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小話
かんきん(表)・1
しおりを挟む「もし俺が監禁したいと言ったらどうする?」
物騒極まりない発言はこの屋敷の主人からのもので、それを受けて答えたのはその奥方である。
「え――条件によります?」
よるのかよ! との突っ込みをカーティスはわりと必死に飲み込んだ。
突然の暴投、はこれまでフェリシアの専売に近かったはずだが、どうやら仲睦まじい夫婦は似てくるのか、え? こんなとこまで? とカーティスは冷静な顔をどうにか保ったまま周囲を見渡す。
久々の夫婦揃ってゆったり過ごすティータイム。楽しそうに二人にお茶の準備をしていたマリアもポリーも固まっている。それはそうだろう、普段から真面目が服を着て歩いているようなグレンから、まさかそんな言葉が出てくるだなんて思いもしない。
「かんきん……?」
あ、子ウサギは分かってないな、と小首を傾げるポリーを見てさてどうしたものかとカーティスは考える。考える、が、静かながらにも混乱の極みに近い現状、手をつけるにはいささか面倒くさいというかぶっちゃけ本当に面倒くさい。なので元凶がどうにかするだろうと放置を決めた。実際元凶であるグレンは「すまない、ちょっと、今のは」としどろもどろになりながら言い訳をしている。自分でも何を口にしているのかと後悔真っ最中なのだろう。
「ええと……そう言う話題が、出たもので……」
誰から、とは口にしないが、それだけでポリー以外の人間は理解する。グレンが仕える第二王子・フレドリックから飛び出たに違いない。
フレドリックの為人は温和で公明正大、真面目でありつつ融通も利き、民衆からの人気も高い。気軽に伯爵家に訪れるのは心臓に悪いけれど、使用人であるカーティス達にも気さくに接してくれる御仁だ。そんな彼が一人の令嬢に恋をして、猛烈なアタックの後見事婚約者として迎え入れたのは有名な話。
そしてその頃からフレドリックの言動がちょっとこう、となったのはごく一部しか知らない話だ。
いかに妻とは言え詳しくは口にできない。が、自分だけで抑えておくには難しい。そんな葛藤からポロリとグレンは愚痴として零してしまったのが冒頭の言葉だ。
フェリシアもそれらを察したのか「あー……」とだけ呟いて、ひとまず目の前の淹れてもらったばかりの紅茶に手を伸ばす。グレンも同じくティーカップを手にし、喉の渇きを潤した。
「――フェリシア様をお金に換えるんですか!?」
ひとまず落ち着きを取り戻した矢先、今度はポリーが豪速球を投げ付ける。グレンもフェリシアも運良くティーカップをテーブルに戻した直後だったので、不様に吹き出したり落としたりする事はなかったが、それでも二人ともグッ、と息を飲み込んだ。
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