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ヒカリの向こう

過去にある現在⑲~ジャンはいなくなる~

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 ジャンの話はこうだった。
 ジャンは実は滅の時間軸から来た人間だった。それも,別の時間軸で実の兄として本当に存在していた。アトラスが身に着けていた時の欠片はもともとジャンが見つけたもので,それを自分たちのの世界に来た時に無くしてしまったらしい。その事実は気分を高揚させた。お兄ちゃんだったらいいのに,と思っていたジャンは本当に自分とつながっていたのだ。それはまるで奇跡だった。
 ジャンの話に興奮しながら相槌を打っていると,横からじいちゃんが低く震える声で割り込んできた。

「都合の良いことばかり話すな。真実から目を背けるな。受け入れろ。覚悟が伴わんのなら,今すぐ去れ」

 じいちゃんから放たれた異質なオーラは周りに電流を走らせているようにピリピリしている。ジャンを見つめる目は痛いほどに鋭い。ジャンは顔を上げずに黙っている。バオウが「いいんじゃないか,その時が来たら説明するさ」と口添えしたが,「ならん」と言ってじいちゃんは聞かなかった。ベルと自分は訳が分からずどうしたの? といぶかしんでいる。
 顔を上げようとしないジャンにため息をつき,「わしが説明するぞ」と肩に手を置いて行った。その声はさっきとは打って変わって,同情のような雰囲気すらうかがえた。ジャンはそれにも何も答えなかった。

「家族であり,仲間でもあるわしらの目的は完全に一致しておる。それは,この時空のゆがみ,正しくない歴史や辞意実を元に戻すことじゃ。そのためにやるべきことは一つ。アトラスが持っておる時の欠片を破壊することじゃ。ここまではよいの?」

 ベルと二人で頷いた。ひいばあちゃんが横にいて,しかも少しだけ年が上なだけというのも変な気分だ。

「ここからじゃ。心して聞け」

 じいちゃんがみんなを一瞥した。ジャンがつばを飲む音が聞こえた。そして、「言わなきゃダメなのかよ」と懇願するように言った。じいちゃんはそれを無視した。

「時の欠片を壊せば,ジャンはいなくなる。世界の歪みが戻るのと同時にな」

 景色が一時停止したみたいに時間の流れが止まった気がした。ベルは口に手を当てたまま何も言うことができないでいる。相変わらずジャンはうなだれたままで,バオウは腕を組んだまま仁王立ちしている。うすうす勘付いていたのだろう。
 いやだ,意識とは裏腹に口からその言葉がポツリと出てきた。それを皮切りに,感情の制御が利かなくなった。無意識が体を支配し,混乱と怒りが体の内側を占めていた。
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