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第一部 離宮編
6.育成加速
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早朝に空腹で目が覚めてしまった。
やっぱあの食事内容と量じゃ、育ち盛りは耐えられんわ。
部屋のテーブルに盛られていた果物から、ひとつだけリンゴに似たヤツを申し訳ないと思いつつ食べてから部屋を出た。
入口の警護についていた兵士に、昨日夜勤で水浴び出来なかった連中を中庭に集合させるように頼む。
ちゃんと公平に水浴びさせてやらんとね。
中庭で野太い喜びの声を聞いてから、朝食とは名ばかりのパンひとつとスープを腹に流し込む。
絶対に今日中に何とかしよう、これは。
まずは建物の上部の端にある部屋をひとつ見繕って、そこを貯水槽にすることにした。
床や壁に防水性のある動物の皮を貼って水漏れを防止して、窓から外に筒状にした皮を垂らして下に荷車を持ってきてホースみたいに給水出来るようにしよう。
兵士達に作業を指示してから、次は菜園に向かう。
「こちらが城の畑になります」
ライド王子達と菜園管理者に案内されて来たのは、城の横手にある広い菜園。
とは言っても、使われているのは半分くらいで、元気のない野菜が点々と植えられている。
その先は岩山沿いに砂漠になっていて、見渡す限りの不毛の地だった。
「本当に延々と砂漠なんだなぁ」
「はい、降水量が減ってからは、更に砂漠化が加速しています」
ライド王子もザウスも悔しそうに地平線を見ている。
青い空と黄色い砂漠のコントラストは綺麗だったけど、これを緑地化とか無理くね?
「これでも、私が子供の頃は緑の草原だったのです」
「えっ………そうなのか?」
草原、だったのか。
じゃあ、もしかしたら可能なのかもしれない。
俺は畑の中に入って、土を触ってみた。
これは普通の土だな。
「この土は、どこから持って来たんだ?」
「元々、ここの土です。表面はほとんど砂ですが、掘ると徐々に土の割合が増えてきます」
「なるほど。じゃあ軽く耕せば、水捌けの良い土になるんだな」
ここ数年で急速に砂漠化が進んだってわけか。
これなら希望が持てそうだ。
昨日のうちに菜園管理者にお願いして、野菜や植物の種を沢山用意してもらってある。
まずは水からだ。
「じゃあ、やってみよう」
菜園の端には、葉が石鹸の元になるリルと呼ばれる木が三本、枯れる寸前のようにひょろひょろと立ってる。
ちょっとイチョウの木に似てるな。
あの少し先までを範囲に決めて、俺は雨雲を作り出した。
始めは土煙が上がるくらい乾燥していた土地が、しっとりと濡れてくる。
「よし、じゃあ何も植えていない所の土を軽く耕して、そこに種を撒いてくれ」
兵士達が一列になって、クワでサクサクと土を掘り返していく。
その後を女性達が籠から種を振り撒いていく。
炎天下でやるとしんどいから、雲はそのまま畑の上にキープしておく。
「陽射しが無いだけで、随分と作業が楽ですな」
兵士と一緒になって耕していたザウスが、嬉しそうにクワを担いで戻ってきた。
何か似合っててウケるわ。
「これからどうするのですか?」
ライド王子とリネルがワクワクとした目で畑を見つめている。
「一気に収穫するところまで育てる」
「は……?」
ポカンとしてる王子の横で、リネルがハッと気がついたように俺を見た。
「…加速……ですか」
「そう、そいつを試してみようと思ってさ」
俺のもう一つのスキル、加速で作物の育成を早められるんじゃないかと思ったわけ。
発想はジャックと豆の木な。
