他人の恋はままならぬ

新高

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当て馬の言い分

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 ようやくノエルを見つけ出した時は、すぐさま引き取ろうとしたそうだ。しかしノエルはすでに自分の生活をしっかりとしている。ここで侯爵家に引き取り、そのまま貴族社会に引きずり込むのは果たしてあの子の為になるのだろうか。ソフィアとエルンストは連日話し合い、最終的に彼女が安心して暮らせるように影ながら支援しようと決めた。

「……あ! もしやうちのお店にやたらと大口の注文が入ったり、羽振りのいいお客さんが来てたのって」
「口添えは確かにしたわね。でもそれ以降も続いていたのは純粋にあの店の商品が美味しかったからよ」

 ニコリともしないが、それでもソフィアの言葉はノエルを素直に喜ばせた。そうようちのパンは王都一、とまで言わないけど五本の指には入るくらいには美味しいんだから! お店、六軒しかないけど!!
 そうやってフフンと薄い胸を誇らしげに反らすノエルだが、すぐに疑問が浮かぶ。

「影ながら支援してくださってたのに、どうして今わたしはこちらのお屋敷に?」

 豪華絢爛な貴族社会に憧れがないとは言わない。美味しい物を食べてみたいし、綺麗なドレスだって着てみたい。しかしそれはあくまで夢見る存在だからこそ胸躍るのだ。実際の貴族社会がそんな綺麗で美しいものだけではないという事をノエルは知っている。恋愛小説の中で、だけれども。
 ノエルの率直な疑問にしかしエルンストもソフィアも眉を寄せて口ごもっている。そんなに言い辛い事なのかと治まっていたはずの震えがノエルを再び襲う。

「ノエル……貴女【加護なし】でしょう?」




 神聖ハイランズ王国。天地創造の神の末裔と言われる王族を筆頭に、国民は皆なにかしらの加護を持つ。王族は神と同等と言われる【光】の加護を持ち、この国を余すところなく照らし、国に繁栄をもたらしている。現王太子のアレクシスは特にこの加護が強く、始祖の再来とまで言われており、婚約者であるユーフェミアは【花】の加護を持つために女神の生まれ変わりとこちらもまことしやかに囁かれている。

 各貴族も家により加護を持ち、それは庶民であっても同じだ。身分が下になればなるほど微力になるけれども、誰しもが持つ力――ハイランズの加護。

 しかし希にその加護を得ずに生まれてくる者がいる。ノエルもその一人だった。

 加護を持たない者は虐げられる、と言う事はあまりない。逆に重宝される存在である。

 加護を持つ者同士の婚姻はどちらかの力が失われてしまう。それは庶民の間であればまだしも、貴族社会においては家名を乗っ取られる感覚に近く、仕方がない事とはいえできれば相手の血を己の家に取り込みたいとそれぞれが狙っている。【加護なし】はそんな貴族にとっては、喉から手が出るほどの存在だった。加護を持たない相手であるからして、己が家の持つ加護を乗っ取られる事がない。それどころか、上手くいけば自分達が持つ加護の力を増幅させてくれる可能性もある。実際、過去に幾つかの家が【加護なし】を娶り、自家の力を強力な物にした例が存在しているのだ。故に貴族は【加護なし】を欲している。特に、未婚の若い娘を。


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