上 下
12 / 44
第一部  離宮編

12.スイカ栽培(爆速)

しおりを挟む
みんなに説明するには実物を見せるのが一番なので、早速畑に出る。 

乾燥に強い果物…いや、これって野菜か?瓜科だもんな。 

でもフルーツだよな~、甘いし。 

まあどっちでもいいわ。 

とにかく作ろう。 

収穫の終わった畑を湿らせてからタネを点々と植えて、それ加速。 

大きくて瑞々しいスイカに育てよ~。 

発芽して葉が出ると、蔦がニョロニョロと地面に這い出す。 

うお、これはキモい。 

「……ちょっと……これは…」 

「……うん」 

みんなも腰が引けてる。 

蔦が早回しでのたくって伸びてくる図は、ビジュアル的にかなり気持ち悪い。 

でも美味しいスイカになるんだ、我慢だ我慢。 

みんなでドン引きしながらも、黒と緑の玉が大きくなっていくのを期待の目で見守る。 

「よし、こんなもんかな」 

中々のサイズに膨れた所で、成長を止める。 

あ~、この縞々模様をこの異世界で見れるとは思わなかった。 

キンキンに冷えてた方がいいけど、まずは味見だ。 

ザウスが大振りのナイフでザクザクと割っていく。 

切るそばから水が滴るさまに、みんなが驚いてる。 

「すごい保水力の実ですな」 

ザウスが切り分けながら感心している。 

「そうなんだよ、これがスイカの特徴なんだ」 

「スイカというのですか。見た目の縞模様が不思議な実ですね」 

ふふふ、ライド王子よ、食べたらブッ飛ぶぞ。 

「さあ、食べてみてくれ」 

物珍しそうに眺めている中で、俺が先陣を切って手を伸ばす。 

あのスイカは東北の特産品で、わざわざお取り寄せした逸品だから美味さは折り紙付きだ。 

三日月型の真ん中からガブリとかぶりつく。 

「……うっま!」 

向こうで食べたのと寸分違わずの歯応えと甘み、迸る果汁! 

これだよこれ~! 

やっべ、超美味い~。 

口の端から果汁を滴らせながらガブガブと齧る。 

やばい、止まらん。 

赤い所が無くなるまで齧って、ようやく一息つく。 

「あ~、最高だ」 

ふと静かな回りを見たら、全員一心不乱でかぶりついてた。 

うん、食べ終わるまで待つよ。 

「な…なんだこれは!美味すぎる!」 

「すごい水分ですな。それに甘みもあって、これはたまりません」 

そうだろう、そうだろう。 

自分が開発した訳でもないのに、どや顔になっちまう。 

「これなら、交易品としていけるんじゃないか?」 

みんなを見回すと、満場一致でお墨つきを貰えた。 

真剣な顔で収穫と保存をどうするかとか、衝撃を与えないように輸送する方法とかを早速会議し始めたが、全員口の端から赤い汁、滴ってるぞ。 

残りのスイカを今度は畑にいた兵士達や女性陣にふるまうと、全員もれなくスイカの虜になった。 

スイカ教、爆誕の瞬間だった。 

食べ終わった種を回収して畑に撒いて、再び加速育成。 

これは今晩の城の連中のデザート兼、次の種の回収に当てよう。 

夜までしっかりと冷たい水で冷やしておいたスイカで、全員もれなく信者になった。 

水浴び祭りの次は、スイカ祭りと相成った。 

 

さて、このスイカを交易品の目玉として売り込む訳だが、実は俺が救済を開始してから、外から来る行商人達は城の下を通っている街道の門を閉じて、外でやり取りをしてもらっていた。 

情報漏洩を少しでも遅らせようという狙い。 

だって広場で水がドバドバ出てたら、奇跡が起きたって即バレじゃん? 

ある程度町が回復するまでは、中に部外者を入れずに立て直しを図る算段だった。 

元々、行商人の数も大して多くなかったのも幸いして、そんなに混乱はなかった。 

門の手前に露店スペースを作って、町の人達が外に出て買い付けをする形にしたんだが、これが結構スムーズにできていた。 

で、スイカの流通をどうするかとなった時に、意外な人物が手を上げた。 

「私が販路を確保しましょう」 

「え…?」 

なんと、召喚士のリネルがやると言い出した。 

「リネルって召喚士だろ?商売のことなんか分かるのか?」 

「ええ、私の家は代々商家で、私自身もずっと商いに従事して参りましたので」 

「は?」 

なんとリネルのメインの仕事は、城で対外的に物資の流通とかを管理したり交渉したりすることだった。 

あの賢者のローブを普通の服に替えて長い髪を後ろで縛り、メガネをかけたら、あらビックリ。 
ちゃんとお役人っぽく見えるわ。 

ええ、召喚士の方が副業だったの? 

そらそうか、今まで召喚とかやってなかった訳だし、職業として成り立ってない訳ね。 

俺って、実はかなり偶然呼ばれただけってか?あぶねっ。 

 

で、リネルは商売の才覚はバッチリあって、来ている行商人達の中から良い販路を持ってる人をチョイスしてここの地方で新たに開発に成功した特産物としてスイカの流通経路をサクサクと確立させた。 

もちろん行商人達にスイカを試食させて、もれなくスイカ教の信者に仕立てた上でだ。 

布教者の才覚もアリか。 

有能なヤツだった。 

流通地域は、敢えて王都を外した地方から進める。 

金の工面としては値段を高めに設定したい所だが、他の水不足の地域にとってもこのスイカは救世主になる訳で。 

悩んだ結果、サイズを大と中の2サイズ作ることにした。 

中サイズは庶民が買えるリーズナブルな金額にして、大は完熟させて付加価値を上げ、貴族や領主達裕福層に高値で売り込めばいい。 

毎日の日課にスイカ栽培が加わった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

処理中です...