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第一部 離宮編
10.貯水場始動
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さて、今日は一つ目のビッグプロジェクトを始動させる。
町の広場に昨日作った、貯水場の稼働開始だ。
城の菜園は、朝一番で一通り加速させた。
今日からは町の方で人手がかかる為、後の収穫・加工・貯蔵要員は、最低限の人数にした。
広場には、昨日城に来てもらった水の業者達が馬車と共に既に待っていた。
兵士達と業者達の前で、ザウスが説明を開始する。
「これから昼過ぎまでに、ここから農園まで水路を作る。設計図は受け持ち場所のリーダーに渡してあるので、迅速にとりかかってくれ」
「はっ」
掛け声と共に、男達はチームに分かれて一斉に動き出す。
業者の馬車に積んだレンガと粘土で、貯水場から町の外れにある農園まで水路を作るのだ。
これが無いと広場が水浸しになっちまうからな。
水不足から一転、水害とかないわ~。
何とか今日の午後には水の供給を開始したいから、ハイペースで進める。
町の外れとか言っても、そんなに大きな町じゃないから、大体500メートルといったところだ。
兵士120人の内、100人連れて来たから、何とかなるだろう。
「アキラさ……アキラ、ここまでは完成したから頼む」
ザウスから乾燥の指示が来る。
「了解~」
初め、ザウスは聖女である俺を呼び捨てにするなどできませんと恐縮したが、一兵士を王子付きの護衛であり一の臣下であるザウスが敬語を使ったらバレバレだろうと説得したんだ。
俺は体育会系だから、年上から敬語で話される方が違和感あるから、むしろ有難い。
可能な限り、聖女ってバレたくないしな。
腹筋割れた大柄な男が聖女とか、イメージ悪すぎだろう。
二度見どころか、三度見しても受け入れられんわ。
「しっかり囲んでくれな」
出来上がった場所から、順番にシートで回りを囲って乾燥をかけていく。
チーム割りしたのが功を奏して、みんな競うように組み立てている。
わらわらと兵士達が作業しているのを、町の人達は怪訝な表情で見守っている。
不思議そうにはしているけど、口を出す者はいない。
みんな、口を出す気力も無いといった感じでぼんやりと見ている。
本当に限界が来ているんだと、その虚ろな目で感じる。
「…もう少しだからな」
暑い中、汗だくでやる作業でも、兵士達は一生懸命頑張ってる。
みんなの必死の頑張りで、予定よりも少し早く、昼頃には完成した。
ザウスの指示で可能な限りの町民を広場に集めた。
器を持ってくるように指示され、みんな訳も分からず手にコップくらいの容器を持ってきている。
そこへライド王子が現れると、皆の目に小さな期待の光が灯るのが見えた。
王子から少し配給があるのかと思ったんだろう。
残念だが、少しどころじゃないぞ。
「皆の者、連日の暑さで体調が優れない者が多いだろう。水も行き渡らず、作物も育たない。なのに王都からの支援もまともに来ない。辛い思いをさせてきた。本当に申し訳ない」
ライド王子が悲しそうに語るのに、みんなは王子は悪くないと口を揃える。
貧困に喘ぎながらも、ライド王子が必死に何とかしようと頑張っているのをみんなは知っているんだと分かる。
ちゃんと評価されてるんだな、ライド王子は。
ただ、この不毛な土地で出来ることは限られてるから、どうしようもないんだと。
自然が相手では、出来ることも少ないと。
「しかし、私は何としてもこの地を昔のように緑の大地に戻したい。その為に、秘策を用意した」
ライド王子からの小さな合図で、俺は貯水槽の中に意識を集中した。
雨雲を小さく凝縮して作る。
黒く密集して、たっぷりと水分を含んだ雲から冷たい雨を降らす。
突然ザーッという音が箱の中から聞こえてきたので、みんなはビクッと体を竦ませている。
驚かせてすまん、音だけはどうにもならんのよ。
