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小話
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しおりを挟む「どう……します?」
「君から俺に口付けて」
「……え」
「いつも俺からだろう? だから、フェリシアからの」
「無理です」
「じゃあ話をしてくれるか? 俺はどちらでも構わないけど」
グレンからすれば最大限の譲歩だ。フェリシアにとっては究極の二択だが。
うう、と真っ赤にしたままの顔で今度は恨めしげに見上げるフェリシアに、グレンはまたしても苦笑する。睨まれようがどうであろうが、この腕の中の存在が愛おしくて堪らない。そして欲望も最大限に刺激してくれる。
まだそういった行為に不慣れな彼女なので、どうかこのみっともなく反応している熱に気付きませんように――
涼しい顔をしている夫がまさかそんな祈りを捧げているなど露知らず、フェリシアは茹だった頭で懸命に考え、そして覚悟を決めて行動に移した。
グレンの両肩に手を置いて少しばかり身体を近付ける。そのまま彼の首筋に顔を寄せ、ほんの一瞬ではあるけれど、それでも確かに口付けた。
「……っ、フェリシア」
「し、ました、よ……!」
いっそ泣き出しそうなくらい瞳を潤ませフェリシアは羞恥に耐えている。グレンの我慢は残念ながらもう限界だ。
「どうして、ここに?」
唇、は流石に無理だろうなとグレンも分かってはいたけれど、まさか首筋にしてくるとは考えてもいなかった。てっきり額か頬で済ませてくるだろうとばかり思っていたのに。
「ぐ、……グレンさま、が、いつもここにするなって……」
フェリシアにとって、口付けと言えば唇か頬、そして額とあとは掌くらいしか知らなかった。こんな所に、と驚いたのも、そこから伝わる衝撃も全てグレンから教えられた。
「だから、ここかなって、おもって」
あと単純に一番恥ずかしくない場所だから。そんな理由で選んだ場所が、グレンの理性の壁をぶち抜いたなどフェリシアが気付くわけがない。
これで終わった、と安堵の息を吐くフェリシアは次の瞬間にはベッドに押し倒された。すっかり見慣れた寝室の天井にこれから先の未来を知る。
すまない、と切羽詰まったグレンの声に、フェリシアは最早悲鳴を上げることすら出来なかった。
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