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孕めないオメガでもいいですか?
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俺は不完全なオメガ。
病院で検査を受けたら、そう診断された。
え、それってどういうこと?
大学の出張セミナーに参加しに行って、いつも使っている抑制剤をウッカリ束ごと電車に忘れてしまった。
そろそろ発情期の時期が迫っていたから、在庫が少ないと心もとないので、行きつけの病院じゃなかったけれどホテルの近くにある病院にいって処方箋をもらおうと受診した。
そこで告げられたのは、微々たる染色体の異常。
ただし、子供は望めないと。
………子供、作れないんだ。
じゃあ、オメガの意味ないじゃん。
いきなり告げられた内容に茫然としている俺に、医師は何か言っていたように思うが、耳には入って来なかった。
子供産めないのにオメガ特有のヒートだけはあるって、それってやっかいなだけだな。
抑制剤の処方をもらってフラフラと帰宅すると、母は看護師の夜勤で出勤していた。
何とか部屋に入り、そして号泣した。
ごめん、浩太。
俺、お前の子供産んでやれないんだ。
こんな体じゃ、お前と一緒になることなんて出来ないよ。
幼馴染で、小さい頃から大好きだった浩太。
俺はあるふぁだから、おめがのソラをおよめさんにするんだって、ずっと言ってくれてた浩太。
ごめん、将来有望なお前の相手が出来損ないのオメガだなんて許されない。
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
大学を出たら番になって、お前の子供を産んで、親の事業を継ぐお前のサポートが出来たらいいなと思っていたのに。
一晩泣き倒して、心を決めた俺は荷物をまとめて家を出た。
母には、落ち着いたら必ず連絡するから心配しないでとメモを残した。
大学は郵送で休学届を出し、俺は住み慣れた町から離れた。
幼馴染のお前の顔を見て話す勇気がなかった俺は臆病者だ。
小さな喫茶店で働き出した俺は、カウンターでサイフォン式のコーヒーを入れることにも慣れてきた。
訳ありのオメガにもかかわらず雇ってくれたマスターにはすごく感謝している。
病院で処方してもらった抑制剤を飲んでいてもヒートの時は体が怠く、動きが緩慢になることもある。
そんなオメガを雇うのは嫌がられることが多いのだが、アルファなのにマスターは理解があって、そんな時は休みをとりなさいと勧めてくれる。
他のバイトの人も全員オメガだったので、馴染みやすかったのもある。
優しい周りの人達に支えられて、俺は一生懸命働いた。
体を動かしている方が気が紛れるというのもあった。
夏が過ぎ、やっと暑さが和らぎ始めた秋の始め。
ここに来て、ちょうど一年が立とうとしていた。
それは突然だった。
入口のドアベルがカランと鳴って、客がいなかった店内に男が入ってきた。
「いらっしゃいま……」
いつもと変わらずカウンターでコーヒーを入れる準備をしながら、店に入ってきた客に笑顔で挨拶をしたまま凍りつく。
浩太。
一日だって、片時だって忘れることなんかなかった幼馴染の顔がそこにあった。
「……ブレンドをひとつ」
低い声で告げて、スマートにカウンター席に座った男に、俺は頷くしかなかった。
震える手でサイフォンをセットしてコーヒーを落とす。
合間に盗み見た浩太は一年の間に精悍さを増し、アルファのオーラも強くなったような気がした。
常にカリスマオーラを纏う極上のアルファ。
あまり表立って公表されないのでよくは知らないが、アルファの中でも格付けというものがあって、上位になるほど容姿端麗でカリスマ性も上がるらしい。
それからいったら、浩太は上位になると思う。
幼馴染の贔屓目を抜きにしても、すごくいい男だ。
もちろん勉強もスポーツも常にトップの成績で、御曹司というオマケまで付いている。
黙っていても回りが放っておかない。
俺が傍を離れて一年経つから、もう他の人と婚約しているかもしれなかった。
そう思うと胸が酷く傷んだけれど、しょうがない。
俺は出来損ないのオメガなんだから。
浩太の傍にはふさわしくないんだ。
