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藤堂がようやくチョコレートをゲットしてご満悦になっていると、突然フロアの入り口付近が騒がしくなった。
何事かと振り向くと、都築課長が入ってきて、全員に集まるよう手招きをしている。
「あー、みんな済まない。手が空く人は集まってくれ」
フロアにいる五十人程度の社員がわらわらと集まると、都築課長が口を開いた。
「人事発令が二週間前に出ているのでみんな知っていると思うが、先週末でドイツに転勤になった山下部長の後任として、今度NY本社からいらした有賀部長を紹介する。ミスター有賀、プリーズカムイン」
「サンキュー、ミスターツヅキ」
低く張りのあるバリトンと共に入室してきた男を見て、全員が息を呑んだ。
「……え………?」
特に裕也は完全にフリーズしていた。
目の前にスラリとした長身を晒しているのは、さっき成田エクスプレスで自分を起こしてくれた、あのイケメンだった。
『本社から転属してきた有賀だ。日本は初めてなので、しばらくは不便をかけると思うが、よろしく頼む』
周りが呆然としている中、有賀は綺麗なクイーンズイングリッシュで挨拶をすると、フロアを軽く見回して笑顔を見せた。
超絶イケメンの笑顔の破壊力に、フロアの後ろの方にいた女性陣が小さな悲鳴を上げたまま真っ赤になって固まっている。
「今日は着任の挨拶だけで、実質の業務は明日からになる。以上だ」
都築課長の声で我に返った社員達は、ザワザワしながらも輪を解く。
席に着いても呆けたままの女性社員もいる。
「如月、ちょっといいか」
「……は、はい」
みんなと同じで、有賀から視線を外せなかった裕也は、都築課長に呼ばれて現実に立ち返った。
二人の前まで来て、裕也は有賀の背が相当高く、百八十五を越えていることに気づいた。
少し見上げて視線が合うと、有賀が面白そうに目を細める。
『君だったのか。<第二のキサラギ>の噂は本社でも聞いているよ』
『い、いえ、先程は失礼しました。まさかアナタが有賀部長とは…』
「何だ如月、有賀部長と面識があったのか?」
「あ、いえ実は帰りの成田エクスプレスでお会いして…」
驚いている都築課長に、爆睡して乗り越ししそうになったところを起こしてもらいました、とは恥ずかしくて言えずに裕也は先を言いよどんだ。
『ちょっとぶつかってしまって、挨拶をしただけなんだ』
日本語で話していたにも関わらず雰囲気と単語から察したのか、有賀がスマートに後を締めくくってくれた。
「それはすごい偶然だな。丁度いい、各フロアの案内と挨拶回りに付いてもらってもいいか?それが終わったら今日は上がりでいいから」
『分かりました。一件連絡したいところがありますので、少しだけ待って頂けますか?』
都築と有賀にことわりを入れてから、裕也は急いでデスクに戻った。
「はあ~、すげぇイケメンだな。本当にあれが有賀部長なのか」
未だに視線が釘付けのまま、藤堂がフラフラとやってくる。
「俺はまた、ハリウッドスターが間違えて入ってきたのかと思ったぜ」
「俺だってビックリだよ」
「名前から日系のイギリス人だろうとは思っていたけど、黒髪にブルーアイなんて初めて見たぜ。エキゾチックだな~」
裕也は急ぎの連絡を入れる為に受話器を持ってダイヤルを押し始めたが、まだ動揺が残っているせいか手つきが少々おぼつかない。
もう一度会いたい、知り合いになりたいとは思ったが、よもや上司になるとは。
それでも、さっきまでの憂鬱な気分が跡形も無く消し飛んでいるのは感じられた。
そそくさと電話を済ませて、有賀を連れてエレベーターに向かう。
『お待たせしました。どのフロアから回りますか?』
『今日は最低限のセクションだけでいい。成田から直行だったから、まだ時差ボケでね』
時差ボケのカケラも見えない有賀がすまして言うのに、裕也はクスリと笑ってエレベーターのボタンを押した。
『じゃあ業務と統括管理と流通セクションに。後は明日にしましょうか?第一は……何かとありそうですから』
『うん、それでいい。君も早く帰って休んだ方がいいしな。お疲れだろう?』
『う……はい』
にやりと笑ってウインクされた裕也は、耳まで赤くなって俯いた。
あの爆睡を見られているのでは、言い訳も出来ない。
まさか涎とか垂らしてなかっただろうかと、そわそわする。
『ハードスケジュールだったんだろう?ビジネスマンは身体が資本だ。疲れた時は無理をせずに休む。当たり前のことだ』
『……そう…ですね』
思いのほか真面目な顔で見つめられ、裕也は海色の瞳に吸い込まれそうになった。
身体は痺れたように動かない。
どれだけの時間、そうしていたのだろうか。
エレベーターの到着音で、裕也は我に返った。
『に、二階が統括管理セクションになります』
