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第二部 復興編
19.最優先事項は領主捕縛
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俺達はサーチをかけながら、川に沿って町に向かう。
「それで、そのフェリペとやらはどんなヤツなんだ?」
俺が聞くと、スザールはフンと鼻を鳴らした。
「自分じゃ大した威厳も出せない小物の領主だ。今までは特に逆らうようなことも無かったから放置しておいたが、まさかここに来て宰相閣下の名前を振りかざしてそんなことをするとは」
ちょっと信じられんと首を捻る。
「もしかして、ガザル配下の入れ知恵とかじゃないのか?」
「その可能性が高いな。ゾルゲの入手先も当たってみよう」
とにかく、最優先事項は領主だ。
水源は、今ある川のそばに沿うようにもっと太い流れが地下に見つかった。
そこを掘って足せば十分な量を確保出来るが、ゾルゲを何とかしないと水量を増やしても解決にならない。
まずは柵のある場所で皆が無料で水を汲めれば、応急処置になる。
しばらく川沿いに下った先で、川から横に水が引き込まれていた。
「ここだな」
引き込まれた小さな水路は門の中に続いていて、回りは高い壁に囲まれている。
反対側に回ってみると、そこには入れ物を持った住民達が長い行列を作っていた。
まるで配給の列みたいだ。
眼の前に川があるのに水が汲めず、安全な場所で汲もうと思ったら金を払わないといけないとは。
またまた怒りが込み上げてきた。
「なあ、スザール。領主のヤツ、絶対に一発殴らせろよ」
「何言ってるんだ、一発で済む訳ないだろうが。半殺しに決まってる」
あら、俺より過激でした。
ここに来るまでに、簡単に作戦を練っておいた。
ちょっと過激だが、時間短縮の為にもやらせてもらうぜ。
俺達はわざと商人の旅装を解いて、兵士の格好で帯剣してきた。
馬で入口のそばまで行くと、俺達の姿を見て警備の兵士達はビックリしている。
「我らはライド王子より命を受けた使者である。領主フェリペを至急呼べ!」
「は、はいっ」
慌てて門を開けて走っていく兵士に続いて門から中に入ると、広場の半分がプールのようになっていて、取水口には網と柵が付けられていた。
入口で料金を払って、ここで安全に水を汲むってわけだ。
俺達は馬を下りると、水を汲んでいる住民達にしばらく離れているように伝える。
皆は何が起きるのか興味津々といった顔で、でも端の方に寄って固まってくれた。
建物の方からバタバタと足音がして、小太りのハゲたオヤジが走ってきた。
「何じゃ、何事じゃ。ライド王子の使者だと?」
うわー、絵に描いたような小物人物。
「えっ、スザール…殿……」
広場にいる俺達の中にスザールを見つけた領主の顔が、しまった!という感じに引き攣った。
「領主フェリペ殿、久し振りだな。随分と羽振りが良さそうだが」
威圧感剥き出しの笑顔で笑うスザールはいつになくド迫力だ。
領主は全員貴族なのに、何故スザールが対等な口調なのかというと、なんとスザールも貴族だった。
いやビックリだわ。
貴族が兵士やってるとは思わなかったもん。
そしたらさ、変わり者なんだそうだ。
でも宰相の使者として各地の領主と直接やりとりする時に、貴族の肩書があると色々と便利なんだと。
確かに、そうかも。
領主相手にへりくだる必要がないし、向こうも下手な対応は出来ないもんな。
「……で?この事態は一体何事ですかな?ゾルゲの発生なんて緊急事態の報告は宰相閣下の元には上がってきていないが。ましてや、柵を作って徴収などとふざけた指示は出していない」
「そ、それは……」
普段、問題が生じない限りは遠い王都からそうそう直接出向いて来ることはないので、シシル宰相の直属部下スザールがいることにパニックを起こしている。
それでも腐っても領主、すぐに立て直して笑いだした。
「誰が言ったか知りませんが、それは誤解でしょう。ゾルゲのことは最近に起きたことで、連絡が行違ったのかもしれませんな。徴収している金は、ゾルゲの駆除の費用に充てるもので…」
「ゾルゲの駆除はこちらでやる」
ちょっともう、こんなヤツの戯言を聞いてるほど暇じゃないし、聞く気も起きないので俺がスパっと遮る。
「…は……?……というか、お前は何だ?たかが兵士の分際で、ワシに…」
「たかが兵士だが、聖女様よりご命令を頂いた使者だ」
「へ……せい、じょ…さま?」
立て続けに驚きのセリフを聞いて、領主はポカンと口を開いている。
そうだ、聞いて驚け。
「皆の者、聞け!ライド王子の要請により、このたび聖女様がこの国に降臨なされた!」
回りの兵士達や遠巻きにしている住民達にも聞こえるように、大きな声で宣言する。
「4日後にライド王子がこちらに到着され、聖女様はその4日後にこちらにおいでになる。聖女様はすぐにゾルゲを駆除し、川の水量を戻して下さるぞ!」
兵士も住民もワアア!と歓声を上げる。
「そ、そんな……いや、そんなのは見てみなければ分からん!聖女様が降臨なされたなど、嘘かもしれんじゃないか!」
おう、やっぱりそう来るよな。
必死に言いつのる領主の目の前に、俺は持っていた長めの槍を領主の前の地面にザクっと突き刺した。
「ひぃっ!」
腰を抜かして尻餅をつく領主に、俺は腰をかがめて囁いた。