「………どうぞ」
カップに注いだブレンドを少し震える手でテーブルに置くと、浩太は優雅な手つきでカップを持ち上げた。
他を見ようとしても、どうしても視線が浩太に吸い寄せられる。
一口飲んで、伏せていた視線が俺を捕らえる。
「……うまいな」
「………あ、りがと…」
絡み合う視線が外せない。
ゆっくりと立ち上がった浩太がカウンターを回って横に来ても、大きな手で頬を撫でられても、俺は動けなかった。
「…俺は黙って、一年待った」
その一言で、浩太が全てを知っていたことを理解した。
病院で診断された内容も、それで俺が大学を休んで浩太の前から姿を消したことも、この土地に来てここでバイトをしていることも、全て知った上で待ったと。
「ごめ……ん…」
生まれた時から一緒にいた幼馴染のアルファを撒くなんてことは出来る筈もなかったんだ。
性格も、嗜好も、考え方も、行動範囲も全て熟知している浩太から。
「それで、一年かけてお前は俺を忘れられたか?」
「!……っ…」
浩太の言葉が胸に突き刺さる。
そこから今までため込んでいた想いが堰を切って溢れだす。
小さく首を横に振ると、溜まっていた涙がボロボロと零れた。
「だ…めだった。俺……浩太が好きで好きで……こんな俺は相応しくないのに、お前にはもっと他の上等なオメガが似合うのに……どこにいても、何をしていても、お前の事しか考えられなくて…」
壊れたようにごめんと繰り返しながら泣く俺を、浩太は優しく抱きしめてくれた。
「当たり前だ、小さい頃から俺だけを見るようにいつも傍にいて、大切に守ってきたんだぞ?今更他のヤツなんかにやれるかよ」
俺も一年辛かったと浩太は耳元で溜め息をついた。
「空、お前の気持ちを聞かせろ。子供がとか、家のこととか、回りのことは全て横に置いてだ。お前の純粋な気持ちを言え」
肩を掴まれ、上から強い光を宿す目で見下ろされ、ロックオンされる。
「……俺……俺は、浩太が好きだ。愛してる、誰よりも」
その時の幼馴染の顔は、一生忘れられないものになった。
切なさと愛しさと、それを凌駕する喜びで震えるように笑った笑顔が。
息も出来ないくらいきつく抱きしめられ、それに負けじと抱きつく。
「よし、それを確認する為の一年だったと思おう」
すっきりした顔で後ろを振り向いた浩太は、
「じゃあ、もらっていくからな」
と、いつの間にか後ろに並んでいたマスターやバイトの面々に告げて俺の手を握った。
「え……?」
「空君、良かったね。お幸せに」
「やっとくっついたか~。もう離すなよ」
「お似合いだよ、お二人さん」
「空、また今度な~」
ニコニコと手を振るマスターやニヤニヤしているバイトの人達に、訳が分からずキョトンとしている内に店を連れ出され、待機していた車に乗せられてしまった。
店のオーナーが実は浩太で、マスター以下バイトのメンバー全員が俺の事情を知っていたと教えてもらったのは車の中。
もちろん、住んでいたアパートは解約済で荷物は浩太の住んでいるマンションに引っ越し業者によって移されていた。
アルファの行動力と抜かりの無さには舌を巻くしかない。
浩太のマンションに着いてからは、さらに驚きの連続だった。
まず、大企業の社長である父親をはじめ、親族全てに俺との結婚の許可を取りつけてあったこと。
もちろん、俺の母親にも。
子供が出来ない可能性も承知の上だと。
「俺、子供は出来ないって医師に言われてるんだよ?跡継ぎが必要でしょ?」
驚いて叫んだ俺に、浩太はサラリと親父の跡は継がないと言った。
「俺の妹の彩香、覚えてるだろ?オメガの。あいつが今付き合ってるの親父の片腕のアルファの男なんだよ。だからそいつに跡を継がせる」
「えっ、彩香ちゃんってまだ18才だろ?付き合ってるって、いつから?」
「16の時からだよ。彩香の方から猛アピールして落としたんだぜ。我が妹ながら恐ろしいぜ」
うええ~と変な声が出た。
すごく大人しい感じの美少女だったのに。
「それからお前との子供、まだ諦めてないからな俺は」
「は……?」
ベッドに押し倒されながら、俺は目が点になった。
何を言っているのだろう、浩太は。
ポカンとしてる俺に、浩太は呆れたように溜め息をついている。
「お前、同じ大学にいたのに、俺の専攻科目憶えてないのかよ」
専攻科目……?
