バーサスAI

安太郎

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第1話

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「リアルだ。」

この世界に踏み入れた時の初めての一言はそれだった。
今立つ、草原の輝き。
風の音、湿った空気。
現実と変わらない本当に異世界に来たような感覚すら覚えた。

しかし、周りから次々とログイン時のエフェクトが起き、現実からこの世界にくる人達を見てゲームの世界と再認識する。
そして、ふと白のカーソルが目に入った。

「俺は白か。」

完全没入型ゲームソフト「バーサス」。それがこの世界の名前だ。
白と黒の軍勢に分かれて戦うRPGゲーム。

一応自分の頭上にあるカーソルに目をやるとやはり白だった。
そして、最初はこの世界のグラフィックに唖然としていた人たちも慣れ始め足速に少し離れた街に向かい始める。

「俺も!」

周りに負けじと足を踏み出した。
しかし、ゲームが始まったと世界が認識したからかモンスターも出現を開始する。
周りから、「初陣だ!」と声が響く。

それを見て出遅れないためにも初期装備で選択した短剣を腰から取り出す。
手に取り、その軽さと手触りから伝わるほど質素な短剣だった。

まだ、レベルは1。

「ステータス」

その一言でステータスウインドを開くが初期スキルもなにもない。
だから、ここで始まるのは完全な自らの技術を持ってしての戦いだ。

敵は序盤のモンスターとしてよく扱われるゴブリン。
何故、よく扱われるのか長らく疑問だったが長くゲームをしているとわかる。
人型で急所が見極めやすいからだ。

短剣の専売特許は手数。
素早く距離を詰めて目を切り視界をたち背後に回って首を……

「斬る!」

手に伝わった抵抗感。
そこに力を加えると紫色の血が四散し、経験値が表示される。

[レベルがアップしました。]
全ステータス+1
経験ボーナス
筋力+1
ステータスポイント+3

そして、レベルアップの表示が出た。
まだ、どんなステータスがあるか知らないからどんな意味を持つものかわからないが今は誰よりも狩る事が優先と頭で処理する。

しかし、ゲームが始まった最初の地だけあって人数が多く次々とモンスターが狩られていく。
その中でも大剣や大槍の範囲攻撃に長けた武器と遠距離からの弓が最も早く倒していく。

それに序盤だけあってレベルアップの速度も早くそのプレイヤー達の狩り効率が上達していく。

全てのモンスターを狩った頃、俺のレベルはもう二つ上の4までで終わった。

「上出来か……。」

この密集地帯で小回りの取り柄の短剣ではここら辺が限界だった。
休憩がてら一番最初の街〈オリジン〉のベンチに腰をかけた。

そして、そこで改めてステータスウインドを開いた。
主にステータスは筋力、速度、体力、感覚の4項目。

「筋力は攻撃力と防御力に速力。
速度は動体視力。
体力はHPと疲労度。
感覚は危機感知と経験値に補正。」

ヘルプにはそう書かれている。
他のゲームと大分解釈が違う。
それだけに面白くステータスポイントの振り分けも考えさせられる。

感覚を上げての早熟タイプ。
それ以外を上げて後半強くなるタイプの晩熟タイプ。
更にそこから身体能力でどのタイプになるか。
持ち合わせているステータスポイントは9ポイント。
取り敢えずはと思い筋力に6を振りそれぞれに1ずつ振り分けた。

