伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高

文字の大きさ
上 下
34 / 110
小話

しおりを挟む



「……浮気はなさらないと信じてますよ?」
「君以外の女性に惹かれた時は、まず離婚してから新しい相手の元へ行くと思っているんだもんな? 確かにそれだと浮気にはならない」

 少しずつ慣れてきたとはいえ、それでも至近距離でくらう美形の凄み笑いは恐ろしい。ましてや非はこちらにあるのだから余計に怖い。

「フェリシア」
「グレン様ごめんなさい心の底から反省しています本当にごめんなさい!」
「俺は君以外の女性を愛する事はない。とはいえ、人に心がある以上絶対ないとは言い切れないのもあるから、それで君が不安になるのは当然だ。俺だって、いつか君の気持ちが他の男に向くんじゃないかと思うと胸を掻き毟りたくなる」
「それはないです! だってグレン様より素敵な人なんて他にいませんからね!? グレン様どれだけご自分が魅力的で最高かあまりにも分かってない!」
「全く同じ言葉を返すよフェリシア。君より魅力的で素敵な女性は他にいない」
「贔屓目が過ぎやしませんか……!」
「少なくとも俺にとってはそうなんだ。君のことが愛しくて堪らないのに、どれだけ頭を捻ってもこの気持ちを伝えきるだけの言葉が浮かばない。だからこそ、できる限りの事は尽くそうと思ってこれまで君に接してきたつもりなんだが」

 向けられる言葉はどこまでも甘いのに、飛んでくる眼差しと掴んだままの両手がそれだけではないと伝えてくる。おのずと逃げ腰になるフェリシアを、させるものかとグレンが容赦なく追い込む。

「俺の完全な力不足を痛感したよ」
「全くそのようなことは微塵もなく……!」
「いやいや、だって君は仮に、ありえないけど、絶対にないけど、俺が心変わりをして離婚を求めたとして」
「三段階の突っ込みつらいですグレン様!」
「それを回避するための話し合いをするでもなく、あっさり受け入れてさっさと出家する道を選ぶんだろう? つまりは君にとって俺は所詮その程度の存在だと言うわけだ」
「そんなことはありませんってば!!」
「だからフェリシア」
「グレン様今過去最高にこわいですその笑顔ほんとこわいんですけど!」
「今からしっかり、何度でも、君が分かるまで教えるよ――俺がどれだけ君を愛しているか」

 これはいつぞやの再来、とフェリシアは声なき声で叫ぶ。それに対しグレンも声には出さずに答える。正解、であると。
 一度起き上がったはずが再びベッドに押し倒され、両手はひとつに纏めて頭の上でグレンの右手だけで拘束されてしまう。腰の上には馬乗り状態で彼がおり、あっと言う間にフェリシアの身体の自由は奪われてしまった。

「あの、ほんと、グレン様、あのですね」
「大丈夫だフェリシア、痛いことや怖いことはしないから」
「だから今が一番怖いんですってば!」
「君が気持ちいいことと、ものすごく恥ずかしいことをするだけだ」
「無理ですー!!」

 お慈悲を、とフェリシアは本気の涙目で訴えるが、蕩ける様な笑顔を浮かべたグレンに一蹴されてしまう。

「これに関しては自業自得だな、フェリシア」

 まさにそれ、とフェリシアもそう思うが、だからといってそれを受け止める覚悟も心の準備も何一つできていない。けれどグレンは引くわけでも手加減をするわけでもなく、宣言通り行動に移り始めた。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。