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旅立ちの前に
偽りのほこら⑥~勝負あり~
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あとは何がどうなったのか分からない。分かるのは,まるで自分じゃないみたいに体の動きが早くなったこと。こぶしを握ると,そこには剣が握られていたこと。もともとの身体能力が人より秀でていたわけではないし,魔法の詠唱すらまともに唱えられないうえに物体の具象化などやったこともない。それなのに,身体能力は一瞬にして向上して力を込めれば手には戦う武器をいつの間にか手にしていた。なぜこんなことになったのか分からない。あの時変わったことは何もしていない。したことと言えば,家族を守りたいと願ったことぐらいだ。もしそれで力を得たのだとしたら,それは,少年漫画の主人公が一瞬で強くなった時と同じじゃないか。
気付けばバオウの剣を弾き飛ばしていた。数分前の再現のようだった。
「なに,を・・・・・・した」
バオウは横腹を抑えてうずくまっている。分からない。どうしてバオウがうつぶせになって地面に這いつくばっているのか。どこかで見たあの光,こぶしを握った時,真っ暗な部屋から急に光が差し込んだみたいに明るくなったことは覚えている。あの後どうなったのだろう。
訳も分からず辺りを見回すと,バオウが口を開いた。
「ソラ・・・・・・お前,本当に覚えていないのか。あれは具現化の高等詠唱だ。何もないところから物体を作り出すその詠唱は,辛く長い鍛錬の末に才能のあるものだけが使いこなせる。貴様,どこで身に付けた。ジャンさんに教えてもらったのか」
苦しそうな声でバオウは続けた。
「いや,百歩譲って貴様が詠唱を隠し持ったことは認めるとしよう。納得がいかねえのは,てめえが急に筋肉質な体になった。そうかと思うと光のような速さで攻撃してくるじゃねえか。あれはどんなトリックだ。なんのいかさまをした!!」
ぐうぅ,と唸りながら,魚のような眼をして立ち上がった。完全にスイッチが入っている。
「まさかこんな力を持っているとはな。学校でもおれのことをばかにしていたのか? おれは悔しいよ。情けねえ。だけど,ここでお前を殺す。例え刺し違えてでもな!」
言い終わるや否や,短刀と爆薬を懐から取り出した。差し違えるつもりか,それとも組み合ってその隙に発火させて自分の体ごと吹き飛ばすつもりか。あの量の爆薬だと大火事にはならないだろうが,至近距離で爆発すると間違いなくただでは済まない。それこそ,死んでもおかしくない。
バオウの気持ちをとにかく静めなければ。このままだと二人とも大変なことになりかねない。
「待ってくれ。さっきまでの記憶が本当にないんだ。そうだ,良かったら一緒に特訓でもしない? 本当に不思議な力を使ったっていうなら,自在に使えるようになったらバオウにも教えられるしさ・・・・・・。」
言いながら何を言っているんだと思った。こんな苦し紛れの言い訳がヒートアップした相手に通用する訳がない。思い切って立ち向かうべきだったのか。ジャンだったらどうする。助けを乞おうとして振り向こうとすると,目の前でバオウが倒れた。その表情は怒りと安らぎの両方が混じっているようでもあり,子どものような顔だ。
気付けばバオウの剣を弾き飛ばしていた。数分前の再現のようだった。
「なに,を・・・・・・した」
バオウは横腹を抑えてうずくまっている。分からない。どうしてバオウがうつぶせになって地面に這いつくばっているのか。どこかで見たあの光,こぶしを握った時,真っ暗な部屋から急に光が差し込んだみたいに明るくなったことは覚えている。あの後どうなったのだろう。
訳も分からず辺りを見回すと,バオウが口を開いた。
「ソラ・・・・・・お前,本当に覚えていないのか。あれは具現化の高等詠唱だ。何もないところから物体を作り出すその詠唱は,辛く長い鍛錬の末に才能のあるものだけが使いこなせる。貴様,どこで身に付けた。ジャンさんに教えてもらったのか」
苦しそうな声でバオウは続けた。
「いや,百歩譲って貴様が詠唱を隠し持ったことは認めるとしよう。納得がいかねえのは,てめえが急に筋肉質な体になった。そうかと思うと光のような速さで攻撃してくるじゃねえか。あれはどんなトリックだ。なんのいかさまをした!!」
ぐうぅ,と唸りながら,魚のような眼をして立ち上がった。完全にスイッチが入っている。
「まさかこんな力を持っているとはな。学校でもおれのことをばかにしていたのか? おれは悔しいよ。情けねえ。だけど,ここでお前を殺す。例え刺し違えてでもな!」
言い終わるや否や,短刀と爆薬を懐から取り出した。差し違えるつもりか,それとも組み合ってその隙に発火させて自分の体ごと吹き飛ばすつもりか。あの量の爆薬だと大火事にはならないだろうが,至近距離で爆発すると間違いなくただでは済まない。それこそ,死んでもおかしくない。
バオウの気持ちをとにかく静めなければ。このままだと二人とも大変なことになりかねない。
「待ってくれ。さっきまでの記憶が本当にないんだ。そうだ,良かったら一緒に特訓でもしない? 本当に不思議な力を使ったっていうなら,自在に使えるようになったらバオウにも教えられるしさ・・・・・・。」
言いながら何を言っているんだと思った。こんな苦し紛れの言い訳がヒートアップした相手に通用する訳がない。思い切って立ち向かうべきだったのか。ジャンだったらどうする。助けを乞おうとして振り向こうとすると,目の前でバオウが倒れた。その表情は怒りと安らぎの両方が混じっているようでもあり,子どものような顔だ。
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