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小話
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しおりを挟む「……浮気はなさらないと信じてますよ?」
「君以外の女性に惹かれた時は、まず離婚してから新しい相手の元へ行くと思っているんだもんな? 確かにそれだと浮気にはならない」
少しずつ慣れてきたとはいえ、それでも至近距離でくらう美形の凄み笑いは恐ろしい。ましてや非はこちらにあるのだから余計に怖い。
「フェリシア」
「グレン様ごめんなさい心の底から反省しています本当にごめんなさい!」
「俺は君以外の女性を愛する事はない。とはいえ、人に心がある以上絶対ないとは言い切れないのもあるから、それで君が不安になるのは当然だ。俺だって、いつか君の気持ちが他の男に向くんじゃないかと思うと胸を掻き毟りたくなる」
「それはないです! だってグレン様より素敵な人なんて他にいませんからね!? グレン様どれだけご自分が魅力的で最高かあまりにも分かってない!」
「全く同じ言葉を返すよフェリシア。君より魅力的で素敵な女性は他にいない」
「贔屓目が過ぎやしませんか……!」
「少なくとも俺にとってはそうなんだ。君のことが愛しくて堪らないのに、どれだけ頭を捻ってもこの気持ちを伝えきるだけの言葉が浮かばない。だからこそ、できる限りの事は尽くそうと思ってこれまで君に接してきたつもりなんだが」
向けられる言葉はどこまでも甘いのに、飛んでくる眼差しと掴んだままの両手がそれだけではないと伝えてくる。おのずと逃げ腰になるフェリシアを、させるものかとグレンが容赦なく追い込む。
「俺の完全な力不足を痛感したよ」
「全くそのようなことは微塵もなく……!」
「いやいや、だって君は仮に、ありえないけど、絶対にないけど、俺が心変わりをして離婚を求めたとして」
「三段階の突っ込みつらいですグレン様!」
「それを回避するための話し合いをするでもなく、あっさり受け入れてさっさと出家する道を選ぶんだろう? つまりは君にとって俺は所詮その程度の存在だと言うわけだ」
「そんなことはありませんってば!!」
「だからフェリシア」
「グレン様今過去最高にこわいですその笑顔ほんとこわいんですけど!」
「今からしっかり、何度でも、君が分かるまで教えるよ――俺がどれだけ君を愛しているか」
これはいつぞやの再来、とフェリシアは声なき声で叫ぶ。それに対しグレンも声には出さずに答える。正解、であると。
一度起き上がったはずが再びベッドに押し倒され、両手はひとつに纏めて頭の上でグレンの右手だけで拘束されてしまう。腰の上には馬乗り状態で彼がおり、あっと言う間にフェリシアの身体の自由は奪われてしまった。
「あの、ほんと、グレン様、あのですね」
「大丈夫だフェリシア、痛いことや怖いことはしないから」
「だから今が一番怖いんですってば!」
「君が気持ちいいことと、ものすごく恥ずかしいことをするだけだ」
「無理ですー!!」
お慈悲を、とフェリシアは本気の涙目で訴えるが、蕩ける様な笑顔を浮かべたグレンに一蹴されてしまう。
「これに関しては自業自得だな、フェリシア」
まさにそれ、とフェリシアもそう思うが、だからといってそれを受け止める覚悟も心の準備も何一つできていない。けれどグレンは引くわけでも手加減をするわけでもなく、宣言通り行動に移り始めた。
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