「それで、この短剣は……」

武器のステータスが変わっていた。
斬、突、打とありそれぞれステータスが割り振られている。
そして、隅に筋力要求値と表示されている。

「単純に攻撃力とは書かれてないんだな。」

さらに鎧も同じように斬、突、打とある。防具なのだからこっちは耐性っという意味なのだろう。
だが、やはり単純に防御力とは書かれていない。

一通りステータスが見終わるとメッセージが届いた。
差出人の名前はエクス。

『シキ、お前黒側になってたりしてないよな?』

すぐに白側と連絡し、今いる場所を伝えた。

現実でも友人の彼との連絡はケータイとの連帯機能のおかげでこの世界でもスムーズに連絡が取れるのはありがたい。

エクスからはすぐに向かうとメッセージが届きわずか数分でその場所現れた。

「相変わらずそのアバターなんだな。」

金髪の引くほどにイケメンな青年。
しかし、エクスは嫌味なのか現実でもイケメンであり、なんなら現実とゲームで見た目が変わらない。

「そういうシキもな。」

「リアルの顔のスキャン機能を使った方が早いからな。」

現実と仮想世界で違う生き方をしてみたいと言う理由で見た目を全く違うものにしたいと思う人が多い。
しかし、俺達はどちらかと言えば現実の自分で異世界で冒険したいという理由でこの世界にいたい。
そういう共通の部分でこの目の前の青年と仲良くなれたとも思う。

「もう、最初の戦闘は体験した?」

「まあな。なんだが、しっくり来たよ。
現実の感じとあまり変わらない感覚とかな。」

本当にリアルだった。
この大地を踏む感じも。
布やナイフの手触りも何もかもが。

「僕もだよ。弓の弦を引っ張る感じとかしっくりくる。」

「そういえば、初期装備は弓にしたんだな。」

エクスとは他の世界でも冒険したが使用武器はさまざま。
短剣、大剣、槍に斧、槌。

「まあね。でも、いろんな武器を確かめてみたいかな。
だから、早速で悪いんだけど付き合ってよ。」

「ああ、いいぜ。
でも、そろそろオープニングセレモニーが始まるだろ。」

ゲームを開始してはや一時間。
ゲーム購入者には事前にスケジュール表が配られていた。
その最初の一幕があと少しで始まる。

「ねえ、見てよこれ。」

ふと、エクスに見せられたのは総ログイン人数だ。
このゲームは初回販売数が経ったの一万本だった。
俺達が手に入れられたのは幸運に他ならなかった。

そして、その総ログイン人数は一万人。
購入者全員が既にログインしたことになっている。

「すごいな。」

「それだけ期待値が高いんだよ。」

「そうだな」と俺が一言言った。
その時だった。
視界の隅で何かが動いた。

「え?」俺の口から溢れた声。
総ログイン人数・・・10001
そして、『10002』となにかのカウントのように数が増え始め『10005』を栄にして数は急激に増え始めた。

「初回販売数は一万本じゃないのか?」

俺とエクスはその数字に食い入るように見た。
そして、程なくしてその数値は数をとめた。
総ログイン人数・・・20000

初回販売本数の倍の値だった。
そして、それが終わるのと同時に鐘の音が響き、俺達のアバターは光に包まれどこか大きな広場へと飛ばされた。

その広場には多くのプレイヤーが募っていてた。
おそらく、ログインしている全員が集められた。

そして、頭上には大型モニターがあり、何度か見たことがある老人が映る。

「総務省だったか?」

「うん、そうだね。」

一礼をする老人をその場の全員が見上げていた。

「この場にいる国民にお伝えします。
人間社会を守る為、お力をお貸しください。
そして、貴方達の命と時間を私達に預ける事を命じます。」

最初はオープニングセレモニーの一部だと思っていた。
周りもただ、大掛かりなセレモニーとしか思っていなかった。

だが、どこかであるプレイヤーが呟いた。
「ログアウトボタンなくね?」

その一言は燃え広がるように伝わっていき、俺とエクスも確認した。

「……ない。」

そんなバカなと色々なページを開く。
しかし、その項目は存在しなかった。

「どうか、落ち着いてください。
このゲームからの脱出方法は一つです。
敵をAI達を全て倒してください。
そして、絶対に死なないでください。
貴方達の現実へのご帰還を心よりお待ちしております。
これから数分後に全プレイヤーの回線が切断されます。
貴方達の現実の体を守る為です。
それまでは行動をお控えください。」

そう言葉を告げて一方的にモニターから老人は姿を消した。
そして、周りから声が上がるよりも早く元の位置へと戻されることになった。
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