他人の恋はままならぬ

新高

文字の大きさ
上 下
6 / 18
当て馬の言い分

しおりを挟む


「なにが楽しくて自分が一番幸せになって欲しい二人の間の邪魔をしないといけないんですか!」

 手元の草をブチブチと抜きながらノエルは訴える。

「だいたいお二人ともあれだけ想い合っているんだから無駄もいいところなのに!」

 その言葉に青年の眉がピクリと動く。それに気付いたノエルは「なんですか」と頬を膨らませた。

「誰がどう見たってお似合いの相思相愛じゃないですか」

 黒い人は間近でなにを見てるんですか、と嫉妬の炎を隠そうともしない。
 そう、ノエルはこの黒い人が羨ましくて仕方がなかった。王太子とその婚約者の二人、の護衛として常に側に立つ彼は、これまた二人の幼馴染みであるらしい。
 幼馴染み。つまりは、ノエルが目にする事のできなかった、幼い頃の二人の姿を知っているという事だ。

「今でさえあんなにもお美しくて愛くるしいお二人の……特にユーフェミア様の子供の頃とか見たすぎるっていうのに……!!」
「クロフォード嬢の目にも、二人は想い合っている様に見えるのか」
「は? なに言ってるんですか? そんなの当たり前じゃないですか」

 馬鹿なの? と目に物を言わせてノエルは青年を睨み付ける。

「お二人とも、わたしにずっとお相手のことしか話しないですからね!」
「それは君がそう話題を振っているからだろう?」
「それもあります。けどですよ、一旦その話題になったら後はもうずっとですずっと! しかもすっっっごく嬉しそうって言うか、幸せそうなお顔なんですよユーフェミア様なんて薄ら頬を赤く染めてらしたりなんかして! その時のわたしの心境わかります!?」
「別に知りたくはないから大丈夫」
「女神の微笑みですよ! 恋する乙女のご尊顔を至近距離!! 天に召される寸前なんですから!」

 青年の返しを無視して話を進めるのはいつもの事である。なので青年は気にするでもなく、そしてノエルはもっと気にしていない。ノエルにとって青年はあくまで愚痴を投げ付ける黒い壁認識だ。

「そうか……」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐノエルの声に青年の静かな呟きが混じる。ピタリとノエルは固まった。彼がそんな風に声を零すのは珍しい。そう言えば今日はいつもより会話が挟まる気がする。普段はひたすらノエルが騒ぎ、頃合いを見計らって青年が「そろそろ時間だ」と場の終了を知らせるだけなのに。

「黒い人どうかしたんですか?」
「いや……まあ、宰相の目的は君にあの二人の邪魔とか略奪とか……してくれたら御の字ではあるんだろうけど、それはあくまで可能ならってくらいだろうからな」
「ん? なんです? もっと他にわたしになにかさせたがってるってことですか?」
「ユーフェミアの実家は王族派の筆頭なのは知っている?」
「そりゃあ……それくらいは……ええと、ウェルボーン公爵家、でしたよね?」

 そう、と青年は頷く。王家をそれこそ建国の時から支え続けている一族である。【加護】も王家に継ぐ強さを誇り、民衆からの支持も厚い。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

処理中です...