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「ああ、リィン。来てくれてありがとう。あなたならランディを安心して任せられるから、お兄様にちょっと無理を言ってしまったの」
「リィン、リィン~、いらっしゃい」
午後、ジュディ様のお屋敷に行くと、ジュディ様とランディ様に笑顔で迎えられた。
「お久し振りです、ジュディ様、ランディ様。よろしくお願い致します」
ジュディ様は大きくなったお腹を抱えて、それでも元気そうに微笑んでいる。
「リィン、今日から一緒なんだよね?こっちにいるんだよね?」
ランディ様は、私の足にしがみついて見上げてくる。
2才になったランディ様は黒髪と緑の目で、叔父であるアレス様にそっくりだった。
「はい、暫くはこちらにいますよ、ランディ様」
膝をついて目線を合わせると、わぁいと首に抱き着いてくる。
可愛くて、つい抱き締めてしまう。
無邪気で素直なランディ様は、小さい頃からちょくちょく会う私にとても懐いてくれている。
「リィンの目、やっぱりきれい~。母様がトパーズ色って教えてくれたよ?」
間近から緑の瞳でじいっと見つめてくるランディ様を、私はよく覚えましたねと褒めてあげた。
「ランディったら、本当にリィンが大好きなんだから」
呆れた顔をしながらもジュディ様がクスクスと笑う。
「リィン、お庭で遊ぼう?また一緒にお花の名前調べて?」
キャッキャとはしゃぐランディ様に、ニッコリと笑いながら頷く。
「いいですよ。じゃあ図鑑を持ってきてくれますか?」
「はぁい」
嬉しそうに走っていく後ろ姿を見送ってから、ジュディ様に出産の予定を聞く。
「多分来週には入院すると思うの。今回は双子だから、安全の為にね。順調に行けば、ひと月くらいで帰れると思うんだけど、その間よろしくね」
「かしこまりました。ギャレットさんと一緒にランディ様をお守りしておきますので」
この屋敷の執事ギャレットさんは有能な方で、穏やかな紳士だ。
私の出番はあまり無いと思うけれど、出来ることは頑張ってやろう。
ひと月頑張って、ジュディ様がお帰りになったら、またアレス様の元に戻って仕事が出来るように。
そう考えていた私に、心を砕く言葉が突然降りかかった。
「そういえばアレスお兄様の所は、あなたの後任の執事が入ったのよね?腕前はどうかしら?お屋敷を上手く回していけそうならいいけれど」
私の、後任………私の……
いきなり望みが砕け散った衝撃で、呼吸が止まる。
後任……やはりそうなのか。私は執事を解雇されるのか。
何故?という思いと、私ではやっぱり役不足だったのかという思いがグルグルと回る。
「………イン……リィン、どうしたの?何か顔色が悪いわ」
はっと我に返ると、ジュディ様が心配そうに見ていた。
「……あ…いえ、大丈夫です。昨日少し寝不足でしたので。後任……というと、ヨハンのことですね?」
「まあ、大丈夫?無理はしないでね。そう、ヨハンと言ったわね。アレスお兄様は気に入っているみたいだけど、リィンの目から見てどうかしら?」
「ヨハンは有能ですよ。執事経験も十分にあって、細かい配慮も出来ます。お屋敷の事に関してはもう任せて大丈夫ですよ」
「リィンのお墨付きがあるなら大丈夫ね。安心したわ」
「アレス様は人を見る目が確かですからね」
全力で笑顔の形を作って、穏やかな声で受け答えをした。
体の震えを押さえて、ガンガンする頭痛も無視する。
今は平静を保たなくてはいけない。
出産を目前に控えたジュディ様を不安にさせるなど、もってのほか。
プロの執事として、無様な姿だけは晒したくない。
「リィン、図鑑あったよ~」
遠くで呼ぶ愛らしい声に、私は失礼しますと頭を下げて庭に向かった。
自分の感情にはきつく鍵を閉めて。
「リィン、リィン~、いらっしゃい」
午後、ジュディ様のお屋敷に行くと、ジュディ様とランディ様に笑顔で迎えられた。
「お久し振りです、ジュディ様、ランディ様。よろしくお願い致します」
ジュディ様は大きくなったお腹を抱えて、それでも元気そうに微笑んでいる。
「リィン、今日から一緒なんだよね?こっちにいるんだよね?」
ランディ様は、私の足にしがみついて見上げてくる。
2才になったランディ様は黒髪と緑の目で、叔父であるアレス様にそっくりだった。
「はい、暫くはこちらにいますよ、ランディ様」
膝をついて目線を合わせると、わぁいと首に抱き着いてくる。
可愛くて、つい抱き締めてしまう。
無邪気で素直なランディ様は、小さい頃からちょくちょく会う私にとても懐いてくれている。
「リィンの目、やっぱりきれい~。母様がトパーズ色って教えてくれたよ?」
間近から緑の瞳でじいっと見つめてくるランディ様を、私はよく覚えましたねと褒めてあげた。
「ランディったら、本当にリィンが大好きなんだから」
呆れた顔をしながらもジュディ様がクスクスと笑う。
「リィン、お庭で遊ぼう?また一緒にお花の名前調べて?」
キャッキャとはしゃぐランディ様に、ニッコリと笑いながら頷く。
「いいですよ。じゃあ図鑑を持ってきてくれますか?」
「はぁい」
嬉しそうに走っていく後ろ姿を見送ってから、ジュディ様に出産の予定を聞く。
「多分来週には入院すると思うの。今回は双子だから、安全の為にね。順調に行けば、ひと月くらいで帰れると思うんだけど、その間よろしくね」
「かしこまりました。ギャレットさんと一緒にランディ様をお守りしておきますので」
この屋敷の執事ギャレットさんは有能な方で、穏やかな紳士だ。
私の出番はあまり無いと思うけれど、出来ることは頑張ってやろう。
ひと月頑張って、ジュディ様がお帰りになったら、またアレス様の元に戻って仕事が出来るように。
そう考えていた私に、心を砕く言葉が突然降りかかった。
「そういえばアレスお兄様の所は、あなたの後任の執事が入ったのよね?腕前はどうかしら?お屋敷を上手く回していけそうならいいけれど」
私の、後任………私の……
いきなり望みが砕け散った衝撃で、呼吸が止まる。
後任……やはりそうなのか。私は執事を解雇されるのか。
何故?という思いと、私ではやっぱり役不足だったのかという思いがグルグルと回る。
「………イン……リィン、どうしたの?何か顔色が悪いわ」
はっと我に返ると、ジュディ様が心配そうに見ていた。
「……あ…いえ、大丈夫です。昨日少し寝不足でしたので。後任……というと、ヨハンのことですね?」
「まあ、大丈夫?無理はしないでね。そう、ヨハンと言ったわね。アレスお兄様は気に入っているみたいだけど、リィンの目から見てどうかしら?」
「ヨハンは有能ですよ。執事経験も十分にあって、細かい配慮も出来ます。お屋敷の事に関してはもう任せて大丈夫ですよ」
「リィンのお墨付きがあるなら大丈夫ね。安心したわ」
「アレス様は人を見る目が確かですからね」
全力で笑顔の形を作って、穏やかな声で受け答えをした。
体の震えを押さえて、ガンガンする頭痛も無視する。
今は平静を保たなくてはいけない。
出産を目前に控えたジュディ様を不安にさせるなど、もってのほか。
プロの執事として、無様な姿だけは晒したくない。
「リィン、図鑑あったよ~」
遠くで呼ぶ愛らしい声に、私は失礼しますと頭を下げて庭に向かった。
自分の感情にはきつく鍵を閉めて。
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