96 / 110
おまけ
5
しおりを挟む「そういえば記憶が戻ったんですって? おめでとう、とでも言うべきかしら?」
「……他になんて言うのよじゃあ」
「病み上がりでもすぐに参加できるくらいなの? わたくし生憎とそういった知識が乏しいのだけれど、その程度のものなのね……なのにあんなにもグレン様に心配とご迷惑をかけて、本当に貴女って人は……」
「え……ええええ……」
なあに? とブツブツと文句を言っていたミッシェルに対してミランダが容赦なく睨み付ける。フェリシアは無言で視線を彷徨わせているだけだ。グレンと結婚する前から何かと絡まれてはネチネチと嫌味を言われていたフェリシアである。結婚してからはそれがさらに酷くなった。だから記憶が戻って、それこそ「本来の」フェリシアに戻っても苦手意識が抜けないんだわ、とミッシェルが思ったのも束の間。フェリシアはずっと奥の方を気にしているのに気が付いた。奥、とミッシェルも軽く視線を動かしてすぐにその意味を理解する。
あの方向には飲み物を取りに行ったグレンがいる。と言うか、すでにこちらに戻ってきている姿が見えるではないか。
これはまずいんじゃないかしら、ってなにがまずいかよく分からないんだけど! とミッシェルは慌てる。フェリシアはすでに慌てふためいており、従って二人とも何をどうする事もできない。
このままでは、あのアレコレソレとダダ漏れのグレンが戻ってきてしまう。そうなった時にどうなるのか。何一つその予測は立たないが、ただ一つだけはっきりと分かるのは「猛烈に面倒くさい展開になる」という事だけで。
「なあに? 貴女たちわたくしの話を聞いているの?」
「フェリシア」
戻る途中でその速度を上げたのだろう、グレンが早々に戻ってきた。近くにいた侍女に手にしていたグラスを預け、あっと言う間にミランダとフェリシアの間に割り込む。
「顔色が悪いな……気分はどう? すぐに部屋を用意してもらおうか?」
当然の様に腕の中に引き寄せ、顎を掬って見つめ合う姿は傍から見れば完全なるラブシーンだ。ひあああああ、とフェリシアの声なき声がミッシェルには聞こえたが、ミッシェルにはどうする事もできない。
「あの、グレン様」
それでもフェリシアは大切な友人であるからして、どうにか助太刀してやりたいミッシェルはグレンの気を散らそうと無駄に呼びかける。
「君も顔色が良くないようだ……ああ本当にすまない、俺が振り回してしまったばかりに」
むしろ今が最高に振り回してらっしゃいますと、そう言えたらどれだけ良かったか。けして嘲笑するような物ではない、むしろ仲睦まじい若夫婦の姿を微笑ましく眺めている、そんな周囲からの視線だ。が、それを一身に受ける方としては堪ったものではないだろう。もらい事故に近い形で巻き込まれているミッシェルもそうだ。
しかしこのなんともいえない空気に負けない者がいた。一向に気付いていないグレン、ではなく、まさかのミランダである。
「お久しぶりですグレン様! またお会いできて嬉しいですわ」
うっそこの中で突っ込むの!? 心臓強すぎじゃない!? そう喉元まで出かかった叫びをミッシェルは渾身の力で飲み込んだ。ぐぎゅ、と喉奥から奇妙な音が上がるがそれに構ってなどいられない。うっそでしょ、ともう一度同じ感想を抱きつつ、いっそ尊敬さえしてしまいそうな視線を向けていれば、そのミランダに対しグレンは微かに気まずそうな顔を見せる。
0
お気に入りに追加
3,294
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
(完)子供も産めない役立たずと言われて・・・・・・
青空一夏
恋愛
グレイス・カリブ伯爵令嬢である私は、家が没落し父も母も流行病で亡くなり借金だけが残った。アイザック・レイラ準男爵が私の美貌を気に入って、借金を払ってくれた。私は、彼の妻になった。始めは幸せだったけれど、子供がなかなかできず義理の両親から責められる日々が続いた。
夫は愛人を連れてきて一緒に住むようになった。彼女のお腹には夫の子供がいると言う。義理の両親や夫から虐げられ愛人からもばかにされる。「子供も産めない役立たず」と毎日罵られる日々だった。
私には歳の離れた兄がいて、その昔、父と諍いを起こし家を出たのだった。その兄が生きていて、チートな冒険者になっており勇者と共に戻って来た。だが、愛人が私のふりをして・・・・・・ざまぁ。納得の因果応報。
虐げられる美貌の主人公系。
大14回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。ちなみに順位は37位でした。投票して頂きありがとうございました。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。