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第二部  復興編

16.鮮やかな色彩

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「さあ、しっかりと絞ったら、ここに持ってきてくれ」 

十分に浸かった頃合いをみて、服を水から上げて絞る。 

みんなの分をまとめて一ヶ所に積み上げると、ライド王子にこそっと耳打ちをした。 

「さあ、聖女様へのお祈りの時間だ。みんな、館の聖女様に感謝を捧げよう」 

ライド王子の言葉に、その場にいる全員が地面にひれ伏して祈りを捧げだした。 

そう、王子には少しの間みんなの気を逸らしてくれるように頼んだんだ。 

町民には聖女様は領主の館にいると思わせてある。 

館に向かってみんなが祈りを捧げている隙に、俺は積み上がった服の山に乾燥加速をかける。 

「おお?服が乾いているぞ!聖女様が祈りに応えて手を貸して下さったのかな?」 

祈り終えて顔を上げたところで、ワザとらしく声を上げる。 

「え……本当だ、乾いてる!それに、この色……キレ~イ!」 

「わあ~!僕のシャツが青くなってる」 

「おい、ヒモを取ってみろよ!スゴイ模様になってるぞ」 

みんなが服を広げて口々に叫ぶ。 

縛った所が白く残って染まったシャツは、色々な柄になっていた。 

「これは美しい……アキラ、貴方の世界の技術は本当に驚くものばかりですね」 

感嘆の溜め息を漏らすライド王子の手には、俺が手を加えた二色染のシャツがあった。 

全体を青で染めて、絞った中側を黄色で着色したので、夜空と星みたいな感じに仕上がっていた。 

「色んな技術を持った人が開発したんだよ。これは絞り染めっていうんだ」 

修学旅行で行った染物工場で体験したことが、こんな所で役に立つとは思わなかったわ。 

でもこっちに無かった文化ならば、これからガルデーンの特産物になるんじゃないかな。 

この後、染めたシャツやズボンを履いた子供達が町中を走り回ったから、すぐに話題になった。 

その場にいた大人達にも、やり方を伝授しておいた。 

家から綿花の綿を持って来た綿花農家がいたので、綿の段階でも染められることも教えたから、多分色々と工夫して加工していくだろう。 

縛って色がついたヒモは、編んでミサンガにして後日アデル姫にあげた。 

すっごく喜んだけど、切れた時に願いが叶うおまじないだと言ったら、もったいない!と怒っていた。 

まあ、そうだよな。 

 

翌日の朝、ガルデーンを出発する準備をしている所へ、領主と町の人々が見送りに来た。 

近くで領主の顔を見るのは初めてだったが、年配の優しいお爺さんという風情だった。 

でも、やっぱり領主だけあって、眼力はあった。 

「ライド王子、此度は本当にありがとうございました。ガルデーンの民を代表して感謝を申し上げます」 

膝をつき、最敬礼の形をとる領主に、ライド王子が優しく声をかける。 

「領主殿、礼には及びません。この地を救ったのは異界より降臨なさった聖女様です。私は急場しのぎをしただけです。むしろもっと早く救済に回らなければいけない所でした」 

よく持ちこたえてくれましたと、ライド王子が領主の手を握る。 

もったいないお言葉ですと神妙に礼をした領主は、すっと立ち上がるとライド王子にお願いをしてきた。 

「出発される前に、兵士の方々みんなにもお礼を申し上げたいのですが、よろしいでしょうか?」 

「え?みんなにですか?……ええまあ、どうぞ」 

ちょっと面食らいながらも了承した王子は、兵士達を一列に並ばせた。 

個別にお礼とは律儀なお人だな。 

領主は端から兵士達に握手を求め、一声かけてから染めたハンカチをお礼に渡しているようだ。 

昨日の今日で用意したとか、すげー頑張ったな。 

順番が来て俺と握手をすると、領主の目が一瞬見開かれた。 

え?なに? 

次の瞬間、領主がいきなり両手で俺の手をギュッと握って来た。 

「神に遣わされた聖女様に心からの感謝を」 

「!っ………」 

ギリギリ声を上げずに堪えた。 

領主の声は本当に小声だったから、他の人には聞こえていなかっただろう。 

「ありがとうございました。道中お気をつけて」 

「は、はい……」 

元のトーンに戻ってかけられた普通の言葉に、俺もギリギリ平静を装って答えた。 

ニッコリと笑った領主は、隣の兵士に同じように言葉をかけていく。 

混乱しながらも、俺は馬に乗り出発した。 

ライド王子は、領主にもう一度聖女様にお礼を言いたいので会いたいと再三申し入れされて困ったと言っていた。 

聖女様は必要な時に降臨されるので、普段はお会いになれないのですと苦しい言い訳をしましたよと苦笑していた。 

何であの領主、俺が聖女だって気づいたんだ? 

初めて会うのに、どうして。 

道の両脇には町の人々が全開の笑顔で手を振ってくれている。 

あ!あの女の子! 

領主の横に立っているから娘夫婦なんだろう、その母親の腕にだっこされている少女は、昨日頬に赤い花を描いてあげた子だった。 

そっか、領主の孫娘だったのか~。 

どうりで、握手する右手を見た瞬間に反応した訳だ。 

俺の右の人差し指は、赤く染まったままだ。 

あの子が染め物の話をお爺ちゃんにして、あの技術を伝えたのが俺だと気づいたって訳か。 

そして未知の技術を知っている俺が聖女だと確信したと。 

スゲェ、賢者かよ。 

でも多分、あの人ならば言いふらしたりはしないだろう。 

真摯な言葉からも人柄が分かったから。 

町の外れまで手を振って見送ってくれる町の人達の笑顔と、着ている色とりどりの鮮やかなシャツが、目に焼き付いた。 
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