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「監禁……監禁ですか……二日、ううん一日くらいならいいですけど」
「いや、もちろん本当にするわけではないよ? オリアーナは外に出かけるのが大好きだから、閉じ込めておくなんて可哀想でできない」
「そうですね、こんな風にお天気の良い日は特に外に出かけたくなります」
「後で庭に出ようか。庭師が綺麗に薔薇を咲かせてくれたんだ」

 素敵ですね、と微笑むオリアーナは婚約者と言う立場を受け入れてからは、それまでの評判通り明るく朗らか、細かな事は以下省略な性格を発揮している。グレンとジュリアからすれば神に感謝する程のありがたさだ。今の会話もフレドリックの軽い冗談、なんなら王族ならではの軽口なのだろうと流してくれる。

「あれ絶対本気と言うか本心でしたよね」
「飾りなんか一切無しの心の底からの言葉だったな」

 扉を背に、二人の様子を見守りながら騎士と侍女はひそひそと言葉を交わす。
 グレンとジュリアには密かに国王夫妻から課せられた任務がある。
 一つは、フレドリックがこれ以上妙な嗜好に走らないよう目を光らせる事。
 もう一つは、フレドリックがオリアーナに対して一般常識に照らして常軌を逸した行動に出る前に、彼の身柄を拘束する事。

「多分、フレドリックはこれまで無欲でいた反動で全ての欲がオリアーナに向いていると思うんだ。当然本人はそれを自覚なんてしていない。今のところ暴挙に出ていないのは、フレドリックがひたすら常識人であると言うことと、オリアーナが上手く受け流してくれているからだろう」

 アーヴィングの認識に二人もその通りだなと同意を示す。

「きっと、おそらく、オリアーナから少しでも拒絶と言うか……引かれでもしたらフレドリックは転がり落ちてしまうような気がしてならなくて……」

 残念ながらこれまた同意、とグレンとジュリアは頷いた。

「一目惚れ、だなんて言った所でそれまで好意どころか興味すらもっていなかったフレドリックに見初められたんだ! オリアーナにとってはとんだ事故案件だろう!? それを逃がしてやるどころか、どうか頼むからと囲い込んでしまって……なんとしても彼女の心身の安全だけは確保してやりたい」

 その為ならば第二王子相手であっても抜刀してよい、とまで言われている。流石にその前にどうにかする、というかしなければならないわけだが、王家のそこまでの覚悟にもう笑うしか無い。

「オリアーナ? どうかしたのか? 今日はいつもより食べる量が少ないみたいだけど」

 素晴らしき観察眼、と言うか普段からどれだけ見てるんですか王子、とグレンは腹の底で突っ込みを入れる。女性の食べる姿を凝視とかないですね、とジュリアは喉元までせり上がった言葉をゴクリと飲み込む。
 指摘されたオリアーナは「う」とだけ呟くと、しおしおと身を縮ませる。


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