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第一部  離宮編

5.水浴び祭り

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「さて、優先順位を決めよう」 

城に戻ってライド王子の部屋に集まってもらったのは、兵士長や女中頭、それに菜園管理者と料理長と医師。 

城の中枢メンバーを集めて、俺の正体を明かしてこれからの対策を協議することにした。 

とりあえず城の全員には早々に正体を明かしておいた。 

どうせこれから皆に色々と手伝ってもらうしな。 

正体を明かした途端に、聖女様のご降臨ありがとうございます~の平伏し儀式が始まりそうになったから、それは必死に止めたよ。 

マジで聖女はやめてくれ。 

俺の心が折れるから。 

「一番は水の配給。次が食料の確保でしょうね。衛生面も心配ですが、まずは食料を確保しなければ始まりません。その上で土地の改善に着手したいと考えます」 

「だよな。まず応急処置として教会へは毎日城から水を運ばせよう。その後、目をつけておいた街の広場に給水場所を作ろう。その前に、この城のどこかに大きな水を溜める場所を作れないかな?」 

「水を溜める?」 

ライド王子が不思議そうに首を傾げてる。 

「そう、そこで昼間のアレをやれば、たっぷり溜められるだろ?ついでにずっと雨雲をキープできるかどうかの実験にもなるし」 

「おお、そうか!そこから樽に給水すればいいのか」 

半数はキョトンとしていたが、昼間一緒にいたメンバーはすぐにピンときた。 

「まずはこの城を拠点にして、実験もしながら配給をするわけですな」 

ザウスの目も輝いている。 

「出来ることを確認してからじゃないと、民達に肩透かしを食らわせちゃうからな。それにまずは兵士達に元気になってもらわないと手が足りない」 

「そうなると、少し高い位置に作った方が各方面に分配も楽に出来ますね。馬車を下に付けて樽に落とし込めれば手間が省けますし」 

おおリネル、いい案だ。 

「城で使う水はもう汲みに行かなくていい分、建設や配給に人員を回せます」 

「では、調理場や洗濯室もそこから水を回せるようにしてもらえると便利ですね」 

「裏の畑にも通したい」 

次から次へと案が出るわ出るわ。 

水は大事だってことだよな。 

恒久対策じゃないけど、当面はそれで現状の改善に繋げるしかないよな。 

「これから兵士達に手伝ってもらう為にも、まずはここでの水と食料の安定供給の体制を確立しよう。次に街の民へ展開する」 

皆の顔に、やる気が漲っている。 

俺は見事な白髪の老医師テッセルに、石鹸の作り方を聞いてみた。 

「畑で栽培していますリルの葉を乾燥させて砕いてから煮ます。それを固めると石鹸になります」 

リルの葉は殺菌作用が強いので、石鹸にするには最適なんだそうだ。 

植物由来だから口に入っても問題ない。 

食器洗いにも洗濯にも使える万能石鹸か。いいね~。 

「それをたくさん作りたんいだ。街にも配布できるくらいに」 

「リルの木が畑に三本しかないので、あまり採れないのです。水不足で葉の付きも悪く……」 

よし、明日は城の畑の方を改善して、食料事情と石鹸の材料確保をしよう。 

その前に、シャワーパーティをしなくっちゃな。 

とりあえず方針が決まったので、食事にしようとライド王子が言ったとき、俺ははたと思い出した。 

「ちょいまち。食事だけどさ、俺も皆と同じヤツを食べたいんだ」 

「え……いえ、それは……」 

狼狽える王子の様子に、やっぱり風呂と一緒で俺は特別待遇だったんだとわかった。 

「街の人達があんな様子なら、ここも似たようなもんだろ?俺だけいいもん食うとか罪悪感がハンパないんだよ」 

俺だけ別室で食べると本当に同じものか分からないから、兵士達と一緒に食べることにした。 

 

