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当て馬の言い分
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しおりを挟む「親と親、国のためにと決められた婚約だから、ようやく心から好きだと思える相手ができたんじゃないかと」
「ないないない、そんなの絶対ないですって! 黒い人もっとしっかりちゃんとはっきり言ってください!! ユーフェミア様に誤解されるだなんてわたしそんなの耐えられない!」
「言ってる。何度も。くどいくらい。律儀に付き合ってやってる俺は相当偉いんじゃないかと思うくらい言ってるんだ」
「黒い人なんだかキャラが違いませんか」
「クロフォード嬢」
「なんですか」
「ひとつ言ってもいいだろうか」
「……どうぞ?」
「ぶっちゃけ面倒くさくて堪らない」
「思いっきりぶっちゃけましたね」
女性からの相談事なんて相談と言うよりもただの愚痴だ。それが恋愛沙汰ともなれば尚更。それに毎回付き合わされるとなると確かに面倒くさいだろうなと、目の前で渋面を浮かべる青年に初めてノエルは同情した。
ぐったりとした様子で項垂れる青年はどうやらこれまでの相談の中身を思い出しているようだ。黒い人がこんなになるまでだなんて、とノエルは思った。まあ言うほど彼のことは知らないけれども。
「黒い人だいぶお疲れですね?」
「同じ相談を何度も何度も、しかも二人がかりでされるとさすがにこう……うん……」
そんなにまで、とちょっとばかり本気で気の毒になりつつ、しかしそれにしてもとノエルは疑問を口にする。
「でもちょっと不思議です」
「……なにが?」
「お二人とも人の話を真っ向から拒絶するタイプじゃないじゃないですか。黒い人がそんなになるまで相手をして言ってるのに、信じないのってどうしてかなって」
ああそれは、と青年は俯いていた体を起こすと真っ直ぐにノエルを見る。
「あの二人は頑固だから」
「頑固」
まさかの返しについ鸚鵡返ししてしまうが、青年は気にする事無く話を進める。
「頑固で融通が効かない二人なんだ。あと本当に真面目。真面目すぎる」
「そんな忌々しげに言わなくても」
「王族として、貴族として、らしくあれ、とそういう風に育てられてきた二人だから、とにかくそれを守らなくてはならないと自分に言い聞かせて貫いて突き進むんだあいつらは」
「そんな風に見せませんけど」
「外面」
「そとづら」
「クロフォード嬢の前では、立派だと思われる姿を見せなければと気を張っているだけだ」
「代わりに自分の前だと素を見せるって言いたいんですか羨ましい」
「君もちょこちょこ面倒くさいなクロフォード嬢」
「今更では?」
「たしかに」
自分で言いはした物の素直に頷かれると腹は立つ。つい頬を膨らませてしまうノエルだが、青年は気付かない、素振りで見事に流してくる。これまた腹が立つことこの上ない。
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