え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第二部  復興編

13.井戸掘り

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捗ってた~! 

ってかもう、ほぼ完成って言ってもいい。 

大きめに囲った貯水槽と、横に大きめに作った簡易シャワー場。 

やっぱり兵士の数が多いと、作るのも早いな。 

しかも貯水槽の壁は3重くらいに厚く頑丈に作られている。 

いいねぇ、これなら掘る時に安心だわ。 

ん?でもまだ水路が全然無い。 

「ライド王子、貯水槽はいいけど水路は?町まで伸ばす形に準備しないとさ……」 

領主の横にいた王子をコッソリと呼んで聞いてみると、王子がにっこりと笑って紙を渡してくる。 

開いてみると、これは設計図? 

「アキラ、この場を確認している時に、領主殿から案を頂いたんだ」 

簡易地図には、貯水槽とシャワー施設があり、その横にプールみたいなものと水車が描かれていた。 

「ほら、槽の横が大きな窪地になっているだろう?一旦ここに水を溜めて、そこから水車で汲み上げて町まで運ぶ形にしたらどうかと」 

貯水槽の裏手を覗いてみると、なるほど大きな窪地になっていた。 

「しばらくはある程度沁み込んでしまうだろうけど、ゆくゆくは防水シートを下に敷いて巨大な風呂のようにすればしっかりと溜められるだろう?」 

巨大な風呂? 

はあ~そうか、来る途中で入った風呂をヒントに考えた訳か。 

「やるなあ、ライド王子」 

感心したわ~、どんな情報もしっかりと憶えておいて活用できるとは。 

絶対に賢王になるよ、コイツは。 

更に、レンガで水路を作っていないのは、ここが柔らかい砂地という理由からだった。 

水が砂に吸い込まれないように一からレンガを町まで敷設するのはかなり大変なので、木の板をU字に組んで水路にした方が良いと。 

離宮は元々町中に貯水槽を作った為、回りは既にレンガ敷きだったけど、ここは町から外れた砂地。 

なるほどね、この場所に合った方法だ。 

じゃあ後で材料として使えるように、リルの木をバンバン生やしておこう。 

そう、俺達はここでずっと作業を手伝える訳じゃないからな。 

水と作物の確保が出来たら、すぐにつぎの土地に移動しなくちゃいけない。 

臨時の対策と、恒久対策は別にして考えないとだ。 

「じゃあ、早速井戸を掘ろうか」 

スザールに指揮をとってもらって、全員を離れた場所まで退避させる。 

俺は少し離れた所で貯水槽のレンガを乾燥加速して固めてから、リルの枝を中央に刺して離れる。 

「聖女様の奇蹟が起きるぞ!みんな祈りを捧げよ」 

スザール、ナイス! 

スザールの号令に、領主を始め筆頭にみんながひれ伏して祈りを捧げだす。 

ちょっと異様な光景だけど、今は有り難い。 

では、その隙にリルの木の成長を加速! 

離宮の兵士達は、この後何が起こるのか分かっているので顔だけ持ち上げて身構えている。 

そのポーズが変で、吹き出しそう。 

メキメキという音と共に育つリルの木。 

深さが10メートルくらいだから、マックス近くまで成長させれば水源に届く筈だ。 

そろそろか? 

スポーン!という音と共にリルの木が吹っ飛ぶ。 

シャンパンの栓を開けたみたいだ。 

水柱と共に舞い上がった巨木は、後ろの窪地にドドンという地響きと共に落下した。 

「ひいっ」 

「ひええっっ」 

みんなが悲鳴を上げて腰を抜かす中、ライド王子達ただけは歓声を上げている。 

うん、慣れてきたよな。 

良いか悪いかは別としてね。 

俺も今回は、余裕の目で眺めていた。 

実はリルの枝を刺すと時に、少し窪地の方に傾けて刺しておいたんだよね。 

そっちにすっ飛ぶように計算したのさ。 

水の勢いが噴水から湧き水に変わるくらいまで、領主と兵士達はポカンと眺めていたが、だんだんと実感が湧いてくるとワアワアと騒ぎだした。 

「……嬉しいのは分かるんだが、水が出る時は変な踊りを踊る決まりとかあるのかね?」 

ザウスが、喜ぶ領主達を苦笑しながら眺めている。 

「………さあな……」 

阿波踊りの変形みたいな踊りを舞っている領主以下ガルデーンの兵士達を、微妙な目で見つめる離宮チームという図。 

俺らもあんな踊りしてたんか? 

傍から見ると、ドン引きだなぁ。 

とにかく、ここにも水源が確保され、復興の希望が灯った。 
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