え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第二部  復興編

14.プレゼント

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井戸を確保してから5日、俺達は猛烈な勢いでガルデーンを再生させる為に動いた。 

ガルデーンの住民達も死に物狂いで働いた。 

町の回りに一晩でニョキニョキと生えた巨大なリルの木に腰を抜かしつつも、ガンガン切り倒して用水路の建設資材を作る。 

木製の水路はすぐには完成しない為、水車を作って窪地に貯めた水を横付けした馬車の荷台へ汲み上げて町や畑に運ぶシステムを構築する。 

夜ヘトヘトになるまで耕した畑が、朝には瑞々しい作物をたわわに実らせているのに狂喜乱舞しながら、必死に収穫する。 

何ヶ所かにある食料保存庫が満タンになり、飢える心配がなくなると、領主と住民達は毎朝晩聖女に祈りを捧げるようになった。 

 

「思ったより早く出発出来そうで良かったな」 

俺はライド王子と一緒に、クリーム色に染まった畑を眺めていた。 

ここは綿花が特産で、今は花が咲いているところだった。 

綿花の花がクリーム色をしているなんて、全然知らなかった。 

一面の花畑が、風に揺れる様が綺麗だ。 

「そうですね。まだ底力が残っていて良かったです」 

課題は残っているが、後はガルデーンの住民達で立て直していけるだろう。 

「他の場所も似たり寄ったりですから、早く回らないと」 

「だな。次の町まではどれくらいかかるんだ?」 

「今検討している町までは、8日くらいの距離ですね」 

次の町からは、予定通り2グループに分かれて作業を進めるため、俺は水源探査チームとして少人数で先行する。 

ライド王子とはしばらく別行動だ。 

「じゃあ、今晩はたっぷりお湯につかって英気を養っておこう」 

「ああ、そうでした。風呂の魅力を知ってしまったから、しばらく入れないのは辛いですね」 

あれはクセになると苦笑するライド王子は、すっかり湯船の虜だった。 

今度、お風呂教も立ち上げるか。 

スイカ教と同じくらい信者が増えると確信出来るぜ。 

特に女性は絶対に入信するだろうな。 

「それよりも、領主から聖女様にもう一度お会いして直接感謝を捧げたいと何度もお願いされて困ってるんですよ」 

「あ~、それな」 

ライド王子と笑いながら町へ引き返そうとしたところ、小さな女の子が数人走り寄って来た。 

「王子様!」 

「これ差上げます」 

「お水と食べ物をありがとう!」 

子供達は感謝を口にしながら、手に持った可愛い花束を渡してくる。 

「ありがとう、綺麗な花だね」 

ニッコリと笑って花束を受け取る王子に、女の子達はキャアキャアと悲鳴を上げた。 

おお、完璧なアイドルがここにいる。 

頬を染めたまま走っていく少女達を見送りながら、ライド王子が少し切ない顔になっている。 

「どうしたんだ?」 

「…ああ、アキラは知りませんよね。この赤い花は、王都などでは皿の上の食材に彩を添える食べられる花なんですよ」 

「へえ~、エディブルフラワーってヤツか」 

花束のひとつを渡されてじっくりと見てみると、小さな青い花の花弁はツヤツヤとしている。 

「このまま食べられますよ」 

ライド王子は赤い花を摘むと、ポイっと口に入れる。 

俺も真似して青い花を摘んで口に入れて噛んでんでみると、微かに甘苦い。 

「ん~、ほとんど味は無いな」 

「でしょう?美味しいものではないんです。だから単なる飾りとして使われています。でも、地方では食べ物が無いとこれをよく噛みます。少しの間だけ空腹感が抑えられる成分が入っているので」 

「………そうか」 

鑑賞用としてではなく、空腹を紛らわせる為の花。 

「でも、あの子達はもう、これを食べなくても良くなりました。それが嬉しい」 

花本来の、観賞用として愛でるものになったのが嬉しいと、ライド王子はそっと花の香りを嗅いだ。 

「香りもいい花なんです。ただ………」 

「ただ……?」 

いきなりライド王子がクルっとこっちを向くと、べーっと舌を出してきた。 

「は……?…あれ……?赤い…」 

ペロっと出た舌は、真っ赤に染まっている。 

「まさか、これ……色紅か?」 

「しょくべに?…というのは分かりませんが、口の中が花の色に染まるんですよ」 

アキラの口は真っ青ですよと笑う王子に、青い花を食べた事を思い出した。 

「げっ、バケモンみたいな口になってるのか」 

慌てて舌を触った指が少し青くなっている。 

「暫くすれば消えますよ。布に付くと落ちないですけど」 

「まさに色紅だな、っていうか染め粉か……!」 

あ、また閃いたよ。 

ここの特産は綿花。 

こっちの世界の服は、みんな白というか黄なりで、装飾は刺繍とかになっている。 

じゃあ布自体を染めるって文化が無い? 

「ライド王子、さっきの子供達を追いかけよう!」 

「は?」 

キョトンとしている王子を引っ張って、俺は走り出した。 

「ここの特産物を思いついた!」 
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