雲を散らし、兵士達を自分の後ろまで下がらせてから、今度は畑の土に意識を集中させる。
さて、ジャックが撒いた豆のイメージだ。
撒いた種から芽がニョキッと出て、茎がグングン伸び、葉がワッサリと繁る。
土の中では根が大きく張り、水と土から栄養を吸い上げる。
果物はどんどん実をつけてそれが膨らみ、たわわに実る。
小麦は金色の房をつけ、重さで頭を垂れる。
イメージは固まった。
「………さあ、育て!」
畑の土からポコポコと緑色や黄色の芽が伸びだした。
「おっ……おお~」
「出たぞ、芽が出た」
成長は止まらず、どんどん伸びて葉が繁る。
皆が茫然と見ている前で、種はあれよあれよという間に成長していく。
野菜系はサイズがマックスになったところで、実ははちきれる寸前で成長を止めるように。
イメージしたところで、育成はちゃんと止まった。
「………すっげぇ…」
「なんと………」
あ然とする兵士達に混じって、俺もポカンと口を開いてしまった。
こ、この世界の植物、でけぇ~。
麦の背は俺の胸の高さくらいまであるし、リンゴやトマトに似た実は二倍のデカさ。
朝かじったヤツは、栄養不足であのサイズだったのか~い。
「よぉ~し、野郎共!一気に収穫するぞー!」
ザウスの号令で、兵士達がウオォーと声を上げて鎌やカゴを持って畑に突撃する。
「えっと~、テンさんだっけ?この量でどれくらい賄えるの?」
喜びで涙を流している菜園管理者さんに聞くと、
「これなら城の兵士達が一週間はドカ食い出来ますよ」
良かった良かったと泣いているテンさんの横で、もう一人おんおん泣いている人がいた。
んん?誰だっけか?
「ええっと………あ~、備蓄倉庫担当の人か」
「これで……これでカラッポだった倉庫に食料を貯められます~」
ああ、今までは今日食べる分で精一杯だったから、当然備蓄には回せなかったよなぁ。
すっからかんで不安だったろうな。
「じゃあさ、今日の畑のものは当面の食料として使って、明日は備蓄に回したいものを植えてどーんと回収しようか」
「ああああ、ありがとうございます~」
ひれ伏して泣いている倉庫担当さんを宥める役と畑の収穫監督をザウスとリネルに任せて、俺はライド王子と屋内に戻った。
さて、貯水部屋は出来上がったかな?
やっぱあの食事内容と量じゃ、育ち盛りは耐えられんわ。
部屋のテーブルに盛られていた果物から、ひとつだけリンゴに似たヤツを申し訳ないと思いつつ食べてから部屋を出た。
入口の警護についていた兵士に、昨日夜勤で水浴び出来なかった連中を中庭に集合させるように頼む。
ちゃんと公平に水浴びさせてやらんとね。
中庭で野太い喜びの声を聞いてから、朝食とは名ばかりのパンひとつとスープを腹に流し込む。
絶対に今日中に何とかしよう、これは。
まずは建物の上部の端にある部屋をひとつ見繕って、そこを貯水槽にすることにした。
床や壁に防水性のある動物の皮を貼って水漏れを防止して、窓から外に筒状にした皮を垂らして下に荷車を持ってきてホースみたいに給水出来るようにしよう。
兵士達に作業を指示してから、次は菜園に向かう。
「こちらが城の畑になります」
ライド王子達と菜園管理者に案内されて来たのは、城の横手にある広い菜園。
とは言っても、使われているのは半分くらいで、元気のない野菜が点々と植えられている。
その先は岩山沿いに砂漠になっていて、見渡す限りの不毛の地だった。
「本当に延々と砂漠なんだなぁ」
「はい、降水量が減ってからは、更に砂漠化が加速しています」
ライド王子もザウスも悔しそうに地平線を見ている。
青い空と黄色い砂漠のコントラストは綺麗だったけど、これを緑地化とか無理くね?
