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当て馬の言い分
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しおりを挟む「なにが楽しくて自分が一番幸せになって欲しい二人の間の邪魔をしないといけないんですか!」
手元の草をブチブチと抜きながらノエルは訴える。
「だいたいお二人ともあれだけ想い合っているんだから無駄もいいところなのに!」
その言葉に青年の眉がピクリと動く。それに気付いたノエルは「なんですか」と頬を膨らませた。
「誰がどう見たってお似合いの相思相愛じゃないですか」
黒い人は間近でなにを見てるんですか、と嫉妬の炎を隠そうともしない。
そう、ノエルはこの黒い人が羨ましくて仕方がなかった。王太子とその婚約者の二人、の護衛として常に側に立つ彼は、これまた二人の幼馴染みであるらしい。
幼馴染み。つまりは、ノエルが目にする事のできなかった、幼い頃の二人の姿を知っているという事だ。
「今でさえあんなにもお美しくて愛くるしいお二人の……特にユーフェミア様の子供の頃とか見たすぎるっていうのに……!!」
「クロフォード嬢の目にも、二人は想い合っている様に見えるのか」
「は? なに言ってるんですか? そんなの当たり前じゃないですか」
馬鹿なの? と目に物を言わせてノエルは青年を睨み付ける。
「お二人とも、わたしにずっとお相手のことしか話しないですからね!」
「それは君がそう話題を振っているからだろう?」
「それもあります。けどですよ、一旦その話題になったら後はもうずっとですずっと! しかもすっっっごく嬉しそうって言うか、幸せそうなお顔なんですよユーフェミア様なんて薄ら頬を赤く染めてらしたりなんかして! その時のわたしの心境わかります!?」
「別に知りたくはないから大丈夫」
「女神の微笑みですよ! 恋する乙女のご尊顔を至近距離!! 天に召される寸前なんですから!」
青年の返しを無視して話を進めるのはいつもの事である。なので青年は気にするでもなく、そしてノエルはもっと気にしていない。ノエルにとって青年はあくまで愚痴を投げ付ける黒い壁認識だ。
「そうか……」
ぎゃあぎゃあと騒ぐノエルの声に青年の静かな呟きが混じる。ピタリとノエルは固まった。彼がそんな風に声を零すのは珍しい。そう言えば今日はいつもより会話が挟まる気がする。普段はひたすらノエルが騒ぎ、頃合いを見計らって青年が「そろそろ時間だ」と場の終了を知らせるだけなのに。
「黒い人どうかしたんですか?」
「いや……まあ、宰相の目的は君にあの二人の邪魔とか略奪とか……してくれたら御の字ではあるんだろうけど、それはあくまで可能ならってくらいだろうからな」
「ん? なんです? もっと他にわたしになにかさせたがってるってことですか?」
「ユーフェミアの実家は王族派の筆頭なのは知っている?」
「そりゃあ……それくらいは……ええと、ウェルボーン公爵家、でしたよね?」
そう、と青年は頷く。王家をそれこそ建国の時から支え続けている一族である。【加護】も王家に継ぐ強さを誇り、民衆からの支持も厚い。
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