バーサスAI

安太郎

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第5話

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ゴブリンキングは片目を抑えて、フラフラと蹌踉めく。

「片目を潰した!」

「奴の死角に回って身を隠そう。」

頷き、右前方の茂みに身を潜めた。

これで、茂みを荒らされない限りは大丈夫だ。
エクスも俺の視界にはいないが上手く隠れている。

今すぐこの場から離れたい衝動に駆られるが下手に動けば見つかる恐れがある。
ただ今はジッとすることを決めて、呼吸も自然と最小限になる。

そして、ゴブリンキングはというと片目をギョロつかせて辺りを見渡している。
俺たちを探しているようだった。

[スキル〈潜伏〉を獲得しました]

唐突に現れたそれに一瞬体が強張った。

スキル獲得?

[潜伏を発動しますか?]

そのメッセージをみて「はい」と答えると俺の体は僅かにだが半透明になった。
しかし、体感でどれほど潜伏力が向上したかわからない。
下手に動けないことには変わらなかった。
今だにゴブリンキングは俺達の事を探して、その場から動こうとしない。

「……?」

ゴブリンキングの動きが止まり、不自然に身を屈めた。
エクスがバレたのかと思った。
ゴブリンキングの視線の先にあるものは何かと先を見た。
しかし、そこには誰もいない。

何を見ている?

ただ、ゴブリンキングには俺には見えていない何かが見えていると咄嗟に思った。
出来る限り目を凝らし、ゴブリンキングの見つめる先を注視した。

[スキル索敵を獲得しました。]

[索敵を発動しますか?]

「はい。」

目の前は僅かにクリアになり、暗闇の中を注視した。

「誰かいる!」

暗闇の中で僅かに動いた人影を見た。
距離はそれなりにあると思えた。
ゴブリンキングとのエンカウントする範囲がどれだけ広いのかと驚かされる。
そして、ゴブリンキングの標的はあの人影に移ったわけだ。

生き残るためならば放置して、この場から逃げるのが得策だ。
それに、片目を潰している。
あの人も容易に逃げられはずだ。
そう、逃げる為の言い訳が頭をよぎる。

……慈善活動をしていいのは今までのゲームだけだ。

頭の中で結論づけてそう締め括った。
その時、一本の矢が茂みから飛び出していったのを視界で捉えた。
しかし、その矢はゴブリンキングではなくその人影の足元辺り落ちたように見えた。

エクスがあの人に危険である事を弓矢で伝えた。
そのプレイヤーも立ち止まりこちらを見た。

ドンッ!!

地響きが鳴った。
ゴブリンキングが見つかったと思ったのかその人影に向かって急激に加速したのだ。

「……なっ!?」

驚きで声を上げるが立ち上がるのに一瞬、躊躇をする。

どうする?
一度助ける事を諦めた。
だが、この場にまだいるせいで選択肢が頭の中に過ぎってしまう。
あの人影は1人だ。
あの、ゴブリンキングをどうにか出来るわけがない。
助けるか、助けないか。

敵は俺たちに背を向けた。
今なら両目を潰せれる。
思考が助けられるかどうかの段階にシフトする。

やれる!

俺は駆け出した。
エクスに援護を頼む事は言わなくても伝わるはずだ。
足音をできるだけ殺し、身を屈め、速くゴブリンキングに跡を追う。

目の前で金属同士の衝突で火花が散る。
戦闘は始まっている。

ゴブリンキングは完全に目の前の敵にフォーカスしていた。

背後は取った!
あとはタイミング!
敵が振りかぶった瞬間を!


……狙う!!

ゴブリンキングが大きく振り上げだ瞬間を狙った、右目。
こちらに視線が一瞬向いた。
しかし、遅い。
血飛沫が飛び、確実に両目を潰した。

「まだ!!」

しかし、油断はできない。
ゴブリンキングの背にあった錆びた大斧を取り出し、両足を斬りつけた。

ゴブリンキングは膝をつき、それを確認して、退く為の声をあげようとした。

「おいっ!」

手負いのモンスターだ。
いけると判断したのだろう。
もしくは、現れて早々に膝をついたところから雑魚と判断したか。
その人はゴブリンキングの首に一太刀。

しかし、刃は僅かに表面の皮膚を切り裂いたところで止まる。

「硬いっ!」

足を斬ったと言えど同じく表面切り裂いた感覚しかなかった。
すぐにコイツは立ち上がる。
ここまでやったのに決定打がなり得るものがない以上ここまでだ。

「そこの人!退くぞ!」

そう、声をかけた。
大人しく退くかはわからなかったが納刀したのを見た。
そのまま、エクスと合流してその場から足速に立ち去る。


***


街につき、腰のベンチに腰掛ける。
しかし、街に出る前と出た後で人数が1人増えていた。

「大丈夫でしたか?」

先程助けた長い黒髪の女性。
年齢はおそらく同じくらい。
装備は俺たちと同じ初期装備。
武器は刀。

「ええ、大丈夫よ。
ところで、アレはなんだったの?」

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