「他の者にはまだ黙っていてもらいたいが、私とリネルは過去の文献から秘術を探し出し、聖女様のご降臨に成功したのだ」
「……え?」
「…せいじょ…さま?」
「せいじょ様って……聖女様か?」
ザワめく人々に向かって、ライド王子がニッコリと笑って頷く。
「そう、聖女様だ。この地を救って下さる為に降臨なされた。そして、まずは皆に水を与えて下さる」
その言葉と同時に、貯水口から水が噴き出す。
よし、タイミングがバッチリ合った。
最高の演出じゃん。
「おおおっ」
「ええっ…これって水?うそ…」
「本当に聖女様が降臨されたんだっ!」
みんなが、うわああ~と仰天している間に上段がいっぱいになり、中段へ水が流れ落ち始める。
「さあみんな、飲み放題だぞっ」
兵士達が上段の縁に立って、バケツで掬った水を景気よくみんなの頭上にぶちまける。
「うわあっ、冷てえっ!」
「きゃあ~、気持ちいい」
「飲ませてくれぇ~!」
みんなが手に持った器で水を掬い、ゴクゴクと飲んで歓声を上げる。
「美味い……こんなに美味い水は初めて飲むよ」
「ああ、冷たくて甘くて……最高に美味しい」
下段まで水が溜まり始めると、子供達が裸足で入って遊びだす。
「冷た~い!」
「気持ちいいねっ」
みんなの目に生気が戻ってきた。
さっきまでと同一人物とは思えない程、広場中に満面の笑顔が咲く。
「ライド王子、ありがとうございます」
「聖女様に感謝を」
泣きながら祈りを捧げる人々。
ライド王子や兵士達も、ちょっともらい泣きしている。
そうだよな~、辛かったもんな。
俺も空手の練習が厳しくて、軽い脱水症状になったことはあるけど、それでもしんどかった記憶がある。
慢性の脱水症状なんて、辛過ぎるって。
その現状を見ながら、何も出来なかった城の連中も辛かったよな。
俺も兵士達に混じって貯水槽の縁に立って、バケツで豪快に水を撒いた。
水を浴びる度に、歓声が上がる。
「こっちもかけてくれ~」
「おうよ!」
自慢の筋力で、遠くの方までジャンジャン撒く。
嬉しい悲鳴はどんだけ聞いてもいいもんだ。
なんかこれ、どこぞのレジャー施設のイベントでやってなかったか?
老若男女、全部無礼講でかけまくりだ!
町の広場に昨日作った、貯水場の稼働開始だ。
城の菜園は、朝一番で一通り加速させた。
今日からは町の方で人手がかかる為、後の収穫・加工・貯蔵要員は、最低限の人数にした。
広場には、昨日城に来てもらった水の業者達が馬車と共に既に待っていた。
兵士達と業者達の前で、ザウスが説明を開始する。
「これから昼過ぎまでに、ここから農園まで水路を作る。設計図は受け持ち場所のリーダーに渡してあるので、迅速にとりかかってくれ」
「はっ」
掛け声と共に、男達はチームに分かれて一斉に動き出す。
業者の馬車に積んだレンガと粘土で、貯水場から町の外れにある農園まで水路を作るのだ。
これが無いと広場が水浸しになっちまうからな。
水不足から一転、水害とかないわ~。
何とか今日の午後には水の供給を開始したいから、ハイペースで進める。
町の外れとか言っても、そんなに大きな町じゃないから、大体500メートルといったところだ。
兵士120人の内、100人連れて来たから、何とかなるだろう。
「アキラさ……アキラ、ここまでは完成したから頼む」
ザウスから乾燥の指示が来る。
「了解~」
初め、ザウスは聖女である俺を呼び捨てにするなどできませんと恐縮したが、一兵士を王子付きの護衛であり一の臣下であるザウスが敬語を使ったらバレバレだろうと説得したんだ。
俺は体育会系だから、年上から敬語で話される方が違和感あるから、むしろ有難い。
可能な限り、聖女ってバレたくないしな。
腹筋割れた大柄な男が聖女とか、イメージ悪すぎだろう。
二度見どころか、三度見しても受け入れられんわ。
「しっかり囲んでくれな」
出来上がった場所から、順番にシートで回りを囲って乾燥をかけていく。
チーム割りしたのが功を奏して、みんな競うように組み立てている。
わらわらと兵士達が作業しているのを、町の人達は怪訝な表情で見守っている。
