上 下
2 / 48
第一部  離宮編

2.間違えてない?

しおりを挟む
それから聞いた説明によると、ここはジオゲネス帝国といって、大陸で一番の大国で千年の歴史があるんだそうな。 

国の半分が砂漠で暑くて乾燥していると。ほうほう。 

最近は東京も砂漠かってくらいの気温だから、そんなに驚かなかったけど。 

むしろこっちの方が湿気が少なくてカラッとしてる分、楽な気がする。 

ここ数年は干ばつと大飢饉に見舞われ、民は栄養失調と脱水症状でばたばたと倒れ危機に瀕している。 

王様は病に臥せっていて現在は宰相が執務を代行しているが、なかなか思うように対策が打てていない、と。 

ここは離宮で、王都から東にかなり離れており干ばつによる被害が一番大きい土地で、第一王子の命により第二王子が改善の為に派遣されている。 

「あれ?あんた……えっと、ライド王子?は第二王子って言ったか?じゃあ第一王子は?」 

「兄のガザルは……」 

王子を筆頭に、全員が苦虫を噛み潰したような顔をするのでピンときた。 

あれか、超使えない設定の王子様かい。 

「ガザル王子が次期国王に即位した暁には、このジオゲネス帝国は滅亡するでしょう」 

護衛のザウスが吐き捨てるように言う。 

おお、そこまでのクソヤローなのか。 

悪化した土地をどうにかできる訳などないと知りつつ、改善出来るまで戻ってくるなと言うあたり、体のいい厄介払いというわけね。 

しかもやっぱりこの第二王子、体が弱かった。 

運よく死んでくれたら、さらにラッキー的な思いも透けて見えるな。 

「しかし、まずはこの飢饉を乗り越えないと、どちらにしても国の未来はありません」 

確かにね~。 

民が死んじまったら、国どころじゃないわな。 

「それで、そこのリネルさんとライド王子で、昔の文献を探しまくって召喚術をやってみたと」 

「はい。かなりの賭けでしたが、無事成功して聖女様がいらして下さいました」 

おいおい、リネルさんよ。そんなにニコニコしてるけど、本当に成功なのかい? 

何か違うもん召喚してないかい? 

「でも、今まで召喚したのは、全部女性だったんだよな?」 

「…………あくまで文献によりますと、です」 

いやいや、何故に拘る? 

そんなに眉間に深く皺を刻んでまで聖女と言い張る意味が分からんわ。 

「俺、胸なんか無いからね?」 

Tシャツをまくって胸を見せると、ザウスの目がキラリと輝いた。 

「おお、アキラ様は随分と鍛えていらっしゃいますな。なにか武芸を嗜まれているのですか?」 

「うん、空手3段……あ~、一種の体術ね」 

俺、部のエースだもん。 

全国大会でもベスト8に入る猛者よ?腹筋バキバキだろ? 

あと、趣味はパルクールね。説明できないから省くけどさ。 

聖女って言葉がここまで似合わん人物もそういないかと。 

「リネル、アキラ様のスキルと魔力量の確認を」 

「はい。アキラ様、少し失礼します」 

王子に言われた召喚士が、俺に向かって両手をかざして不思議な言葉をブツブツと呟き始める。 

おっ、何か手の平がぼんやりと光ってる。 

魔法っぽい。 

「これは……想像以上の魔力量です。こんな膨大な量は見たことがありません」 

リネルが目を真ん丸にして驚いている。 

「人間には持ちえない量の魔力、目が眩みそうです」 

え、それって、俺はもう人間越えてるってこと?神様? 

いわゆるチートってヤツか。 

「スキルは………三つありますね。ひとつは、降雨」 

「水のスキルがあるのかっ」 

ふたりの顔に喜色が浮かぶ。 

まあ干ばつなら、そのスキルは喉から手が出るほど欲しいよな。 

「あとは………加速と、探知ですね」 

んん~?何かびみょーなスキルだな。どう使えと? 

まあ、降雨があればいけるんじゃね? 

「アキラ様、どうか民を救う為にお力をお貸しください」 

「うん、分かった」 

簡単に頷いた俺に、三人がポカンとしている。 

だってなぁ、夢の中で色々とゴネてもしょうがなくね? 

我ながら凝った設定だから、どんなストーリーになるのか興味があるというか。 

明日は土曜だけど部活あるし、いつ妹が帰ってきて起こされるかわからないしな。 

「では、食事と湯汲みの支度をさせましょう。今日はゆっくりとお休み下さい」 

明日また伺いますと言って三人は出ていってしまった。 

あれ、ストーリー進まないの? 

目覚めちゃうよ~とか考えてたら、女性達が料理や果物を乗せた器を持って入ってきた。 

わ~お、男性の服はギリシャ風だなと思ったけど、女性陣のはアラビア風だよ。 

これがまたみ~んな美人で、めっちゃセクシー。 

くびれっ、見事なくびれでボンキュボン。 

うほぅ、男子高校生には目の毒だわ。 

湯汲みも手伝うと言ってきたけど、丁重にお断りした。 

こんな女性陣に背中なんか流されたら、超ヤバイでしょ。 

一気にR18の世界に直行だよ。 

それも有りか?とかチラッと考えちゃったけどな? 

結構厳しい親に育てられたから、理性が邪魔をする。くそ~。 

ベッドもふっかふかで、少し考えようとゴロリと転がったら、朝だった。 

爆睡かよ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...