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当て馬と黒い人の(間違った)作戦
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しおりを挟む「ノエルはユフィの加護の力を見るのは初めてだったかな? 彼女の加護については知っている?」
四人での茶会の席、さらには初めて見たであろう婚約者の姿にノエルが動揺していると思ったのか、アレクシスは柔らかな笑顔と声でノエルに話しかける。
「はい! もちろん存じ上げてます!」
なにしろこちらは二人のストーカー、ではなく熱心な信者だ。公表されている情報は網羅している自信はあるし、ユーフェミアの生家である公爵家の領地についても覚え込んでいる。
「ええと、でも、一般的な知識でしかないですけど……【花】の加護というだけで、具体的には」
貴族の持つ加護については詳細までは庶民には知らされていない。それが公爵家ともなれば尚更だ。国政に影響すら与えるかもしれない、と言う事で加護の名称くらいしか知らされず、それ以外は謎、というのも多々ある。
ユーフェミアの持つ【花】の加護もそうだ。ノエルが知っているのは彼女の周りは常に花の良い香りがしていること、そして感情の起伏、特に喜びに溢れた時は周囲に一瞬だけ花が咲くと言う事だけだった。
「花が咲くと言っても、幻覚? だからすぐに消えていく花だからその場には残らないってきいてましたから……その……」
「今こうして僕達が花まみれになっているのには驚いたよね」
アレクシスの髪にもピンクやオレンジの花弁が付いている。ノエルしかり、隣の青年しかり。当然その中心であるユーフェミアにも。
「普段はそうなんだけど、ものすごく嬉しいことがあった時は、こんな風に幻じゃなくて現実に現れるんだ」
クスクスと声を出して笑うアレクシスは珍しい。さらには隣りに座る婚約者の髪に付いた花を丁寧に取っていく姿もだ。ノエルがこれまで見てきた中で、こんなにも気安く彼女に触れる姿を見た事は無い。
「……尊い!」
「そんなに喜ぶことでもあったか?」
思わず漏れ出たノエルの呟きは隣の青年の声でかき消された。黒い人ナイスフォローです! とノエルはテーブルの下で小さく拳を握りしめた。
「そんなにって……当然でしょう!? これを喜ばすにしてどうしろ言うの!? アレク様もそうでしょう!?」
「あーっっっ!! ユーフェミア様もアレクって! アレクって呼んだ! しかもこれ絶対そんな風に呼んでるってご自分では気付いてないやつ! 無自覚! 無自覚に幼馴染み呼びーっ!!」
ノエルは耐えた。全力で耐えた。渾身の力で耐えた。噛み締めた唇の端からほんのりと鉄錆に似た味が広がっているのは気のせいだと言い聞かせる。
「だってアレク様と私以外に、ようやくクロウと呼ばせたい相手ができたのよ! これを喜ばずにしてどうしろと言うの!?」
「――え」
こればかりはノエルは堪えきれずに隣りの青年を見た。だってその呼び方というか名前は、本人がそう名乗ったからであって、そこに特別な意味があるなんて思いもしなかったからであって、だからどうしてそんなにも――青年が驚いた顔をしているのかがノエルには分からない。
分からないが、青年と立てた作戦が即行で失敗であったのだけは理解できた。
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