「これから証明をする。聖女様を疑ったこと、後悔するなよ?」
ニヤっと笑う俺に、領主はピキっと固まった。
「それで、そのフェリペとやらはどんなヤツなんだ?」
俺が聞くと、スザールはフンと鼻を鳴らした。
「自分じゃ大した威厳も出せない小物の領主だ。今までは特に逆らうようなことも無かったから放置しておいたが、まさかここに来て宰相閣下の名前を振りかざしてそんなことをするとは」
ちょっと信じられんと首を捻る。
「もしかして、ガザル配下の入れ知恵とかじゃないのか?」
「その可能性が高いな。ゾルゲの入手先も当たってみよう」
とにかく、最優先事項は領主だ。
水源は、今ある川のそばに沿うようにもっと太い流れが地下に見つかった。
そこを掘って足せば十分な量を確保出来るが、ゾルゲを何とかしないと水量を増やしても解決にならない。
まずは柵のある場所で皆が無料で水を汲めれば、応急処置になる。
しばらく川沿いに下った先で、川から横に水が引き込まれていた。
「ここだな」
引き込まれた小さな水路は門の中に続いていて、回りは高い壁に囲まれている。
反対側に回ってみると、そこには入れ物を持った住民達が長い行列を作っていた。
まるで配給の列みたいだ。
眼の前に川があるのに水が汲めず、安全な場所で汲もうと思ったら金を払わないといけないとは。
またまた怒りが込み上げてきた。
「なあ、スザール。領主のヤツ、絶対に一発殴らせろよ」
「何言ってるんだ、一発で済む訳ないだろうが。半殺しに決まってる」
あら、俺より過激でした。
ここに来るまでに、簡単に作戦を練っておいた。
ちょっと過激だが、時間短縮の為にもやらせてもらうぜ。
俺達はわざと商人の旅装を解いて、兵士の格好で帯剣してきた。
馬で入口のそばまで行くと、俺達の姿を見て警備の兵士達はビックリしている。
「我らはライド王子より命を受けた使者である。領主フェリペを至急呼べ!」
「は、はいっ」
慌てて門を開けて走っていく兵士に続いて門から中に入ると、広場の半分がプールのようになっていて、取水口には網と柵が付けられていた。
入口で料金を払って、ここで安全に水を汲むってわけだ。
俺達は馬を下りると、水を汲んでいる住民達にしばらく離れているように伝える。
皆は何が起きるのか興味津々といった顔で、でも端の方に寄って固まってくれた。
建物の方からバタバタと足音がして、小太りのハゲたオヤジが走ってきた。
「何じゃ、何事じゃ。ライド王子の使者だと?」
うわー、絵に描いたような小物人物。
「えっ、スザール…殿……」
広場にいる俺達の中にスザールを見つけた領主の顔が、しまった!という感じに引き攣った。
「領主フェリペ殿、久し振りだな。随分と羽振りが良さそうだが」
威圧感剥き出しの笑顔で笑うスザールはいつになくド迫力だ。
領主は全員貴族なのに、何故スザールが対等な口調なのかというと、なんとスザールも貴族だった。
いやビックリだわ。
貴族が兵士やってるとは思わなかったもん。
そしたらさ、変わり者なんだそうだ。
でも宰相の使者として各地の領主と直接やりとりする時に、貴族の肩書があると色々と便利なんだと。
確かに、そうかも。
領主相手にへりくだる必要がないし、向こうも下手な対応は出来ないもんな。
「……で?この事態は一体何事ですかな?ゾルゲの発生なんて緊急事態の報告は宰相閣下の元には上がってきていないが。ましてや、柵を作って徴収などとふざけた指示は出していない」
「そ、それは……」
普段、問題が生じない限りは遠い王都からそうそう直接出向いて来ることはないので、シシル宰相の直属部下スザールがいることにパニックを起こしている。
それでも腐っても領主、すぐに立て直して笑いだした。
「誰が言ったか知りませんが、それは誤解でしょう。ゾルゲのことは最近に起きたことで、連絡が行違ったのかもしれませんな。徴収している金は、ゾルゲの駆除の費用に充てるもので…」
「ゾルゲの駆除はこちらでやる」
ちょっともう、こんなヤツの戯言を聞いてるほど暇じゃないし、聞く気も起きないので俺がスパっと遮る。
「…は……?……というか、お前は何だ?たかが兵士の分際で、ワシに…」
「たかが兵士だが、聖女様よりご命令を頂いた使者だ」
「へ……せい、じょ…さま?」
立て続けに驚きのセリフを聞いて、領主はポカンと口を開いている。
そうだ、聞いて驚け。
「皆の者、聞け!ライド王子の要請により、このたび聖女様がこの国に降臨なされた!」
回りの兵士達や遠巻きにしている住民達にも聞こえるように、大きな声で宣言する。
「4日後にライド王子がこちらに到着され、聖女様はその4日後にこちらにおいでになる。聖女様はすぐにゾルゲを駆除し、川の水量を戻して下さるぞ!」
兵士も住民もワアア!と歓声を上げる。
「そ、そんな……いや、そんなのは見てみなければ分からん!聖女様が降臨なされたなど、嘘かもしれんじゃないか!」
おう、やっぱりそう来るよな。
必死に言いつのる領主の目の前に、俺は持っていた長めの槍を領主の前の地面にザクっと突き刺した。
「ひぃっ!」
腰を抜かして尻餅をつく領主に、俺は腰をかがめて囁いた。
「これから証明をする。聖女様を疑ったこと、後悔するなよ?」
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