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しおりを挟む「口に合わなかったかい?」
「……いえ、そうではなくて」
ここで毎回出される菓子はどれも絶品の物であるからして、若い娘であれば誰だってついもう一口、と食べてしまう。
「なので……最近こう、少し……」
赤く染まった顔を隠した状態でそこまで言われれば、フレドリックも察するしかない。
「オリアーナはもう少し肉を付けた方がいいくらいだと思うが」
「却下です王子。不可、間違い、この無神経! と罵られても仕方のない発言です」
「女性に対して適切ではないかと」
ジュリアとグレンの突っ込みにフレドリックは「すまない」とオリアーナに詫びを入れ、そして少しばかり感心した眼差しをグレンに向ける。
「お前に女性に対しての言葉を窘められる日が来るとは思わなかったよ。これも夫人のおかげかな?」
フレドリックのからかいに、氷の騎士との異名さえ持っていた護衛の騎士は不様にも動揺を見せた。サ、と頬に赤みが差す。しかし咳払いと共に即座に冷静な顔に戻り「おかげさまで」と短く返した。
「グレンがなにかと夫人との仲を見せつけてくれるものだから、余計にオリアーナが恋しくなるんだよ」
はあ、とフレドリックは溜め息を吐く。愛しい彼女とはまだ婚約の段階だ。どんなに願っても、夜にはオリアーナは自分の屋敷へと帰ってしまう。
「オリアーナと一緒にいたいだけなんだけどなあ……」
ガクリと項垂れ、そこから五つ数えた所で「そうだ!」とフレドリックは勢いよく顔を上げた。名案、と喜色に飛んだその顔付きに、これまたろくでもない言葉が出るなとグレンとジュリアは身構える。
「私がオリアーナの屋敷に監禁されればいいんじゃないだろうか!」
「伯爵家を謀反人に仕立て上げる気ですか」
「むしろ何故それをいいんじゃないかと思ったのか説明してもらいましょうか」
凍てつく冬の夜かの如く、温もりなど一切感じさせないジュリアとグレンの突っ込みがフレドリックに突き刺さる。しかし彼の脳は今、一連の流れを「仲の良い主従の会話」と捉えたオリアーナの笑顔しか認識していない。
愛しい相手の楽しそうな表情に、こちらも負けんばかりの幸福そうな笑顔を浮かべ二人は向かい合っている。
いつものことではあるけれど、本当に一体なんなんだこれはとグレンとジュリアは同時に重い息を吐く。二人の様子を見守るだけの簡単な仕事であるはずなのに、的確に突っ込みを入れなければならないし、そのためには二人の会話を一言たりとも聞き逃してはならない。恋人同士の会話に耳をすませていなければとは、とんだ出歯亀もいいところだ。地味にしんどい。
「でもきっと、今よりも丸くなったオリアーナは、それはそれで可愛らしさに磨きがかかっていいと思うなあ」
フレドリックは話を戻す。だからそれは、と三人がそれぞれ突っ込みをいれようと口を開くが、あまりにもこう、フレドリックがうっとりとした顔をしているので言葉に詰まる。
「……もし私が、今よりもっとずっと丸くなったとしても、フレドリック様は嫌わずにいてくださいます?」
「オリアーナを嫌いになることなんてない、どんなオリアーナも大好きだ」
甘い顔に甘い声、そして甘すぎる発言に場の糖度が一気に上がる。胸焼けしそう、とジュリアは顔をしかめ、隣に立つグレンは遠くを見つめたまま無言を貫く。
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