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第一部  離宮編

11.交易

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阿鼻叫喚(喜びの)の水掛け祭りが落ち着くと、ライド王子が次の指示を出す。 

「この中に食料品店の者はいるか?」 

高い位置から見渡すと、数人が手を上げている。 

誘導して広場の端に集めると、水業者達が材料を運んできた馬車に乗ってもらって城に向かう。 

ここからは2本立てで展開だ。 

水業者達には、各家庭の水瓶に城からくまなく水を配給してもらう。 

広場まで遠くて来れない人や、家から出られないお年寄り子供達もいるからだ。 

それと並行して、今度は城の馬車を使って食料の配布も行う。 

脱水症状だけ改善しても、栄養失調が解決しないと次のステージに進めないからな。 

これは食料品を扱う業者に担当してもらう。 

水と同じで、食料を無料配布しちゃうと商売があがったりになる人達ね。 

当面、みんなの栄養状態がある程度回復するまでは無料配給をする予定なので、それをこの食料業者達にやってもらって、代わりに城から給料を貰う。 

ウィンウィンの関係だな。 

 

城の満杯になった倉庫を見て、みんな腰を抜かさんばかりに驚いてた。 

聖女様は水だけじゃなく、食べ物も降らせて下さるのですか!?と聞いた時は吹いたわ。 

あ~、聖女様がどんな能力を持ってるか明かしてないからね。 

全部降ってくるとか、シュール過ぎる。 

想像して爆笑したわ。 

カボチャとかジャガイモ降ってきたら凶器になるじゃん。 

野菜や果物、肉モドキとかをたんまり乗せた馬車がどんどん出発していく。 

乾燥させたリルの薪も忘れずにな。 

みんな、今晩は御馳走を腹いっぱい食べてくれよ。 

俺も兵士達と楽しい夕食とシャワータイムだ。 

そして爆睡。 

向こうの世界でも寝つきは良かったけど、こっちに来てからは連日寝転がったら2秒ともたない。 

 

 

翌朝までたっぷりと寝て美味い朝食を食べたら、恒例の畑加速。 

1回で城と町の住民達の分は賄える。 

500戸くらいだから出来る芸当だ。 

これが大都市だったら無理だった。助かったわ。 

今日は兵士の半分を広場に派遣して、水場の横に公共浴場というかシャワー施設を建設する。 

衛生状況も向上させなくちゃな。 

乾燥の出番になったら呼んでもらうとして、俺とライド王子達は医師のテッセルと部屋に集まった。 

教会の状況を先日詳しく調査してもらったので、その対策会議だ。 

「脱水症状や栄養失調の者達は、徐々に回復してくるので心配はいりませんが、他の病気の者達です」 

テッセルの話によると、薬がかなり不足しているらしい。 

この土地で育たない薬草なんかは交易業者と取引して入手しているらしいんだが、何分国庫がすっからかんだ。 

買いたい薬草も買えない訳か。 

「王都には現状を何度も訴えてはいるのですが……」 

「第一王子は全く反応しないと」 

悔しそうに俯く王子が哀れだ。 

聞くところによると、病に臥せっている国王の代行をしているこの第一王子ガザルは、イケメンで見栄えはいいが国政には全く興味なしで、怠惰で贅沢三昧の日々を王都で送っているらしい。 

はー、絵に描いたようなクソ野郎だな。 

宰相は有能なので何とか回しているようだが、何分全国漏れなく状態が悪いので、切れる手札が殆ど無い。 

それでも国庫の財源を薬の買い取りなどに充てることは出来る筈なのだが、出した文には反応がないときてる。 

「……それって、宰相も漏れなくクソか、文が手元に届いてないかのどっちかじゃね?」 

この現状を見ていると、さすがに口も悪くなる。 

「シシル宰相は、真面目で公平な方です。この現状を知っていて無反応ということはないと思います」 

ライド王子は子供の頃からシシルを知っていて、真面目で優しい人柄だと保証する。 

この東の地にライド王子の派遣が決まった時も、最後まで反対してくれたそうだ。 

「じゃあ、宰相の傍にガザルの手の者がいて、握りつぶされてる可能性が大だな」 

「でしょうな」 

しかし、王都まで直訴に行ってる時間も無し、行っても会えるか分からない状況だ。 

まずはここを立て直してからじゃないと始まらない。 

「交易か……」 

う~む、懐を潤すような目玉商品か、特産品……。 

岩山に鉱石が埋まっている訳じゃないし、収穫できる作物はこの辺ではありきたりなものばかり。 

「砂漠地帯で目玉となるようなもの……」 

みんなで腕を組んで唸っても、なかなか案は出ない。 

そりゃそうだ、いい案があるならもっと前にやってるわな~。 

異世界飛ばされるって分かってりゃ、俺の世界から色んな植物の種持ってきたのになぁ。 

暑い部屋の中で男共がウンウン唸ってる様は、なかなかに暑苦しい。 

はぁ、この暑さだもんな~。 

うう、スイカが恋しいぜ。 

「………ん?…スイカ……あ、ああ?」 

変な声出た。 

まてまて、俺召喚された時に持ってたよな? 

あの瑞々しくて美味い、あれ。 

「ちょっ、ちょっと待ってろ!」 

ポカンとした顔で見られてるが、それどころじゃない! 

あれだ!スイカ! 

やべー、すっかり忘れてたわ。 

ダッシュで俺の部屋に戻ると、壁のそばのカウンターをギン!と見る。 

「あったー!」 

ありましたよ、スイカさん! 

良かったわ~、捨てられてたらどうしようかと思ったわ。 

すっかり存在を忘れられてカピカピになってたけど、タネはバッチリ残ってる。 

よっしゃ、これを育てて交易品にしたら売れね? 

この暑い砂漠で、水分タップリの甘いスイカ。 

リルの塩をかけたらもう完璧じゃんか! 

うお、想像しただけで涎が出たわ。 

 

俺は再びダッシュで会議室に戻って、鼻高々で黒い種を見せた。 

みんなの反応はイマイチだったけどな。 

種から育った姿は想像できないもんな、しゅん。 
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