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小話
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しおりを挟む「フレドリック様が着実にあなたのアレな所と同じ道を歩んでおいでなんだけれど」
「それおれのせいじゃなくない? 王子の持って生まれた」
ジュリアに本気で睨み付けられルイスは利口に口を閉じる。
「あなたなにか撒き散らしてるんじゃないの?」
「わりとおれを病原菌扱い?」
「かなりの確率でそういう扱いよ」
「おれ君の婚約者だけど!」
舌打ちは淑女らしからぬので控えはするが、それでもジュリアがルイスを見る目も、醸し出す空気もなにもかもが到底婚約者へ向ける物ではない。
「その目付きさぁ、おれだからいいけど他のやつだと傷付くからやめたげなね?」
「あなた以外にこんな目付きをすることはない、わ、よ……」
なにやら含みのある言い方にジュリアは怪訝な顔をする。それにルイスはニコリと笑顔を浮かべた。
「おれにとっては睨み付けられようが呆れられようが、ジュリアの意識がこっちに向いてるってだけでご褒美だから……ってその目はね、うん、侮蔑の目は別だから。それほんとに傷付くやつだからやめてください」
「引くわ」
「ごめん」
でもまあ、とルイスは話を反らすのも兼ねて会話を続ける。
「正直なところ、フレドリック様はそんなに心配するほどでもないと思うけどな。あの人ほんとうにただただ真面目で、でもって今まで自分に対する欲がなかったのが今回オリアーナ様に向いちゃったもんだから、それで自分でも振り回されてるだけだろうし。その内落ち着くと思うよ」
「……待って、フレドリック様「は」ってなに……?」
「おれとしてはグレン様の方がどうかなー、って気がするけど」
ひ、とジュリアの顔から一気に血の気が失せる。今のところ唯一といっていいジュリアの味方なのだ。このテの人種を相手にする時の。そんな貴重な相棒がまさかの。
「あの人も生真面目すぎるだろー? そもそも騎士なんて堅苦しい仕事をずっとやれてるってのがもうね、おれからしたら信じられない」
「私からすればあなたの存在自体が信じられないけど」
「ショック受けてたわりにおれへの罵倒だけ淀みないのなんなの? 愛?」
「世迷い言を」
「即答……! まあいいけど。グレン様の奥さんって八つ下なんだっけ? ものっすごい可愛がってるって聞くけど」
「……そうね……」
以前から言葉や態度の端々で大事にしているのだな、とは伝わっていたが、最近はなにか吹っ切れたのか隠そうともせずに溺愛している。
「そもそもあれは隠すとか隠さないとかじゃなくて、本人無自覚みたい……」
「夫婦のことだから他人が邪推するのもなんだけど、前にもまして、そして無自覚でってことは、相当拗らせてたのがポーンと吹き飛んだんじゃないのかなー? って思うよね」
「あなたの常識みたいに?」
「だから罵倒がね? ちょいちょい挟まないとだめなの? やっぱり愛?」
「そう、愛よ愛」
「侮蔑の眼差しのまま言われてもちっとも嬉しくないんだけど!」
「喜ばせる気はないもの」
「今日一段と冷たくない!?」
「気のせい……だとよかったのにね」
ひどい! でも好き!! と拗らせまくってすでに何回転しているか分からないジュリアへの愛情を抱いたルイスは、これ見よがしに机に突っ伏して泣いてみせるが、それが嘘泣きだと全てお見通しであるからして何一つ動揺を与えることはできなかった。
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