「え……遺伝子工学………え?まさか…」
「頭良い割に、そういうとこ鈍いんだよな、空は」
クスクスと笑う恋人に、俺は愕然とする。
まさか、浩太は前から俺の体のことを知っていた?
それで治療法を研究する為に、そちらの道を進んだと?
「…う……そ……」
震える俺の頭を撫でながら優しい目で浩太が見下ろしてくる。
「お前が処方箋もらってた病院、親父の企業の系列なんだよ。だからカルテを入手出来て、中学の頃に病状を知った。お前には知らせないように手を回して、将来俺が研究を完成させたら教えて治療しようと思ってたんだ。まさか別の病院で検査して知っちまうとは思わなかったぜ」
バース検査は中学一年の時。まさかその時から進路を定めていたなんて。
「俺の深い愛を舐めるなよ?」
「こ……こう…た……」
涙が止まらない。
そんな前から、ずっと考えてくれていたなんて。
そんな前から、想ってくれていたなんて。
こんないい男に、こんなに愛されていたなんて。
「お前を番にするからな?」
「うん……」
「そして籍を入れるぞ」
「うん……」
「それからお前は大学復帰して、早く卒業しろ」
「うん……」
「俺は一足先に起業して研究を進めるから、早くサポートについてくれ」
「うん……」
「絶対に治して、俺とお前の可愛い子供を産ませてやる」
「………っ」
「愛してるよ、空」
嗚咽で言葉が綴れなくて、ひたすらぎゅうぎゅうしがみついて泣いた。
その夜、俺と浩太は番になった。
空港のロビーを急ぎ足で横切り到着カウンターまで来た俺は、見慣れた姿を探してキョロキョロと辺りを見回した。
スラリとした長身がスーツケースを引いて現れる。
「浩太、ここだよ」
「おう空、ただいま」
近づいてきた浩太に、腕の中の子供がはしゃぐ。
「パパっ、パパだ~」
「蒼汰、良い子にしてたか?」
満面の笑みで息子を抱き上げる浩太。
きゃははと喜ぶ子供に頬ずりしながら俺に向かって微笑む浩太に、俺も幸せな笑みを浮かべた。
病院で検査を受けたら、そう診断された。
え、それってどういうこと?
大学の出張セミナーに参加しに行って、いつも使っている抑制剤をウッカリ束ごと電車に忘れてしまった。
そろそろ発情期の時期が迫っていたから、在庫が少ないと心もとないので、行きつけの病院じゃなかったけれどホテルの近くにある病院にいって処方箋をもらおうと受診した。
そこで告げられたのは、微々たる染色体の異常。
ただし、子供は望めないと。
………子供、作れないんだ。
じゃあ、オメガの意味ないじゃん。
いきなり告げられた内容に茫然としている俺に、医師は何か言っていたように思うが、耳には入って来なかった。
子供産めないのにオメガ特有のヒートだけはあるって、それってやっかいなだけだな。
抑制剤の処方をもらってフラフラと帰宅すると、母は看護師の夜勤で出勤していた。
何とか部屋に入り、そして号泣した。
ごめん、浩太。
俺、お前の子供産んでやれないんだ。
こんな体じゃ、お前と一緒になることなんて出来ないよ。
幼馴染で、小さい頃から大好きだった浩太。
俺はあるふぁだから、おめがのソラをおよめさんにするんだって、ずっと言ってくれてた浩太。
ごめん、将来有望なお前の相手が出来損ないのオメガだなんて許されない。
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
大学を出たら番になって、お前の子供を産んで、親の事業を継ぐお前のサポートが出来たらいいなと思っていたのに。
一晩泣き倒して、心を決めた俺は荷物をまとめて家を出た。
母には、落ち着いたら必ず連絡するから心配しないでとメモを残した。
大学は郵送で休学届を出し、俺は住み慣れた町から離れた。
幼馴染のお前の顔を見て話す勇気がなかった俺は臆病者だ。
小さな喫茶店で働き出した俺は、カウンターでサイフォン式のコーヒーを入れることにも慣れてきた。
訳ありのオメガにもかかわらず雇ってくれたマスターにはすごく感謝している。
病院で処方してもらった抑制剤を飲んでいてもヒートの時は体が怠く、動きが緩慢になることもある。
