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小話
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しおりを挟む声が出ない以外はグレンは健康である、とはいえ病人は病人だ。フェリシアは甲斐甲斐しく世話をしている。食事をベッドまで運んだり、薬の用意をしたり、帰宅して気が緩んだのか少しだけ熱を出したグレンの額を冷やしたりと、それはもうつきっきりの看護っぷりだ。他の者が代わりを申し出ても、大丈夫だとそれを断る。さすがにグレンが無理にでも「大丈夫だから」と口を開きかけたが、その前にフェリシアはきっぱりと言い切った。
「私がやりたいんです――だってグレン様のお世話だなんて今までそんなことできる機会なかったし! むしろ私がお世話されてばっかりだったのでそのご恩を返す時って言うかなんて言うか旦那様のお世話をする妻って感じで憧れてたのがやっと……」
そして最早恒例となったフェリシアの「ああああああ」という叫びと、赤裸々な愛妻からの告白にグレンが真っ赤になって固まり、せめて二人っきりの時にやってやくれませんかねえというカーティスの虚無感が屋敷を満たすという事態を経て、今に至っている。
「グレン様、お茶の用意ができましたよ」
一応頑張って眉間に皺を寄せて過ごす様にしているが、それでも口を開けばつい笑顔が溢れてしまう。声が出なくともグレンはニコリと笑みを浮かべて唇の動きで礼を言ってくれるし、大好きな彼と一緒にいられるのだからフェリシアも喜びが滲み出てしまう。
クローディア達に言われた事と、あとなによりも病人の前なのだからあまり嬉しそうな態度はよくない。なのでここ数日でフェリシアはすっかり唇を噛み締める癖ができてしまった。そんな妻の様子にグレンは苦笑する。軽く口を付けた紅茶のカップをベッドサイドのローテーブルに置くと、代わりにそこにあった紙の束を手に取りスラスラと文字を書く。
【あまり唇を噛んでいると血が滲むよ】
声を出せないグレンとの会話をどうするか。その解決方法としてフェリシアは手紙でのやり取りを思いついた。便箋なら自分の机の中にまだたくさんあるからと、色々な種類の便箋を小さな板に挟んでグレンへ手渡し、それ以来ずっと活用している。
「でも……こうでもしないとつい顔がですね……」
【俺もフェリシアと一緒にいられるのが嬉しい。こんな状態だけど】
「ですね……グレン様と一緒にいられるのは本当に嬉しいけど早く元気になってほしいです……けどもうちょっと続いてもいいかなとか……思っちゃってすみません! グレン様は大事なお仕事たくさんあるので迅速に回復してもらわないとですね!」
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