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当て馬の言い分
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しおりを挟む「だからわたしをいつまでも街に置いてたらいつかそういった下衆貴族に目を付けられて無理矢理結婚とかさせられてただの加護の増幅装置みたいに扱われるのは許されないからって引き取ってくださったのはわかりますよ!? ええそりゃもう突然すぎたしそれから先ずっとお貴族様の勉強させられたせいで中々お世話になったおじさんおばさんあと友達に挨拶できなかったり! 貴族の習慣ぶっちゃけ面倒くさい!! 帰りたい!! ってなったりしたけどでもエルンスト様もソフィア様もすっごく怖いけどでも悪い人じゃないしわたしのためだってのが一番にあるし時々笑ってくださったりしてなるほどこれがツンデレね!? って思ったらツンデレ貴族夫婦たまらん! ってなってそれなりにお屋敷での生活も楽しかったのに!!」
だと言うのに、三ヶ月前にノエルは突然王宮に呼び出された。
なんと言う事か、年の近い王太子とその婚約者であるユーフェミアのご学友にと選ばれたのだ。
「ご学友ったってわたしちっとも学がないしってかそもそも学校行ったりとかお二人と一緒に勉強するわけでもないのに!? ご学友って!? なんですか!!」
ノエルは慌てふためいた。憧れの、最近は本当に夢にまで見るようになった二人を間近で見られるという喜びと、そもそも次元が違う二人に自分の様な存在が近付いて言い訳がないという熱狂的信者の心理がせめぎ合い、結果信者の心が勝利した。だから元気に「無理です!」と断ったのだがそこは貴族社会、はいそうですかでは終わらなかった。
ここ数年、王宮での権力を広げつつある宰相からのご指名とあっては侯爵家に断る術は無く、ノエルはあっという間に王宮に引きずり出された。
初めて対面した時の王太子とユーフェミアの眩さといったら。ノエルは感極まって涙を零し、奇声を上げながらその場を走り回りそうになった。勿論、これまで生きてきた中で最大限の自制心を持ってそれに耐えたが。
ようこそ、と微笑みかけてくれた王太子。
これから仲良くしてくださいね、とそっと手を取ってくれたユーフェミア。
いつ死んでもいい、とノエルは思った。いやでも死ぬならこの二人の幸せのために、とすぐに思い直した。自分なんかよりも遙かに優れた二人に対し、一体なにができるのか皆目見当もつかないが、それでも邪魔だけはしないように頑張ろうと固く心に誓ったあの日。
なのに、本当に人生はままならない。
宰相がノエルをごり押ししてきたその理由。それがまさか。
「わたしにお二人の仲を引き裂けってあんまりだーっ!!」
自分が人生で一番推しているカップルの当て馬、ではない。略奪する側に押し込まれる事になろうとは。
ダンダン、とノエルは地面を叩いて咽び泣く。
そんな彼女の姿を黒服の青年はいつもの如く呆れた様に眺めるだけだった。
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