私はあなたがいいのです

口笛

　テスト最終日。私と美月にとっては立ちはだかるのはテストではない。これから私たちの間に生まれることになるのかどうかという心の壁に立ち向かう覚悟だった。
　まっ先に美月のところへ行こうと思っていたが，まだ美月は登校していなかった。昨日から登校時間が極端に遅くなった。後ろめたさから登校を渋っているのか，それとも何か別の理由があるのか。
　菜々美は私よりも早く来ていた。席に座っていたが私に気付くと立ち上がり手を振った。

「遅いじゃない。やる気になってるのは私だけ？」
「やる気って何よ。私は前みたいにみんなで仲良くしたいだけ。」
「それってテストよりも大事？」
「何言ってんの。テストなんてくそくらえだよ。私は気に入った友達と一生仲良くしていきたいの。」
「ひゅー。青春～～」

菜々美の口笛が好きだ。愉快な気持にもなれるが，何より健康的でナチュラルな色付きのリップが菜々美の人柄をより際立たせている。
尖らせたくちびるには色気も見えてきて，菜々美って意外と色っぽいんだよなとこの時にいつも気付かされる。

「あ，今私のくちびる狙ってたでしょ。ほんと，あんた絶対毒されてるって。」
「まじでやめてよ。菜々美を見ると昨日から下がまじで湿ってくんの」
「・・・・・・まじ？」
「冗談に決まってんでしょ。」

小突き合っていると菜々美の視線が教室の入り口に向いたのを感じ，来たのだと悟った。
私たちは顔を見合わせて，美月のもとに向かった。