伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高

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「メイジーの小説の中でね、意中の男性に愛の言葉と一緒に贈り物をする場面があるの!」
「それって……その、ええと、例の本で……?」
「違うわ、これは前に出た本の話。それがね、お話の展開とも相まってとっても素敵な場面だったのよ!」
「それに胸をときめかせた少女達――もちろん、私達もその一人ね。だから、その本が出版された同じ日に、物語の女性に倣って思い人に愛の言葉とささやかな贈り物を捧げるのがこっそり流行しているの」

 ミッシェルの流れを受け、今度はマーティナが後を継ぐ。そしてまたキャロラインへと戻り、フェリシアへと飛んできた。

「フェリシアもどうかしらと思って」
「……それはつまりは」
「グレン様へ愛の言葉と贈り物をしてみてはいかがかしら? きっと、ええきっと、とても喜ばれると思うのだけれど」

 輝かんばかりのキャロラインの笑顔だ。マーティナも笑みを深めているし、ミッシェルにいたっては「それってとても素敵!」と横でキラキラとした空気を発している。

 フェリシアはいたたまれない気持ちで一杯だ。
 言えない。とてもじゃないが言えやしない。


 メイジー・ディズという名は知らなかったけれど、おそらくそれと同じ事をポリーが何処から聞いてきて。今と同じ様にフェリシアに勧め、フェリシアも確かにグレンから言われる事は多々あるけれど、自分からはなかなか言い出せないものだから、これを機にやってみるのいいかもしれないと、そんな考えに軽率に従った結果どうなったか。思い出すだに羞恥で悶える。
 グレンは喜んでくれたし、フェリシアも普段は言えない彼への愛情を伝える事ができて嬉しかった。そうやって二人が喜びに満ちたまま終わるはずだった所、ポリーが無邪気に爆弾を投げ込んだ。

「今年はフェリシア様からだったので、来年はグレン様からですね!」
「来年? それは来年でないと駄目なのか?」
「だって日付が決まってますよ?」
「そうか……それなら俺は止めておくよ」

 ええー、とポリーは元気に不服の声を上げる。

「せっかくフェリシア様に愛の言葉を贈れる日なのに!」
「そう、だからだよポリー」
「なんですか?」
「そんな一日だけだなんて俺は嫌だな。フェリシアには毎日愛の言葉とできれば贈り物をしたい」
「あああああああもう! 息をするようにそんなことばっかり言うー!! そういうところですよグレン様!!」

 うわあん、とフェリシアは羞恥でソファに倒れ伏した。つい最近の事だ。





 その記憶が蘇り、気を抜くと即座に叫びそうになるがフェリシアは全力でそれに耐えた。キャロラインとマーティナの向けてくる視線が楽しそうで、これはきっとバレているのは明白だ。しかしこちらが口を割りさえしなければ大丈夫、さらには矛先を変えてしまえばより安心、とフェリシアは軽く深呼吸をして気を落ち着かせる。

 そうして向ける先は――キャロラインだ。

「キャロライン様こそ、ロイド様にはなさらないんですか?」
「え!? キャロライン様ったらそうなんです!?」
「な……も、もう、フェリシアったら……」

 途端に赤くなって口籠もるキャロライン、その横であらあらうふふ、と楽しげに笑うマーティナ、そして身を乗り出しそうな勢いのミッシェルの姿。してやったり、とフェリシアはテーブルの下で小さく拳を握り締めた。


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