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小話

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「グレンさま、一人だってかっこよくて素敵で大好きなのに、そんなグレンさまがたくさんいたらわたししんじゃう……」

 ぎゅう、とフェリシアが抱きついてくるので、グレンもそれよりも強い力で抱き返した。

「俺はフェリシアが可愛すぎて死にそう……」

 可愛すぎる妻からもたらされる可愛すぎる理由。可愛いが大渋滞だな、とグレンは嬉しいやら恥ずかしいやらでフェリシアの肩口に額をゴリゴリと押し付ける。

「だからグレンさまもたくさんのわたしはいやです」
「ん?」

 蕩けきった上に眠いのもあるのだろう、フェリシアの言葉は一瞬意味が分からない。うつらうつらしつつ、それでもフェリシアはグレンが不思議そうにしているのに気付いたのかどうにか言葉を紡ぐ。

「わたしがいっぱい増えても、グレンさまには私だけじゃないといやなの……です」

 ようやく本当の意味でも夫婦になったのだから、言葉遣いも畏まらなくていいと言っているが、フェリシアは中々癖が抜けない。だって年上ですし、と無意識にこちらの心を抉ってもくる。こんな時でも抜けきれないのかと、グレンは段々とそれすらも可愛く思えてしまうのだから、本当に惚れたが負けとはよく言ったものだと思う。

「今ここにいるフェリシアじゃないフェリシア、が俺と一緒にいるのは嫌なの?」
「……いや……」
「俺を一人占めしたい?」
「うつわがちいさくてごめんなさい……」
「嬉しいよフェリシア。うん、どうか俺を一人占めしてくれ」

 一つ二つ、とフェリシアの顔に唇を落としていく。くすぐったそうに、そしてそれ以上に嬉しそうに笑みを浮かべる彼女に劣情はどんどん煽られるが、これ以上は本当に駄目だと全力で理性の二文字でそれらを抑え込んだ。

 やがてフェリシアはスウスウと気持ちよさそうに寝息を立てる。できればこの不様にも反応している欲を一度吐き出したいグレンだが、かといって彼女の側から一秒たりとも離れたくない。まあ我慢するのは今に始まった事ではないし、と眠るフェリシアの身体を抱き直し、とりあえずグレンも瞼を閉じた。

 きっと、間違いなく、翌朝目を覚ましたフェリシアが悶え転がるだろうなあと思いつつ。



 そんな予測通り、激しく交わった記憶を鮮明に覚えているフェリシアが朝から声なき声を上げ、シーツに丸く包まりブルブルと震えている姿が寝起き早々のグレンの視界に飛び込んだ。



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