他人の恋はままならぬ

新高

文字の大きさ
上 下
16 / 18
当て馬の言い分

16

しおりを挟む



「じゃあもう遠慮なく黒い人を巻き込みますけど……ええと、その前に確認だけだせてください。黒い人には、今お付き合いされている方とか、婚約者とか……好きな方とか、いらっしゃったりはしないんですか?」

 まかり間違ってもそんな相手がいて頼める話ではない。きっと彼以上に適任者はいないけれど、それでも駄目な物は駄目だ。そうしたノエルの気遣いに青年は一瞬目を瞬かせる。

「なんですかその顔」
「いや……大丈夫だ、それこそ気を遣わせて申し訳ないくらいに、そういう相手はいない」
「黒い人も貴族ですよね? そんな言い切っちゃうって残念な部類なのでは? 婚約者の一人や二人いないでいいんですか?」
「二人もいたら問題だな。あと俺は、押しつけられる婚約者候補をどうにかしたい。それもあって、君にこの話を持ちかけているのもある」
「つまりは黒い人の虫除けになれと」
「そうだな」

 わたしごときで虫除けになるかな? とノエルは首を傾げ、いやそうじゃなくてと思考を急ぎ引き戻す。

「君の方こそそういう相手はいないのか?」
「わたしの心は全てアレクシス様とユーフェミア様に捧げてますから!!」
「君もご令嬢という立場を避けても残念な部類に入るんじゃないのか?」
「しれっと反撃してきたし」
「クロフォード嬢」
「なるほど了解です! わたしにも黒い人にも今のところ想いを寄せる相手はいなくって、そしてお互い利用するに値するしそれに対する気兼ねもいらないと!」

 あ、でももう一つ、とノエルは最後の疑問を青年へ投げかける。

「わたしに逃げられると困るってなんですか?」

 なんとなく、これまで話をしてきた理由ではないような、そんな感じをノエルは受けていた。そしてその感は正しく、しかし予想だにしない答えだった。

「君が俺にとって貴重な存在だからだ」
「……加護なしだから?」

 いいや、と青年は頭を振る。

「アレクシスとユーフェミアの愚痴を唯一言い合えるから」
「愚痴」
「あの二人の愚痴なんてそうそう言えないだろう?」
「……そう、ですね」
「やっと見つけた存在を手放したくない」
「今まで黒い人と話をしてきた中で一番感情こもってますね!? え、そんなに!? そんなにです!?」

「そんなに、だ」
「えええ……光栄、です?」

 なんと返していいものか分からず、ノエルの口からはそんな言葉がポロリと零れた。
 とにもかくにも、お互いの利害が一致している以上乗るしかないこの話、というわけで。
 ここにノエルと青年の間で婚約が成立した――契約上の。






「あ、ところで黒い人に一つお尋ねしたいんですけど」
「まだなにかあるのか?」
「黒い人の名前ってなんですっけ?」

 この日、ノエルは初めて青年の本気の顰めっ面を拝む事となった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...