「これでも、私が子供の頃は緑の草原だったのです」
「えっ………そうなのか?」
草原、だったのか。
じゃあ、もしかしたら可能なのかもしれない。
俺は畑の中に入って、土を触ってみた。
これは普通の土だな。
「この土は、どこから持って来たんだ?」
「元々、ここの土です。表面はほとんど砂ですが、掘ると徐々に土の割合が増えてきます」
「なるほど。じゃあ軽く耕せば、水捌けの良い土になるんだな」
ここ数年で急速に砂漠化が進んだってわけか。
これなら希望が持てそうだ。
昨日のうちに菜園管理者にお願いして、野菜や植物の種を沢山用意してもらってある。
まずは水からだ。
「じゃあ、やってみよう」
菜園の端には、葉が石鹸の元になるリルと呼ばれる木が三本、枯れる寸前のようにひょろひょろと立ってる。
ちょっとイチョウの木に似てるな。
あの少し先までを範囲に決めて、俺は雨雲を作り出した。
始めは土煙が上がるくらい乾燥していた土地が、しっとりと濡れてくる。
「よし、じゃあ何も植えていない所の土を軽く耕して、そこに種を撒いてくれ」
兵士達が一列になって、クワでサクサクと土を掘り返していく。
その後を女性達が籠から種を振り撒いていく。
炎天下でやるとしんどいから、雲はそのまま畑の上にキープしておく。
「陽射しが無いだけで、随分と作業が楽ですな」
兵士と一緒になって耕していたザウスが、嬉しそうにクワを担いで戻ってきた。
何か似合っててウケるわ。
「これからどうするのですか?」
ライド王子とリネルがワクワクとした目で畑を見つめている。
「一気に収穫するところまで育てる」
「は……?」
ポカンとしてる王子の横で、リネルがハッと気がついたように俺を見た。
「…加速……ですか」
「そう、そいつを試してみようと思ってさ」
俺のもう一つのスキル、加速で作物の育成を早められるんじゃないかと思ったわけ。
発想はジャックと豆の木な。
雲を散らし、兵士達を自分の後ろまで下がらせてから、今度は畑の土に意識を集中させる。
さて、ジャックが撒いた豆のイメージだ。
撒いた種から芽がニョキッと出て、茎がグングン伸び、葉がワッサリと繁る。
土の中では根が大きく張り、水と土から栄養を吸い上げる。
果物はどんどん実をつけてそれが膨らみ、たわわに実る。
小麦は金色の房をつけ、重さで頭を垂れる。
イメージは固まった。
「………さあ、育て!」
畑の土からポコポコと緑色や黄色の芽が伸びだした。
「おっ……おお~」
「出たぞ、芽が出た」
成長は止まらず、どんどん伸びて葉が繁る。
皆が茫然と見ている前で、種はあれよあれよという間に成長していく。
野菜系はサイズがマックスになったところで、実ははちきれる寸前で成長を止めるように。
イメージしたところで、育成はちゃんと止まった。
「………すっげぇ…」
「なんと………」
あ然とする兵士達に混じって、俺もポカンと口を開いてしまった。
こ、この世界の植物、でけぇ~。
麦の背は俺の胸の高さくらいまであるし、リンゴやトマトに似た実は二倍のデカさ。
朝かじったヤツは、栄養不足であのサイズだったのか~い。
「よぉ~し、野郎共!一気に収穫するぞー!」
ザウスの号令で、兵士達がウオォーと声を上げて鎌やカゴを持って畑に突撃する。
「えっと~、テンさんだっけ?この量でどれくらい賄えるの?」
喜びで涙を流している菜園管理者さんに聞くと、
「これなら城の兵士達が一週間はドカ食い出来ますよ」
良かった良かったと泣いているテンさんの横で、もう一人おんおん泣いている人がいた。
んん?誰だっけか?
「ええっと………あ~、備蓄倉庫担当の人か」
「これで……これでカラッポだった倉庫に食料を貯められます~」
ああ、今までは今日食べる分で精一杯だったから、当然備蓄には回せなかったよなぁ。
すっからかんで不安だったろうな。
「じゃあさ、今日の畑のものは当面の食料として使って、明日は備蓄に回したいものを植えてどーんと回収しようか」
「ああああ、ありがとうございます~」
ひれ伏して泣いている倉庫担当さんを宥める役と畑の収穫監督をザウスとリネルに任せて、俺はライド王子と屋内に戻った。
さて、貯水部屋は出来上がったかな?
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