もらってください

月夜野レオン

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しょうがない

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「いや、だから、向こうで荷の入荷が遅れてて……」
ルースは4つのジト目で見上げられて、困ったように頭の後ろを掻いている。
先日、1週間後に来ると言っていた相方のレンが、サンルームの資材の入荷遅れによってまだ到着せず、ユイハとセシルに詰め寄られていた。
「今日は着くって言ってたのに……」
かれこれ2週間近く待たされて、シャム族の2人は焦れていた。
ルースに言われて元騎士団員のシャムに早く会いたくてしょうがないセシルとユイハは、がっかりと耳をへしょげる。
ユイハのシッポは左右にゆっくりと振られて苛立ちを表し、セシルのシッポは耳と同じくヘタリと垂れ下がっていた。
「………っ…」
イラついてもイジけても可愛らしいシャムの姿につい緩む口元をルースは必死に堪えている。
「多分、明日には到着するから、もう少し待ってくれよ」
「………ほんと?」
再びジト目で見られたが、まあ明日には確実につくだろうとルースは太鼓判を押した。
「もし到着しなかったら、お詫びにミルク煎餅焼いてあげるよ」
ミルク煎餅と聞いて、2人の耳がピンと立つ。
ニャアッと喜びかけたところで、到着したら食べられないことに気づき、複雑な心境で変な表情になる。
ルースが作る手焼きの煎餅は、甘くて濃厚なミルクが入ったパリパリの菓子で、一度食べたら2人はやみつきになってしまった。
アツアツの焼きたてはネコ舌には食べづらいのだが、火傷しても食べたい美味さだった。
「うぅ……食べたい……でも会いたい」
せわしなくピコピコと動く耳に、ルースはついに吹き出してしまった。
「あっははは、分かった分かった。どっちにしても焼いてやるよ」
今度こそニャアッと喜んで、2人は明日の昼食を少なめにしてもらおうと厨房にいそいそと伝えに行った。


翌日、はたして建築資材を買い付けに行ったメンバーは大量の資材と共に館に到着した。
「レン、長旅お疲れさん」
「ああルース、遅れてしまってすまない」
ルースが、両館の通用門に当たる場所で資材の荷下ろしの指示をしていたレンに声をかける。
振り向いたレンは、ルースを見てフッと柔らかく笑った。
「すごい館だね。ビックリした」
「だろ?中庭の設計も凝ってるぜ。でもとにかく、館の主人達に早く会ってくれ。もう先日からまだかまだかと責められてるんだ」
「シャム族の2人だね。会えるの楽しみにしてた」
トリンドルとヴァンセの館の中間に位置するガラス張りのラウンジで、ダレルとゼオンは待っていた。
「すご。どちらもタイプの違うイケメンじゃないか」
小声で横のルースに囁いてから、レンは2人の前に進み出て挨拶をした。
「初めまして、ルースの相方のレンです。資材の到着が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。色ガラスの入荷に手間取りまして」
昔の名残で敬礼をしたレンに、ダレルはニコリと笑って頷いた。
「やあ、初めましてレン。こちらの品押さえがしっかりと出来てなかったんだ。むしろこちらが謝らなければならない」
横のゼオンも頷いている。
「サンルームはそんなに急いでいる訳ではないので、心配しないで下さい。待ち焦がれていたのは私達の伴侶でしてね」
ゼオンはクスッと笑って、扉の横に立つ使用人に頷いた。
「あなたを見たら、2人共驚くだろうな」
使用人に呼ばれてワクワク顔で入ってきた2人は、伴侶達の横に立つスラリとしたシャム族に釘付けになった。
「わ……」
固まる2人の前に、レンが歩いてくる。
細身の体だが鍛えられていることがよく分かるしなやかな足運び。
薄紫色のショートカットの髪からピョコンと立っている耳の先は白い。
そして切れ長の色っぽい目は、珍しい濃い紫色をしていた。
先の白いシッポを優雅に揺らしながら前まで来たレンは、いきなり2人をギュウッと抱きしめた。
「ひゃっ」
「ニャアッ」
アワアワしているユイハとセシルの頬にスリスリと頬ずりしながら、レンは嬉しそうに笑った。
「初めまして、お二人さん。会えるの楽しみにしてたよ」
「は、初めまして、セシルです」
「ユイハです~。はじめましてレンさん」
2人はすぐに嬉しそうにシッポをフルフルと振ってレンを見上げた。
「すごい。紫の目、初めて見ました」
セシルが目をシパシパさせながらレンの目に見入ってる。
「ふふっ、ありがとう。二人の黒い瞳もキレイだね。ユイハは吸い込まれそうに真っ黒だし、セシルは少し青みがかってるね」
それに毛並みは艶々だ~、と耳を撫でられて2人はくすぐったそうにピルピルさせて笑った。
「あれ、2人共お腹に子供がいるんだね?わあ、楽しみだねぇ」
同族だけにすぐ察知したレンは、お館様達やるねぇと感心した。
シャム族は子供が出来にくい上に、初周期の時は更に難しいと言われている。
ルースがミルク煎餅を焼いてくれるから一緒に食べようと誘われて
「あ、丁度いいわ。妊娠中のシャムに必要な栄養が凝縮して入っているジャムがあるんだ。ミルク煎餅と一緒に食べると美味しいよ」
とウインクした。


6人がバーベキュースペースで集まり、ルースが得意のミルク煎餅をポンポンと焼いて皆に振る舞った。
焼いている傍で、待ちきれない2人がせわしなくシッポを揺らしている。
「何これ、かっわいいわ~」
2人の後ろで腕を組んだまま、レンが揺れるシッポを見ながら軽く悶えていた。
セシルは美人なお兄さんと称し、ユイハはカッコイイお姉さんと称されたレンは、自分のシッポもゴキゲンに揺れているのに気づいていない。
そんな3人を、更に眼福要素が増えたとニコニコしながらゼオンとダレルが眺めてる。
「成長したシャム族は、可愛さはそのままで色気が増すから困るな。誘拐の危険も増してしまうぞ」
「ですね。警備を強化しませんと」
子供が生まれれば、更に人数が増える。
これだけの人数のシャム族が集まるのは稀なだけに、更なる防護設備強化をしなくてはと2人は頷いた。
焼き上がった煎餅にレンがジャムをつけてあげると、それを食べたセシルの耳とシッポがピンと立った。
「お……美味しい~」
へにゃっと笑うセシルの頭をレンがニコニコ笑いながら撫でる。
「甘酸っぱいでしょ?濃厚なミルク味とケンカしないから、相性がいいんだ」
食が細くなりがちのシャムの栄養補給にはもってこいだよと笑い、脇にいる使用人に朝食のパンにも塗ってやってくれと大きなビンを渡した。
シャムを虜にする味はどんなものかと領主の2人も口にしてみると、意外とあっさりした甘みで普段つけているジャムよりも深みがあって美味しかった。
「これはいいな。クラッカーなどにも合いそうだ」
後日、好評を博したジャムは、材料を取り寄せて自家製を作るようになった。
ニャオンと美味しさに舌鼓を打ち、耳をピルピルさせながらフフフと笑い合う3人をほっこりと眺めて館の使用人達の手が止まってしまうのを、領主の2人はしょうがないかと笑って許した。
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