気を引き締めていないと、膝が抜けそうだった。
何事かと振り向くと、都築課長が入ってきて、全員に集まるよう手招きをしている。
「あー、みんな済まない。手が空く人は集まってくれ」
フロアにいる五十人程度の社員がわらわらと集まると、都築課長が口を開いた。
「人事発令が二週間前に出ているのでみんな知っていると思うが、先週末でドイツに転勤になった山下部長の後任として、今度NY本社からいらした有賀部長を紹介する。ミスター有賀、プリーズカムイン」
「サンキュー、ミスターツヅキ」
低く張りのあるバリトンと共に入室してきた男を見て、全員が息を呑んだ。
「……え………?」
特に裕也は完全にフリーズしていた。
目の前にスラリとした長身を晒しているのは、さっき成田エクスプレスで自分を起こしてくれた、あのイケメンだった。
『本社から転属してきた有賀だ。日本は初めてなので、しばらくは不便をかけると思うが、よろしく頼む』
周りが呆然としている中、有賀は綺麗なクイーンズイングリッシュで挨拶をすると、フロアを軽く見回して笑顔を見せた。
超絶イケメンの笑顔の破壊力に、フロアの後ろの方にいた女性陣が小さな悲鳴を上げたまま真っ赤になって固まっている。
「今日は着任の挨拶だけで、実質の業務は明日からになる。以上だ」
都築課長の声で我に返った社員達は、ザワザワしながらも輪を解く。
席に着いても呆けたままの女性社員もいる。
「如月、ちょっといいか」
「……は、はい」
みんなと同じで、有賀から視線を外せなかった裕也は、都築課長に呼ばれて現実に立ち返った。
二人の前まで来て、裕也は有賀の背が相当高く、百八十五を越えていることに気づいた。
少し見上げて視線が合うと、有賀が面白そうに目を細める。
『君だったのか。<第二のキサラギ>の噂は本社でも聞いているよ』
『い、いえ、先程は失礼しました。まさかアナタが有賀部長とは…』
「何だ如月、有賀部長と面識があったのか?」
「あ、いえ実は帰りの成田エクスプレスでお会いして…」
驚いている都築課長に、爆睡して乗り越ししそうになったところを起こしてもらいました、とは恥ずかしくて言えずに裕也は先を言いよどんだ。
『ちょっとぶつかってしまって、挨拶をしただけなんだ』
日本語で話していたにも関わらず雰囲気と単語から察したのか、有賀がスマートに後を締めくくってくれた。
「それはすごい偶然だな。丁度いい、各フロアの案内と挨拶回りに付いてもらってもいいか?それが終わったら今日は上がりでいいから」
『分かりました。一件連絡したいところがありますので、少しだけ待って頂けますか?』
都築と有賀にことわりを入れてから、裕也は急いでデスクに戻った。
「はあ~、すげぇイケメンだな。本当にあれが有賀部長なのか」
未だに視線が釘付けのまま、藤堂がフラフラとやってくる。
「俺はまた、ハリウッドスターが間違えて入ってきたのかと思ったぜ」
「俺だってビックリだよ」
「名前から日系のイギリス人だろうとは思っていたけど、黒髪にブルーアイなんて初めて見たぜ。エキゾチックだな~」
裕也は急ぎの連絡を入れる為に受話器を持ってダイヤルを押し始めたが、まだ動揺が残っているせいか手つきが少々おぼつかない。
もう一度会いたい、知り合いになりたいとは思ったが、よもや上司になるとは。
それでも、さっきまでの憂鬱な気分が跡形も無く消し飛んでいるのは感じられた。
そそくさと電話を済ませて、有賀を連れてエレベーターに向かう。
『お待たせしました。どのフロアから回りますか?』
『今日は最低限のセクションだけでいい。成田から直行だったから、まだ時差ボケでね』
時差ボケのカケラも見えない有賀がすまして言うのに、裕也はクスリと笑ってエレベーターのボタンを押した。
『じゃあ業務と統括管理と流通セクションに。後は明日にしましょうか?第一は……何かとありそうですから』
『うん、それでいい。君も早く帰って休んだ方がいいしな。お疲れだろう?』
『う……はい』
にやりと笑ってウインクされた裕也は、耳まで赤くなって俯いた。
あの爆睡を見られているのでは、言い訳も出来ない。
まさか涎とか垂らしてなかっただろうかと、そわそわする。
『ハードスケジュールだったんだろう?ビジネスマンは身体が資本だ。疲れた時は無理をせずに休む。当たり前のことだ』
『……そう…ですね』
思いのほか真面目な顔で見つめられ、裕也は海色の瞳に吸い込まれそうになった。
身体は痺れたように動かない。
どれだけの時間、そうしていたのだろうか。
エレベーターの到着音で、裕也は我に返った。
『に、二階が統括管理セクションになります』
気を引き締めていないと、膝が抜けそうだった。
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