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当て馬の言い分
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しおりを挟む「それってつまりはわたしのことをただの道具扱いってことですよねむかつくー!!」
権力闘争の便利な駒の一つ扱いだが、それにしたってノエルの人権無視も甚だしい。【加護なし】に降り懸かる災厄の典型的で、そして女としてこれほどまでに腹立たしく傷付けられる物も無い。
「そこに関してはこちらもあまり大きな口は叩けない話ではあるが……」
気まずそうに青年が口元を覆う。おお珍しい黒い人が感情を見せてる、ってそうじゃない、とノエルは反れそうになった思考を戻す。今とてつもなく気になる話が飛び出たはずだ。
「なんですか? え、黒い人もまさか胃弱ネズミと同じことを?」
「……話の前に一ついいかクロフォード嬢。胃弱ネズミって誰の」
「宰相」
ぐ、と青年の喉が鳴る。口元を覆ったまま、だが瞳が軽く見開かれているのでこれは多分きっとおそらく笑いを堪えているに違いない、とノエルは思った。
「なんだかあの人胃が弱そうじゃないですか。いつも顔色悪いし。目の下クマあるっぽいし。あと陰湿そう。暗いじめっとした所似合いそうだし隅っこ好きそうだしお金貯め込んでそうでパッと浮かんだのがネズミに似てるなって」
ノエルは人の名前と顔を覚えるのが苦手と言うわけではけしてない。が、覚える気がない相手であれば一向に覚えようとはしないので、宰相のことは心の中でずっとそう呼んでいる。
「あ、胃弱ネズミは悪意しかないですけど、黒い人のことはたんに改めて聞くのがめんど……気恥ずかしいなっていうので黒い人ってだけなので。大丈夫ですよ!」
なにが大丈夫なのかノエル自身もよく分からない。しかし青年はそれで良しとしたのか、はたまた話題があさっての方向に飛びすぎたので戻そうとしているのか、この件はここで終わりにしたようだ。
「宰相が君を利用しようとしているのとは別の目的ではあるが、我々も君という存在を利用したかったんだ」
「我々と言うと……王族派? の人達ってことですか?」
そうだ、と青年は頷く。
「そんなに加護なしって利用価値があるんです?」
「こちら側としては君が加護なしというのは関係ないな」
「うん?」
「いい意味で、君がアレクシスとユーフェミアのなんだ……当て馬? になって欲しかったんだ」
「はい?」
意味が全く分からない。ノエルは頭上にいくつもの疑問符を浮かべて目の前に座る青年を見つめる。その視線を受けて彼はひどく重い息を吐いた。
「クロフォード嬢から見ても、あの二人は互いに好き合っていると思えたんだろう?」
「そう言ってますけど」
「俺も、俺以外の周囲の人間もそう思っているんだ」
「ですよね」
ところが、本人達だけがそれに気付かない。お互いに、国のためにと幼い頃に無理矢理決められた婚約者で、今もそれに従っているだけだと思っている。
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