そんなオメガを雇うのは嫌がられることが多いのだが、アルファなのにマスターは理解があって、そんな時は休みをとりなさいと勧めてくれる。
他のバイトの人も全員オメガだったので、馴染みやすかったのもある。
優しい周りの人達に支えられて、俺は一生懸命働いた。
体を動かしている方が気が紛れるというのもあった。
夏が過ぎ、やっと暑さが和らぎ始めた秋の始め。
ここに来て、ちょうど一年が立とうとしていた。
それは突然だった。
入口のドアベルがカランと鳴って、客がいなかった店内に男が入ってきた。
「いらっしゃいま……」
いつもと変わらずカウンターでコーヒーを入れる準備をしながら、店に入ってきた客に笑顔で挨拶をしたまま凍りつく。
浩太。
一日だって、片時だって忘れることなんかなかった幼馴染の顔がそこにあった。
「……ブレンドをひとつ」
低い声で告げて、スマートにカウンター席に座った男に、俺は頷くしかなかった。
震える手でサイフォンをセットしてコーヒーを落とす。
合間に盗み見た浩太は一年の間に精悍さを増し、アルファのオーラも強くなったような気がした。
常にカリスマオーラを纏う極上のアルファ。
あまり表立って公表されないのでよくは知らないが、アルファの中でも格付けというものがあって、上位になるほど容姿端麗でカリスマ性も上がるらしい。
それからいったら、浩太は上位になると思う。
幼馴染の贔屓目を抜きにしても、すごくいい男だ。
もちろん勉強もスポーツも常にトップの成績で、御曹司というオマケまで付いている。
黙っていても回りが放っておかない。
俺が傍を離れて一年経つから、もう他の人と婚約しているかもしれなかった。
そう思うと胸が酷く傷んだけれど、しょうがない。
俺は出来損ないのオメガなんだから。
浩太の傍にはふさわしくないんだ。
「………どうぞ」
カップに注いだブレンドを少し震える手でテーブルに置くと、浩太は優雅な手つきでカップを持ち上げた。
他を見ようとしても、どうしても視線が浩太に吸い寄せられる。
一口飲んで、伏せていた視線が俺を捕らえる。
「……うまいな」
「………あ、りがと…」
絡み合う視線が外せない。
ゆっくりと立ち上がった浩太がカウンターを回って横に来ても、大きな手で頬を撫でられても、俺は動けなかった。
「…俺は黙って、一年待った」
その一言で、浩太が全てを知っていたことを理解した。
病院で診断された内容も、それで俺が大学を休んで浩太の前から姿を消したことも、この土地に来てここでバイトをしていることも、全て知った上で待ったと。
「ごめ……ん…」
生まれた時から一緒にいた幼馴染のアルファを撒くなんてことは出来る筈もなかったんだ。
性格も、嗜好も、考え方も、行動範囲も全て熟知している浩太から。
「それで、一年かけてお前は俺を忘れられたか?」
「!……っ…」
浩太の言葉が胸に突き刺さる。
そこから今までため込んでいた想いが堰を切って溢れだす。
小さく首を横に振ると、溜まっていた涙がボロボロと零れた。
「だ…めだった。俺……浩太が好きで好きで……こんな俺は相応しくないのに、お前にはもっと他の上等なオメガが似合うのに……どこにいても、何をしていても、お前の事しか考えられなくて…」
壊れたようにごめんと繰り返しながら泣く俺を、浩太は優しく抱きしめてくれた。
「当たり前だ、小さい頃から俺だけを見るようにいつも傍にいて、大切に守ってきたんだぞ?今更他のヤツなんかにやれるかよ」
俺も一年辛かったと浩太は耳元で溜め息をついた。
「空、お前の気持ちを聞かせろ。子供がとか、家のこととか、回りのことは全て横に置いてだ。お前の純粋な気持ちを言え」
肩を掴まれ、上から強い光を宿す目で見下ろされ、ロックオンされる。
「……俺……俺は、浩太が好きだ。愛してる、誰よりも」
その時の幼馴染の顔は、一生忘れられないものになった。
切なさと愛しさと、それを凌駕する喜びで震えるように笑った笑顔が。
息も出来ないくらいきつく抱きしめられ、それに負けじと抱きつく。
「よし、それを確認する為の一年だったと思おう」
すっきりした顔で後ろを振り向いた浩太は、
