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おまけ

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「そういえば記憶が戻ったんですって? おめでとう、とでも言うべきかしら?」
「……他になんて言うのよじゃあ」
「病み上がりでもすぐに参加できるくらいなの? わたくし生憎とそういった知識が乏しいのだけれど、その程度のものなのね……なのにあんなにもグレン様に心配とご迷惑をかけて、本当に貴女って人は……」
「え……ええええ……」

 なあに? とブツブツと文句を言っていたミッシェルに対してミランダが容赦なく睨み付ける。フェリシアは無言で視線を彷徨わせているだけだ。グレンと結婚する前から何かと絡まれてはネチネチと嫌味を言われていたフェリシアである。結婚してからはそれがさらに酷くなった。だから記憶が戻って、それこそ「本来の」フェリシアに戻っても苦手意識が抜けないんだわ、とミッシェルが思ったのも束の間。フェリシアはずっと奥の方を気にしているのに気が付いた。奥、とミッシェルも軽く視線を動かしてすぐにその意味を理解する。

 あの方向には飲み物を取りに行ったグレンがいる。と言うか、すでにこちらに戻ってきている姿が見えるではないか。

 これはまずいんじゃないかしら、ってなにがまずいかよく分からないんだけど! とミッシェルは慌てる。フェリシアはすでに慌てふためいており、従って二人とも何をどうする事もできない。

 このままでは、あのアレコレソレとダダ漏れのグレンが戻ってきてしまう。そうなった時にどうなるのか。何一つその予測は立たないが、ただ一つだけはっきりと分かるのは「猛烈に面倒くさい展開になる」という事だけで。

「なあに? 貴女たちわたくしの話を聞いているの?」
「フェリシア」

 戻る途中でその速度を上げたのだろう、グレンが早々に戻ってきた。近くにいた侍女に手にしていたグラスを預け、あっと言う間にミランダとフェリシアの間に割り込む。

「顔色が悪いな……気分はどう? すぐに部屋を用意してもらおうか?」

 当然の様に腕の中に引き寄せ、顎を掬って見つめ合う姿は傍から見れば完全なるラブシーンだ。ひあああああ、とフェリシアの声なき声がミッシェルには聞こえたが、ミッシェルにはどうする事もできない。

「あの、グレン様」

 それでもフェリシアは大切な友人であるからして、どうにか助太刀してやりたいミッシェルはグレンの気を散らそうと無駄に呼びかける。

「君も顔色が良くないようだ……ああ本当にすまない、俺が振り回してしまったばかりに」

 むしろ今が最高に振り回してらっしゃいますと、そう言えたらどれだけ良かったか。けして嘲笑するような物ではない、むしろ仲睦まじい若夫婦の姿を微笑ましく眺めている、そんな周囲からの視線だ。が、それを一身に受ける方としては堪ったものではないだろう。もらい事故に近い形で巻き込まれているミッシェルもそうだ。

 しかしこのなんともいえない空気に負けない者がいた。一向に気付いていないグレン、ではなく、まさかのミランダである。

「お久しぶりですグレン様! またお会いできて嬉しいですわ」

 うっそこの中で突っ込むの!? 心臓強すぎじゃない!? そう喉元まで出かかった叫びをミッシェルは渾身の力で飲み込んだ。ぐぎゅ、と喉奥から奇妙な音が上がるがそれに構ってなどいられない。うっそでしょ、ともう一度同じ感想を抱きつつ、いっそ尊敬さえしてしまいそうな視線を向けていれば、そのミランダに対しグレンは微かに気まずそうな顔を見せる。


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