バーサスAI

安太郎

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第2話

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どれくらい眠っていただろうか。
時刻は20時。
このゲームは日曜日の12時に始まった。
そして、意識が遠のいたのは1時過ぎ頃だった。
だから、7時間程か。

「今頃、僕たちの身体は病院のベッドの上だね。」

「起きたのか。」

ベンチで隣で寝ていたエクスも起きた。
起床したエクスは顔色はいつものままだった。

「動揺……は全くしてないな。」

「そういう、シキもだよ。」

そう言われて酷く自分が落ち着いていることに気づく。
だが、実際には違うのだろう。
頭は黒い霧がかかり思考が回らない感覚。
無意識下で動揺しているのだろう。

「現実とかけ離れ過ぎている。」

不意に溢れた心の芯から来る言葉だった。

「あと、一眠りした影響かな。」

寝ぼけている。
実際に朝起きた時の感じに似ている。

「僕も同じ感想だよ。」

二人してベンチに腰掛けて空を見上げて、静寂が訪れた。
周りに他のプレイヤーがいないせいもある。
だが、頭を整理するにはいい時間だった。

「はぁぁ……」

一つ呼吸を吐いた。
夜風に当てられて頭が回り始める。

「どうする?」

「どうするってゲームクリアでしょ。」

当たり前のことを言われて、俺はクスッと笑みを溢した。

「それをどうやってするかを聞いてんだよ。それに、敵の黒の軍勢って……」

「AIって言ってたよね。
つまり、一万人 対 一万体のAI。
一見するとただのモブ狩りだけど。
多分違うんだよね。」

他のゲームでもAIを取り入れたゲームは存在する。
しかし、どれもパターンというものが必ず存在する。
パターンが存在するのは運営がある一定で強さの限界を決めているからだ。
だが、今回のは……

「際限なく強くなる敵。
でも、逆を言えば速攻で攻め込めば圧倒的に有利はこちら側。
時間を掛ければこちらが不利。」

「そうみたいだね。
同じ事を思った人が多いみたい。」

白側の全体チャットに同じ事を考えてプレイヤーを募る掲示板がいくつも作られ始めていた。
しかし、参加人数が芳しくない。
理由は分かっていた。
チャットにも不安を煽るようなコメントが幾つもされている。
それはあの総務省大臣の言った命を預けろの意味だ。
ファンタジー世界でよくあるゲーム世界の死が現実の死である可能性。
それが捨てきれない。

そして、実際に俺達も参加しようとは軽々しく言えない状況だ。

「シキは今までゲームで何回死んだ?」

「……数え切れない。」

「僕もだよ。数え切れない。」

今までの世界は何度でも死を繰り返して、情報を得た。
それがゲームの醍醐味とも言える。
しかし、今回はそれができないかもしれない。

「現実ではどうなってる?」

この世界は現実のニュースが見られるようになっている事を思い出す。

「ニュースは〈バーサス〉で持ちきりだけど欲しい情報はないかな。
あ、でも、専門家は早期に倒す事を推奨してる。
育つ前に倒せってさ。」

「そういえば、このゲームのクリアって確か敵の拠点を落とす事だよな。」

マップを出し、俺達は取り敢えず情報の整理を始める。

白の本拠地は俺たちのいる〈オリジン〉は北に敵の本拠地は南に存在している。
直線距離にして100キロ。
この世界は円形上になっている。
しかし、分かるのはそれだけで敵の本拠地周辺の地形なんかはまるでわからない。
そこは開拓していく地道な作業がいる。

しかし、時間を掛けなくてはいけない作業がいるのに時間を掛けてはならない。

「AIが有利か?」

「そうでもないんじゃない。
AIが早期に倒す事を推奨しているってことはまだ全然思考回路ができてない。
思考ができてもそれから装備を作り出すなら時間がかかる。
物量戦になると予想してステータスの差で一気に叩くって方法もあるんじゃないかな。」