「………マジで?これが食事?」 

思わず目を疑う量と質だった。 

薄いスープと固いパンが二個、ペラッペラの干し肉が一切れ、木の実みたいなものが少し。 

これは想定以上の困窮状態じゃないか。 

「これでも、夜は一番豪華なのですよ」 

横に座るザウスが申し訳なさそうにしている。 

うそだろ~、これであの炎天下に働けと言われても無理だろ。 

これは、明日から色々と頑張ってもらうためにも、城の食料事情は早急に改善せねば。 

数分で食べ終えてしまう食事を終えると、俺はおもむろに立ち上がって叫んだ。 

「おし、野郎共!今日は中庭で水浴びするぞ!全員剣を置いて集合するように」 

俺の声に、皆はきょとんとしている。 

「水浴び……?」 

「中庭って……砂しかないじゃないか」 

「……砂浴びか?」 

訳が分からずポカンとしている連中を、昼間同行していた兵士達が笑顔全開で誘導してくれる。 

ザウスに医務室からあるだけの石鹸を持ってきてもらい、俺も中庭に出た。 

警備や仕事についているメンバーを除く男達が集まり、ザワザワとしている。 

「よし、じゃあやるか」 

昼間と同じく雨雲のイメージを頭上に明確に思い浮かべる。 

綺麗な星空がみるみるぼやけてくる。 

雨雲のイメージは、昼間よりも簡単に出来るようになった。 

一気に土砂降りに近い勢いで降らせる。 

「うわ!これって雨か?」 

「すげぇ~、雨だ!」 

全員がウオーッと雄叫びを上げて喜んでいる。 

昼間に浴びたけど、夜までにまた汗をかいたから気持ちいい。 

タップリと濡れたところで一旦止めて、石鹸を皆で回して頭を洗い腰布で体も洗う。 

一応外なので俺はパンツは履いていたが、結局ほとんどの者がパンツも脱いで真っ裸になって全身を洗っていた。 

城の窓からキャーと黄色い声が聞こえたが、野郎共は笑いながらお互い背中を擦り合ったりしてはしゃいでいた。 

「よ~し、流すぞ~!」 

再びドバッと降らせて石鹸と一緒に汗や汚れを流し終えると、むさくるしい連中は綺麗さっぱりの清潔男子になった。 

リルの葉の石鹸はハーブのような香りで、洗い上りがさっぱりとして気持ちがいい。 

うん、これは是非とも大量に作らねば。 

寒くないし空気が乾燥しているので、パンツを替えて体は絞った布でさっと拭けばすぐに乾いてしまう。 

「は~、さっぱりした」 

乾燥した風が髪を乾かしていくのが気持ちいい。 

「聖女様、万歳~!」 

「はっ!?」 

いきなり横の方で叫び声が上がったので、俺はぎょっとして回りを見渡した。 

拳を上げて叫んでいるのは、昼間一緒に街を回った連中だった。 

「ばんざ~い!」 

「聖女様、サイコー!」 

シュプレッヒコールは一気に回りに伝染して、男達は口々に叫びだす。 

純粋な喜びから来る叫び、それは嬉しい。 

嬉しいんだが……… 

「だから、聖女はやめろって~!」 

そこだけは納得いかーん! 

ギャハハと笑いが上がってから、 

「アキラ様、ばんざ~い!」 

に変わったので、まあ良しとしよう。 

長らく水浴びすら出来なくて臭い体を抱えていた連中にしてみれば、俺は神様に見えるよな。 

感謝の叫びを聞いてニマニマしながら中に入った俺は、すぐにわらわらと駆けつけてきた大勢の女性陣に取り囲まれてしまった。 

ひえっ、パンツ一丁なんすけど、俺。 

「あの……聖女様にお願いが…」 

女性から聖女様って言われると、ショックが大きいわ~。 

「アキラって呼んで下さい」 

とお願いしてから話を聞くと、女性陣もシャワーを浴びたいとのこと。 

あ~そりゃそうだ。むしろ女性の方が浴びたいよな。 

でも外で、という訳にはいかないし、どこか良い場所はないかと聞くと両側から腕を掴まれて連行されました。 

ぐはっ、腕に当たってるから!柔いものが当たってるから気をつけてっ! 

鼻血出そう。 

こちらですと案内されたのは程々の広さのホール。 

そこに城に勤める女官全員が集結していた。 

おお、壮観。 

女性は夜は仕事がないので、全員が集まれるんだと。 

一気に浴びられるのは都合がいいな。 

俺は入口の外のベンチに座り、垂れ幕越しに雨雲を作って雨を降らせた。 

きゃあきゃあと可愛い声を上げて、女性陣はシャワーを楽しんでいる。 

野郎どもの野太い声より、全然いいわ。 

仕上げのシャワーは、少し暖かい温度の雨にしてみた。 

女性は体を冷やしちゃいけないしな、うん。 

これがまた非常に好評だった。 

「アキラ様、ありがとうございます~」 

髪もしっとりして美人度が上がった女性陣からの感謝の合唱に、鼻の下が伸びそうになったのはナイショだ。 

明日からの糧になるわ~。 
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