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当て馬の言い分
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しおりを挟む「じゃあもう遠慮なく黒い人を巻き込みますけど……ええと、その前に確認だけだせてください。黒い人には、今お付き合いされている方とか、婚約者とか……好きな方とか、いらっしゃったりはしないんですか?」
まかり間違ってもそんな相手がいて頼める話ではない。きっと彼以上に適任者はいないけれど、それでも駄目な物は駄目だ。そうしたノエルの気遣いに青年は一瞬目を瞬かせる。
「なんですかその顔」
「いや……大丈夫だ、それこそ気を遣わせて申し訳ないくらいに、そういう相手はいない」
「黒い人も貴族ですよね? そんな言い切っちゃうって残念な部類なのでは? 婚約者の一人や二人いないでいいんですか?」
「二人もいたら問題だな。あと俺は、押しつけられる婚約者候補をどうにかしたい。それもあって、君にこの話を持ちかけているのもある」
「つまりは黒い人の虫除けになれと」
「そうだな」
わたしごときで虫除けになるかな? とノエルは首を傾げ、いやそうじゃなくてと思考を急ぎ引き戻す。
「君の方こそそういう相手はいないのか?」
「わたしの心は全てアレクシス様とユーフェミア様に捧げてますから!!」
「君もご令嬢という立場を避けても残念な部類に入るんじゃないのか?」
「しれっと反撃してきたし」
「クロフォード嬢」
「なるほど了解です! わたしにも黒い人にも今のところ想いを寄せる相手はいなくって、そしてお互い利用するに値するしそれに対する気兼ねもいらないと!」
あ、でももう一つ、とノエルは最後の疑問を青年へ投げかける。
「わたしに逃げられると困るってなんですか?」
なんとなく、これまで話をしてきた理由ではないような、そんな感じをノエルは受けていた。そしてその感は正しく、しかし予想だにしない答えだった。
「君が俺にとって貴重な存在だからだ」
「……加護なしだから?」
いいや、と青年は頭を振る。
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「そんなに、だ」
「えええ……光栄、です?」
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ここにノエルと青年の間で婚約が成立した――契約上の。
「あ、ところで黒い人に一つお尋ねしたいんですけど」
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この日、ノエルは初めて青年の本気の顰めっ面を拝む事となった。
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