「後はAIの育つ速度がどんなものかか。」

「でも、取り敢えず人ではいる。
この最も参加人数が多いグループに参加しよう。」


***


時刻は夜10時過ぎ。
掲示板に示されていた会場には約100名ほどの人数がいた。
そして、壇上がありそこには三名の人が上がっている。
その中でもガタイのいい大男。
装備は片手剣と大きな盾。

「夜遅くの呼び掛けに応じてくれた事にまずは感謝いたします。」

会場は外だが全体に十分に響く声。
周りもその男を注視し、息を呑む。

「まず最初にこの会議の目的を言わさせていただきます。
私達はこの場にいる全員でギルドを結成しようと思います。
全員、生き残り、そして勝ち、現実へと帰還を目指すそんなギルドの創設をします。」

周りから歓声が上がる。
こんな世界では夢のようなギルドだ。

「それにあたるギルド内ルールを言わさせていただきます。」

そう、大男が締め括ると隣にいた金髪の女性が前に出た。

「では、私から述べさせていただきます。」

凛とした声で響くルール。
1.毎日レベルアップノルマの達成。
2.得たお金の10%をギルドへ納金。
3.所有物の開示。
4.ステータスの開示。
5.所有する情報の開示。
6.ギルドの言う事には従う事。
7.ルールを破る、もしくはギルドを抜けるものには謝礼金、謝礼物を要求。

「納金への反対はあると思いますが全体の装備の調整などに役立たせていただきます。」

ギルドの目標を達成するためにはどれも必要な事だ。
それにどれも有益なものになる。

「いいんじゃないか?」

俺がぽつりとそう言うが隣に座るエクスは少し考えるように壇上を見る。

「同意の上でギルドへの加入を許可します。」

そして、ギルドへの招待画面が表示される。
俺は素直に『YES』の画面を押そうとしたがエクスにそれを止められる。

「やめておこう。
このギルドは僕達には向いてない。」

「それでも、必要な事じゃないか?」

実際にある程度の拘束力があった方が人は成長すると思っている。
周りでも賛同の意見が多く飛び交う。

「……シキ、やめておこう。」

エクスは俺の目を覗き見るようにじっと見つめてきた。

「わかった。」

俺達はその場から身を屈めながらその場を立ち去った。
背後からは賑やかな声が響く。

「それで、理由は?」

その場では聞かなかったがどうしても気になった。

「ちょっとね。
僕の感想は少し様子見をしたいってところかな。」

「早期にクリアが推奨されているのにか?」

今は一刻も早くクリアを目指すのが目標だ。
ギルドに入り、より多く情報を手に入れるのが最も効率の良いはずだ。

「ねえ、シキは統率を取るにはどうしたらいいと思う?」

何の質問だと疑問に思った。
だが、考えてみた。

「リーダーが必要ってところか。」

「そうリーダー。
それで、そのリーダーに必要なのは僕はカリスマ性とそれを裏付ける強さだと思うんだ。
でも、ゲームは始まってばかりだからその裏付ける強さはない。
それなのに拘束するものが多い。」

「だから、統率は難しいと。」

エクスの言いたい事はわかった。
そして、納得の出来るものだった。

「あの段階なら必要なのは情報の開示という項目で十分。
少し、焦り過ぎな気がする。
でも、この状況ならわからなくもないけどね。」

「まあ、エクスがそう思うならいいと思う。
じゃあ、俺達はこれからどうする?」

「掲示板に仲間募集だけ張り出して少しの間は少数行動をする。
それで、あのギルドが上手く回り始めたら加入をするって感じにしようと思う。」

「了解した。
それで、夜遅いけど寝れそうか?」

「いいや。」

「なら、少しレベリングとスキル取得をしないか?」

「オッケー。」

この環境でなんだかんだ普通にゲームが始まった気がした。
恐怖がないと言えば嘘になる。
しかし、前には進もうと思った。
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