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「グレン様、もうお仕事は終わられたんですか?」
「いや、これからまた城へ戻らないとならないんだが……フェリシア」
「あの……今のは……あれですよ……あれなんですってば」

 フェリシアは懸命に言い訳をしようとするが、何一つ意味のある言葉が出てこない。

「だから美形のすごみ笑いは怖いんです!」

 堪らずフェリシアはポリーを抱き寄せた。椅子に座ったままぎゅう、と抱き締め、ポリーの肩越しにグレンを見る。

「だって、の続きは夜にでもゆっくり聞かせてもらおうか」

 笑顔の圧が酷い。フェリシアは「ひぃ」と零してさらにポリーを抱き締める。ポリーは逆にどうしてこんなにもフェリシアが怯えるのかが分からない。こういう時の空気を読むには、ポリーはまだ経験値が足りていなかった。

「グレン様はフェリシア様が雨で増えたとしたらどうなさいますか?」

 だから元気にグレン相手にでもこんなボールを豪速球で投げ付けてしまう。

「総取りだな」

 それを迷うことなく投げ返す事ができるのは、流石と言えばいいのかそれとも本質的にポリーと同類だと言えばいいのか。どちらにせよ、即答でしかもその中身の残念さにカーティスは軽く瞳を閉じた。

 ふっきれてからの主人のあれやこれやが酷すぎる――

「総取りって、グレン様がひとり占めってことですか? え、私にもください!」

 その話続けるの!? とフェリシアは腕の中の少女に驚きの視線を向けるが、ポリーはそれに気付かず「欲しいです!」と元気にお強請りをしている。雨に濡れて増えたフェリシアを。

「そうだな……ポリーはフェリシアと仲がいいから、一人ならあげてもいい」
「あとマリアさんにもあげてください!」
「ああ、マリアにもあげよう」
「カーティスさんには……あげなくていいと思います。その分私とマリアさんでお世話しますね!」
「ポーリーィー」

 圧を込めてその名を呼ぶが、ポリーはフェリシアに抱かれているので安全だと笑っている。

「フェリシア様どうします? 今晩の食事は子ウサギのパイと親ウサギの香草焼きにでもしましょうか」

 主人を親ウサギ扱いにする不敬っぷりだ。乳兄弟って強いなあとフェリシアは引きつった笑いで誤魔化す。
 親ウサギを食べた所で、反撃とばかりに夜には自分が食べられてしまうのだ。たすけて、とフェリシアは天に祈った。



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