不思議そうにはしているけど、口を出す者はいない。
みんな、口を出す気力も無いといった感じでぼんやりと見ている。
本当に限界が来ているんだと、その虚ろな目で感じる。
「…もう少しだからな」
暑い中、汗だくでやる作業でも、兵士達は一生懸命頑張ってる。
みんなの必死の頑張りで、予定よりも少し早く、昼頃には完成した。
ザウスの指示で可能な限りの町民を広場に集めた。
器を持ってくるように指示され、みんな訳も分からず手にコップくらいの容器を持ってきている。
そこへライド王子が現れると、皆の目に小さな期待の光が灯るのが見えた。
王子から少し配給があるのかと思ったんだろう。
残念だが、少しどころじゃないぞ。
「皆の者、連日の暑さで体調が優れない者が多いだろう。水も行き渡らず、作物も育たない。なのに王都からの支援もまともに来ない。辛い思いをさせてきた。本当に申し訳ない」
ライド王子が悲しそうに語るのに、みんなは王子は悪くないと口を揃える。
貧困に喘ぎながらも、ライド王子が必死に何とかしようと頑張っているのをみんなは知っているんだと分かる。
ちゃんと評価されてるんだな、ライド王子は。
ただ、この不毛な土地で出来ることは限られてるから、どうしようもないんだと。
自然が相手では、出来ることも少ないと。
「しかし、私は何としてもこの地を昔のように緑の大地に戻したい。その為に、秘策を用意した」
ライド王子からの小さな合図で、俺は貯水槽の中に意識を集中した。
雨雲を小さく凝縮して作る。
黒く密集して、たっぷりと水分を含んだ雲から冷たい雨を降らす。
突然ザーッという音が箱の中から聞こえてきたので、みんなはビクッと体を竦ませている。
驚かせてすまん、音だけはどうにもならんのよ。
「他の者にはまだ黙っていてもらいたいが、私とリネルは過去の文献から秘術を探し出し、聖女様のご降臨に成功したのだ」
「……え?」
「…せいじょ…さま?」
「せいじょ様って……聖女様か?」
ザワめく人々に向かって、ライド王子がニッコリと笑って頷く。
「そう、聖女様だ。この地を救って下さる為に降臨なされた。そして、まずは皆に水を与えて下さる」
その言葉と同時に、貯水口から水が噴き出す。
よし、タイミングがバッチリ合った。
最高の演出じゃん。
「おおおっ」
「ええっ…これって水?うそ…」
「本当に聖女様が降臨されたんだっ!」
みんなが、うわああ~と仰天している間に上段がいっぱいになり、中段へ水が流れ落ち始める。
「さあみんな、飲み放題だぞっ」
兵士達が上段の縁に立って、バケツで掬った水を景気よくみんなの頭上にぶちまける。
「うわあっ、冷てえっ!」
「きゃあ~、気持ちいい」
「飲ませてくれぇ~!」
みんなが手に持った器で水を掬い、ゴクゴクと飲んで歓声を上げる。
「美味い……こんなに美味い水は初めて飲むよ」
「ああ、冷たくて甘くて……最高に美味しい」
下段まで水が溜まり始めると、子供達が裸足で入って遊びだす。
「冷た~い!」
「気持ちいいねっ」
みんなの目に生気が戻ってきた。
さっきまでと同一人物とは思えない程、広場中に満面の笑顔が咲く。
「ライド王子、ありがとうございます」
「聖女様に感謝を」
泣きながら祈りを捧げる人々。
ライド王子や兵士達も、ちょっともらい泣きしている。
そうだよな~、辛かったもんな。
俺も空手の練習が厳しくて、軽い脱水症状になったことはあるけど、それでもしんどかった記憶がある。
慢性の脱水症状なんて、辛過ぎるって。
その現状を見ながら、何も出来なかった城の連中も辛かったよな。
俺も兵士達に混じって貯水槽の縁に立って、バケツで豪快に水を撒いた。
水を浴びる度に、歓声が上がる。
「こっちもかけてくれ~」
「おうよ!」
自慢の筋力で、遠くの方までジャンジャン撒く。
嬉しい悲鳴はどんだけ聞いてもいいもんだ。
なんかこれ、どこぞのレジャー施設のイベントでやってなかったか?
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