伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高

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おまけ

冬の日・1

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 季節はすっかり冬だ。凍てつく空気の中、ようやく屋敷に帰り着いたグレンの肩には薄らとだが雪が積もっている。

「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」

 玄関で雪を払い、上着をカーティスに預けるとややあってパタパタと賑やかな音が近付いてくる。

「グレン様おかえりなさいませ!!」

 勢いを殺す事を知らない小さな塊がまずは元気にグレンに飛び付く。わりとイイ所に嵌まったが、グレンはどうにかその衝撃に耐え塊――ポリーの頭をポンポンと撫でた。

「お帰りなさいませ、グレン様」
「ただいまフェリシア、それとポリーも出迎えありがとう」

 えへへ、と笑うポリーに対してフェリシアはどことなく罰が悪そうにしている。いくら待ち望んだ夫の帰宅とはいえ、それが三日ぶりの帰宅であったとはいえ、伯爵家の妻が小メイドと一緒に駆けて来るものではない。じっとりとした目でカーティスに見られているのが気まずくて仕方がないのだ。ちなみにポリーはそんな視線を向けられるのには慣れているので気にしてなどいない。

「グレン様お体がずいぶんと冷たいです」
「雪が降ってきていたからな」

 雪! とポリーは瞳を輝かせる。北の方ではそう珍しくもない雪だが、王都ではあまり見る物ではない。

「明日の朝に積もるでしょうか?」
「さあどうだろう? もう少し勢いが出れば積もるかもしれないが」
「そんな寒い中ご帰宅された主人をいつまで玄関に立たせておくつもりだ、ポリー」
「あ、そうですね! 今すぐ暖かいお部屋にお連れしますね! それまではフェリシア様でどうぞ!!」

 え、となったのは二人同時だ。グレンの腰辺りにしがみついていたポリーはクルリと振り返り、フェリシアの手を取ると勢いよく引き寄せる。そしてそのまま立ち位置を入れ替え、あっと言う間に今度はフェリシアの身体がグレンの腕の中に入った。

「グレン様がお帰りになるからと、フェリシア様と二人でお部屋を暖めていたんです! だから今のフェリシア様のお身体もとっても暖かいので、まずは」
「奥様で暖を取れと?」
「そうです!」

 名案! と最高に自慢気な顔をするポリーであるが、悲しいかなこの名案を褒めて欲しいグレンとフェリシアは片や照れくさそうに視線を彷徨わせ、片や真っ赤になって固まっている。したがって鼻高々のポリーの顔を見たのはカーティスのみで、そのカーティスは呆れきった表情で大きく息を吐き出した。

「カーティスさんなんだか瞳の色がよどんでますよ?」
「丸っと全部馬鹿な子ウサギが原因だなあ」

 カーティスはそんな子ウサギを脇にヒョイと抱え、頭を鷲掴みにする。

「いたいいたいいたいですカーティスさん!」
「ほらお二人ともいつまでそうしてるんですか、さっさと部屋に行ってください。すぐに食事も用意しますから」
「あ……ああ、そうだな、頼む」

 そう返しつつもグレンはフェリシアを腕に抱いたまま動こうとはしない。なんならフェリシアもグレンの背に手を回し、いじらしくも彼の服をそっと掴んでいる。


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