13 / 18
当て馬の言い分
13
しおりを挟む王太子の専属護衛でありつつ、さらには王太子とユーフェミアの幼馴染みである目の前の黒い人。まさにこれ程までにうってつけの相手はいないだろう。ノエルの頭に浮かんだのも彼の姿だ。
が、しかし、である。
いくらなんでもさすがにここで「じゃあ黒い人わたしと結婚してください!」だなんて頼める様な度胸はノエルには無い。うん無理、とノエルはその選択肢を即座に捨てる。
だって彼にはこれまでずっと世話になっていると言うか迷惑をかけ続けているのだ。ひたすら愚痴を聞かせるというだけの物、ではあるけれども、それに付き合うのは精神的によろしくはないだろう。自分のみならず、他に二人も相手にしているとなれば尚更。
そこにさらに結婚までだなんて。
ノエルが結婚したいのは、側室と言う立場に押し込められるのを回避したい、ただそれだけだ。
「それに黒い人を巻き込むほどわたしロクデナシじゃないですし!?」
「――クロフォード嬢」
「はい!」
突然叫び出したノエルに構わず、青年はいつも通りの静かな声と眼差しを向けてくる。ノエルは思わず居住まいを正した。
「ここは一つ取引といかないか?」
「……はい?」
「君は側室になるのを回避するために結婚がしたい」
「ですね」
「俺は俺で君が側室になるのを止めさせたい」
「はあ」
「かと言って誰かと結婚されて逃げられるのも困る」
「え」
「だから俺とひとまず婚約しないか?」
「こ……っ、ん、やく……?」
わたしと、あなたが? とノエルはゆっくりと自分と青年を交互に指さす。青年はコクリと頷いた。
「そう。俺と君とで婚約という形を取れば、君の王太子の側室への道は消えるし、俺は君に逃げられずに済む」
「ええと……ちょっと待ってくださいね黒い人、わたしちょっとかなり混乱ってか動揺が」
言葉が耳に入って脳に届いているのにそれを理解するのに時間がかかる。気になる単語が多すぎて、ノエルは文字通り頭を抱えた。
「ああ、婚約と言っても本当にするわけじゃない……いや、一応正式な書類の提出や周囲への告知はしないといけないが、期間が過ぎれば解消する、契約上の婚約だな」
「疑問がまた増えた!」
「俺に答えられる範囲なら答えるが?」
「むしろ黒い人以外に答えられる人なんていませんけど!?」
なにしろ会話をしている相手は彼だ。他に誰が答えられると言うのか。
「黒い人ってもしかして天然……?」
「天然?」
「あ、そこは拾わなくていいです話が拗れちゃいそう。えー……話を整理しつつ質疑応答いいですか黒い人!」
ノエルの言葉に青年は「どうぞ」と短く返す。
10
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる