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当て馬の言い分
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しおりを挟む王太子の専属護衛でありつつ、さらには王太子とユーフェミアの幼馴染みである目の前の黒い人。まさにこれ程までにうってつけの相手はいないだろう。ノエルの頭に浮かんだのも彼の姿だ。
が、しかし、である。
いくらなんでもさすがにここで「じゃあ黒い人わたしと結婚してください!」だなんて頼める様な度胸はノエルには無い。うん無理、とノエルはその選択肢を即座に捨てる。
だって彼にはこれまでずっと世話になっていると言うか迷惑をかけ続けているのだ。ひたすら愚痴を聞かせるというだけの物、ではあるけれども、それに付き合うのは精神的によろしくはないだろう。自分のみならず、他に二人も相手にしているとなれば尚更。
そこにさらに結婚までだなんて。
ノエルが結婚したいのは、側室と言う立場に押し込められるのを回避したい、ただそれだけだ。
「それに黒い人を巻き込むほどわたしロクデナシじゃないですし!?」
「――クロフォード嬢」
「はい!」
突然叫び出したノエルに構わず、青年はいつも通りの静かな声と眼差しを向けてくる。ノエルは思わず居住まいを正した。
「ここは一つ取引といかないか?」
「……はい?」
「君は側室になるのを回避するために結婚がしたい」
「ですね」
「俺は俺で君が側室になるのを止めさせたい」
「はあ」
「かと言って誰かと結婚されて逃げられるのも困る」
「え」
「だから俺とひとまず婚約しないか?」
「こ……っ、ん、やく……?」
わたしと、あなたが? とノエルはゆっくりと自分と青年を交互に指さす。青年はコクリと頷いた。
「そう。俺と君とで婚約という形を取れば、君の王太子の側室への道は消えるし、俺は君に逃げられずに済む」
「ええと……ちょっと待ってくださいね黒い人、わたしちょっとかなり混乱ってか動揺が」
言葉が耳に入って脳に届いているのにそれを理解するのに時間がかかる。気になる単語が多すぎて、ノエルは文字通り頭を抱えた。
「ああ、婚約と言っても本当にするわけじゃない……いや、一応正式な書類の提出や周囲への告知はしないといけないが、期間が過ぎれば解消する、契約上の婚約だな」
「疑問がまた増えた!」
「俺に答えられる範囲なら答えるが?」
「むしろ黒い人以外に答えられる人なんていませんけど!?」
なにしろ会話をしている相手は彼だ。他に誰が答えられると言うのか。
「黒い人ってもしかして天然……?」
「天然?」
「あ、そこは拾わなくていいです話が拗れちゃいそう。えー……話を整理しつつ質疑応答いいですか黒い人!」
ノエルの言葉に青年は「どうぞ」と短く返す。
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