「じゃあ、もらっていくからな」
と、いつの間にか後ろに並んでいたマスターやバイトの面々に告げて俺の手を握った。
「え……?」
「空君、良かったね。お幸せに」
「やっとくっついたか~。もう離すなよ」
「お似合いだよ、お二人さん」
「空、また今度な~」
ニコニコと手を振るマスターやニヤニヤしているバイトの人達に、訳が分からずキョトンとしている内に店を連れ出され、待機していた車に乗せられてしまった。
店のオーナーが実は浩太で、マスター以下バイトのメンバー全員が俺の事情を知っていたと教えてもらったのは車の中。
もちろん、住んでいたアパートは解約済で荷物は浩太の住んでいるマンションに引っ越し業者によって移されていた。
アルファの行動力と抜かりの無さには舌を巻くしかない。
浩太のマンションに着いてからは、さらに驚きの連続だった。
まず、大企業の社長である父親をはじめ、親族全てに俺との結婚の許可を取りつけてあったこと。
もちろん、俺の母親にも。
子供が出来ない可能性も承知の上だと。
「俺、子供は出来ないって医師に言われてるんだよ?跡継ぎが必要でしょ?」
驚いて叫んだ俺に、浩太はサラリと親父の跡は継がないと言った。
「俺の妹の彩香、覚えてるだろ?オメガの。あいつが今付き合ってるの親父の片腕のアルファの男なんだよ。だからそいつに跡を継がせる」
「えっ、彩香ちゃんってまだ18才だろ?付き合ってるって、いつから?」
「16の時からだよ。彩香の方から猛アピールして落としたんだぜ。我が妹ながら恐ろしいぜ」
うええ~と変な声が出た。
すごく大人しい感じの美少女だったのに。
「それからお前との子供、まだ諦めてないからな俺は」
「は……?」
ベッドに押し倒されながら、俺は目が点になった。
何を言っているのだろう、浩太は。
ポカンとしてる俺に、浩太は呆れたように溜め息をついている。
「お前、同じ大学にいたのに、俺の専攻科目憶えてないのかよ」
専攻科目……?
「え……遺伝子工学………え?まさか…」
「頭良い割に、そういうとこ鈍いんだよな、空は」
クスクスと笑う恋人に、俺は愕然とする。
まさか、浩太は前から俺の体のことを知っていた?
それで治療法を研究する為に、そちらの道を進んだと?
「…う……そ……」
震える俺の頭を撫でながら優しい目で浩太が見下ろしてくる。
「お前が処方箋もらってた病院、親父の企業の系列なんだよ。だからカルテを入手出来て、中学の頃に病状を知った。お前には知らせないように手を回して、将来俺が研究を完成させたら教えて治療しようと思ってたんだ。まさか別の病院で検査して知っちまうとは思わなかったぜ」
バース検査は中学一年の時。まさかその時から進路を定めていたなんて。
「俺の深い愛を舐めるなよ?」
「こ……こう…た……」
涙が止まらない。
そんな前から、ずっと考えてくれていたなんて。
そんな前から、想ってくれていたなんて。
こんないい男に、こんなに愛されていたなんて。
「お前を番にするからな?」
「うん……」
「そして籍を入れるぞ」
「うん……」
「それからお前は大学復帰して、早く卒業しろ」
「うん……」
「俺は一足先に起業して研究を進めるから、早くサポートについてくれ」
「うん……」
「絶対に治して、俺とお前の可愛い子供を産ませてやる」
「………っ」
「愛してるよ、空」
嗚咽で言葉が綴れなくて、ひたすらぎゅうぎゅうしがみついて泣いた。
その夜、俺と浩太は番になった。
空港のロビーを急ぎ足で横切り到着カウンターまで来た俺は、見慣れた姿を探してキョロキョロと辺りを見回した。
スラリとした長身がスーツケースを引いて現れる。
「浩太、ここだよ」
「おう空、ただいま」
近づいてきた浩太に、腕の中の子供がはしゃぐ。
「パパっ、パパだ~」
「蒼汰、良い子にしてたか?」
満面の笑みで息子を抱き上げる浩太。
きゃははと喜ぶ子供に頬ずりしながら俺に向かって微笑む浩太に、俺も幸せな笑みを浮かべた。
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