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小話
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しおりを挟むそんな二人に心配された護衛の騎士であるグレンは、その日遅くに屋敷へ戻った。愛しい妻から出迎えられ、いつもの事であるにも関わらず今日も心の底から感動しつつ、ふと考える。
自分も妻もいたって健康体で、年だってまだ若い部類だ。妻にいたっては八つも下なのでさらに若い。なので、さすがに誕生日を迎える度にまた一年共に過ごせる期間が減る、とは思わないけれど。
しかし順当にいけば先に逝くのは自分である。ならばその時残された妻はどうなるのだろうか。
受け継いだ領地の運営は特に問題ない。騎士としての報酬も充分すぎるものであるし、それも無駄遣いするわけでもなく運用できている。妻への遺産としてはおそらく大丈夫である、はずだが。
「グレン様? どうしたんですか?」
自分を凝視したまま動かない夫を、不思議そうに見つめる愛しい彼女。残せる物は全て残してやりたいし、それに関する煩わしさも可能な限り排除しておいてやりたい。
「フェリシア」
「はい、なんですか?」
名を呼べば嬉しそうに微笑んでくれ、それがまたグレンを喜ばせる。
「いや、なんでもない。ちょっと名前を呼んでみたくなっただけだ」
そう返せば顔を真っ赤にさせて固まる。そんな彼女の頭をポンポンと撫でてやりながら、今し方浮かんだ考えを実行しようとグレンは決めた。
自分が死んだ後、彼女がすぐに使える様に彼女名義の財産を残しておこうと。
後日その話を知ったジュリアは「重い」と即座に思ったが、なにしろ夫婦間の事であるからして下手な口出しは無用、と沈黙を貫いた。
あとはもう、彼がこれ以上拗らせてアチラというかコチラというか、とにもかくにもおかしな方向へ思考が進まないことをひたすら祈るだけである。
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