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当て馬と黒い人の(間違った)作戦
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しおりを挟む優雅なティータイム。席にいるのは王太子とその婚約者であるユーフェミア、そして彼らの護衛であり幼馴染みである黒衣の騎士。そんな三人に囲まれた状態でノエルはとても困惑していた。
この場に自分がいる、という事ではない。むしろこれをチャンスとばかりに本来であれば遠巻きに見守る立場であった青年と参加しているのだ。困惑の原因は他にある。ノエルの向かい合わせの席に座るユーフェミアが泣いている。歓喜の涙だ。それだけでも困惑するが、それに拍車をかけているのがこの目の前に舞い散る色とりどりの花吹雪。ティーカップの中の紅茶にも、用意された茶菓子の上にも、テーブルの上どころかその下にだって花弁が積もっている。
一体どうしてこうなった、と直近の記憶を探れば思い当たるのは一つしかない。
ノエルが彼――普段「黒い人」と呼んでいる青年の事を二人の前で「クロウ様」と呼んだからだ。
なんで黒い人の名前を呼んだだけでこんなことに? と困惑の瞳で隣を見れば、当の本人も心底驚いた、そして困惑した顔をしている。
「黒い人のそんな表情初めて見ました! ってかなんで黒い人まで驚いてるんですか!?」
喉元まで出かかかった言葉をなんとか飲み込めば、喉がギュイと異音を立てた。地味に痛い。
「ああごめんねノエル、驚かせてしまって。ユフィもほら落ち着いて……ノエルがびっくりしてしまっているよ」
「ユフィ!? え、アレクシス様ユフィって呼びました!? それってユーフェミア様の愛称です!? お二人の間だけでしか呼ばないとかなんかそんなやつですー!?」
そう叫びそうになったものノエルは気力で抑え込んだ。ここ最近でもかなりの我慢だと思うわたし偉い! と自分で自分を褒めるが一瞬腰が椅子から浮き、ガタッと派手な音を立てたのは仕方が無いと思う。隣から冷ややかな空気が漂ってくるがそれには気付かないフリをした。
「相変わらず……感情が昂ぶると力の制御が下手だなユフィは」
「だ……誰のせいだと……!」
あ、黒い人もユフィって呼ぶんだ残念、と思わず隣りに突っ込みを入れそうになったのにも耐えた。代わりに目の前でクルクルと表情を変えるユーフェミアの姿を一瞬たりとも見逃すまいと凝視する。その視線に気が付いたのか、ユーフェミアはサッと頬を赤らめたものの、咳払いをするとすぐにいつもの落ち着きのある公爵令嬢の顔に戻り、ノエルに柔らかく微笑んだ。
「ごめんなさいねノエルさん、みっともない所をお見せしてしまって」
それでもユーフェミアの耳がほんのり赤い事をノエルは見逃さない。ものすごく、些細な色合いの変化でしかないが、ずっと彼女を観察、もとい、見つめてきたノエルの目は誤魔化されない。
「恥ずかしがってるのにそれをなんとか押し隠して公爵令嬢としてのお姿は元より、アレクシス様の婚約者として相応しい姿でいようとするユーフェミア様素敵! 尊い!!」
そう思いの丈を叫ぶ事ができたらどれだけよかったか。ノエルは膝の上に置いた両手と共に唇をグッと噛み締めて耐え抜いた。
どうしようこれってある意味拷問では?
秒ごとに繰り広げられる目の前の推しカプのやり取りに耐え続けなければならないとは。これからこの二人に対しノエルは成し遂げなければならない事が山積みだと言うのに。
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