝室へと入った。せめて温かいお茶でも淹れましょうか、とフェリシアが茶器を用意しようとすれば、腰に腕を回されてそのまま身体を持ち上げられる。
あ、と思ったのはその一瞬で、次に瞬きをした時にはすでにベッドの上に押し倒されていた。
「……え!? グレン様!?」
驚いて身を起こそうとすれば、それより先にグレンの唇がフェリシアの首筋に触れる。舌先で肌を擽り、皮膚の薄い所に軽く歯を立てる。形の良い鼻先はフェリシアの耳の後ろや髪の中に潜り込み、呼気が何度もフェリシアに熱を伝える。
「ぁッ……、グレ、ン、さま……!」
久しぶりの濃厚な触れ合いはあっと言う間にフェリシアの体温を上げた。熱を持った息が漏れ、それが恥ずかしくて口を閉じたくなるが、それよりもっと言わねばならぬ事があるとフェリシアは必死にグレンの背を叩く。
「グレン様、ああああああのですね!」
「うんわかってる、君の言いたいことはわかってるんだフェリシア」
グレンの目が蕩けているが、それは欲だけが原因では無い。圧倒的な眠気が、ずっしりとグレンの背中にのし掛かっているのがフェリシアの目から見てもはっきりと分かる。
「きょ、今日は、もう、寝ましょう!」
「いやだ」
「いやって……って、ぁあ!? あのっ、だから……だめ、ですって……んんッ!!」
フェリシア、と譫言のようにグレンは名前を呼びながらフェリシアの身体を高めていく。実際もうこの時点でグレンの意識は半分無かったのかもしれない。だからこそ、普段の彼よりも余裕が無く、フェリシアを心の赴くままに求めた。
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