え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

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第一部  離宮編

18. 天然掘削機作戦 ②

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俺の祈りが通じた訳じゃないだろうが、リルの成長はギリギリ貯水槽の枠内で止まった。 

「よ……良かった~」 

無意識に止めていた息をはーっと吐き出した。 

これで次の段階、燃焼のリスクが下がる。 

「よーし、乾燥に入るぞ!」 

「おう!」 

ザウスの返事を確認してから、俺はマックスまで育ったリルの木の乾燥を加速させて、水分を出来るだけ抜く。 

細くなった木がグラリと傾いて、回りの兵士達に緊張が走ったが、貯水槽の枠が何とか支えている。 

加速を止めた合図を送ると、ザウスの指示で火のついた松明を持った兵士が貯水槽横の水場に登った。 

松明を投げ込むと、兵士が素早く退避する。 

パチパチと音がしたかと思ったら、あっという間にリルの木全体に火が回る。 

乾燥してると、本当に良く燃えるな~。 

「加速するぞー!」 

俺がベランダから叫ぶと、回りを囲んだ兵士達が防火板をしっかりと支え直して、おう!と気合を入れた。 

燃えるリルの木の燃焼速度を、どんどん加速させていく。 

ゴォーッと一気に燃え上がり、リルの木は巨大な火柱に変わった。 

うわぁ、熱気がここまで押し寄せてくる。 

防火板や兵士達の体から水蒸気が上がってる。 

あの近距離にいたらキツいよな、頑張ってくれ。 

時間を短くする為に、燃焼速度を上げれば、温度も上がる。 

貯水槽のレンガが赤くなったら、そこが限界だ。 

木が燃え尽きるのが先か、兵士達が熱に耐えられなくなるのが先か。 

火柱の上に火の粉が舞う。 

かなり細くなっている気がするけど、まだか? 

もうヤバいんじゃね?と思った瞬間、シュンっという感じで火が消え去った。 

やった!完全燃焼だ。 

速攻で雨雲を作って、さっきと同じ範囲に雹になる寸前くらいの冷たい雨を降らす。 

つ、冷たっ! 

でもほてった体が急速に冷えていく。 

下の兵士達も座り込んでへばっていたけど、気持ち良さそうに浴びてる。 

熱射病で倒れたりしてるヤツはいないな?良かった。 

火の粉が屋根に落ちて延焼したらいけないので、建物もしっかりと濡らそう。 

粗熱が取れたところで貯水槽の中を覗き込んだら、綺麗な円形でぽっかりと穴が空いていた。 

重石をつけたロープを下ろして測ったら、想定より深い6メートルの深さがあった。 

おお~、思わず拍手が沸いたぜ。 

この幅と深さの穴を、この短時間で空けられるなんて、マジでリルの木を崇めよう。 

人力なら何日かかることやら。 

触れる温度まで下がった穴にロープを括りつけた兵士が下りて、壁面に樹脂粘土を塗っていく。 

そこを乾燥加速させて、底にリルの枝を刺し、同じ工程をもう一度行う。 

防火板を押さえる兵士は、もちろん交代させた。 

日に2回はシンドイもんな。 

2回目で、10メートル以上の深さになった。 

このペースなら、3日で水脈まで到達する計算だ。 

城に帰ってから、頑張った兵士達にキンキンに冷えた果実水を大盤振る舞いした。 

これで明日の英気を養うのだ。 

 

 

2日目からは手順も分かって、作業は順調に進んだ。 

深さが10メートルを超え、貯水槽の上から覗いてるリルの木が数メートルだけになったので、防火対策がかなり楽になったのもある。 

それでもウッカリ延焼は絶対にダメなので安全対策はしっかりととって進めた。 

20メートル近く深さがある分、壁面の補強塗装に時間がかかる。 

それでも予定の深さまで進めたので、ほっとした。 

「明日には水脈まで到達するのですか?」 

「うん、さっきサーチしたら、後7メートルくらいだったから、明日にはいけると思う」 

サーチした水脈は、豊富な水量があって流れもそれなりにあるので、穴があけば地上まで水が上がってくる筈だ。 

「枯れない水が湧く……夢のようです」 

希望に満ちたライド王子の瞳は、以前とは全く違って強い光が灯っている。 

そうだよな、これが成功すれば干ばつが解消される一歩になるもんな。 

「そうなれば、昔のように緑滴る豊かな地が甦ります」 

遠くに思いを馳せて微笑んでる王子を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。 

「……うん、俺も見てみたいな。緑の大地のジオゲネス」 

砂ばかりが続く不毛の地じゃなくて、緑の絨毯が広がった景色。 

きっとすごく綺麗なんだろうな。 
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