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小話
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しおりを挟む目覚めは近来稀にみる最悪な物だった。もちろん原因はただ一つしかない。
「おはようジュリア! 身体の具合はどうー?」
朝の挨拶をするには遅い時間だが、キラキラと眩しい笑顔でベッドに近付いてきた自分の婚約者。なんとか身を起こした状態のジュリアの額にそっと手を伸ばしてくるそれ、をジュリアは軽く掴むと、流れる様な動作でルイスの手首の関節を逆の方向に折り曲げた。
「疲労困憊の愛しい彼女のためにって、美味しい朝食兼昼食を作って持ってきたおれに対してひどくない!? つかなんでそんな綺麗に関節キメてくんのジュリア!?」
「オリアーナ様の侍女たるもの、護身の一つもできないとでしょう」
「護身ってか……おまえの手首をへし折ってやる、っていう気迫が感じられたんだけど」
「生半可な反撃は逆に危険だから、殺る気でいけと」
「そりゃそうだけど……でもグレン様もほぼほぼ一緒にいるんだから、ジュリアがそこまで必死にならなくてもいいじゃないのー」
ジュリアに護身術を教えたのはその第二王子の専属護衛様だ。もちろんこれは暴漢に対する物、という大義名分を隠れ蓑に、実際はかなりアレな婚約者に対する防御のためだ。
「まあいいや、それよりほら、お腹も空いてるだろ? 簡単に食べられるの作ってきたから」
小さなテーブルをベッドサイドに寄せ、その上にパンとスープ、そして果物の入った皿を置く。薄切りにしたパンの間には野菜と玉子、他に肉とチーズが挟まっている。スープは片手で飲めるようにカップに入っており、鶏ガラベースのスープに細かく刻まれた野菜がたっぷりだ。これだけでもジュリアの腹は一杯になりそうな所、ちゃんと果物も食べろと、一口大に切られた桃がテーブルの端に控えている。
「自分で食べられる? それともおれが」
「自分で食べられます」
「無理しなくていいのに」
「無理しなくていいように、あなたがもう少し気遣ってくれたらいいんじゃないかしら?」
温かいスープを一口飲めば、疲弊しきった身体がじんわりと回復してくる、ような、気がする。そのままパンに手を伸ばし口に運ぶ。これもまた美味しい。しばらくそうやって食事に専念するジュリアを、ルイスは至高の絵画でも見る様な目で見つめる。
「……ルイス」
「ん? あ、水? あるよ、はい」
違う、と思ったけれど、たしかに水は欲しかったのでひとまずジュリアはグラスに注がれた水で喉を潤した。
「食べ足りた? 足りなかったらまだあるから」
「ありがとう……じゃなくて」
なに? と笑顔を向けてくるルイスはきっとジュリアの言いたいことなど分かっている。それでもあえてシラを切るのだからこの男は本当にタチが悪い、とジュリアは眉間に皺を寄せた。
「まったまたー、朝から眉間の皺が深いぞジュリア」
「誰のせいだと」
「おれ」
えへ、と可愛らしく肩を竦めてさらにはちょっぴり舌なんて出してみせられたところで、それが成人男性の仕草であれば殺意しか沸かない。少なくともジュリアはそうだ。
さらに眉間の皺が深くなる。そんなジュリアにルイスは「だってさあ」と少しだけ拗ねた態度を取る。
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