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第二章
人魚誕生
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「ナオ、少し落ち着けよ」
「うん、そうなんだけどね~」
ウロウロと行ったり来たりしてたら、ラシードに呆れられちゃった。
う~ん、だって気になるんだよ。
「近くなったらメルサが呼びに来てくれるんだろ?」
「うん」
朝からソワソワしてるのは、一昨日メルサがラウンジで教えてくれたことが原因。
「そろそろカナンとナギの卵が孵化しますよ」
「えっ」
ビックリしてスプーンの上にあったプリンもどきがベチャッとテーブルに落ちた。
ひいっ、もったいないっ。
ごめんよぅ、ココル。今のは不可抗力だよ。
「孵るの?人魚生まれるの?」
わあっ、大変だ~
と、アワアワしてたら、横のライジャに笑われた。
「ナオ、そんなに慌ててもすぐには生まれないぞ」
「え、そうなの?」
キョトンとしてたら、カナンが説明してくれた。
「孵化の兆候が出てから、だいたい2日くらいはかかるよ~」
そうなのかぁ。
でも、もうすぐなんだな。
ライジャ達の後は生まれてないから、167年ぶりの人魚誕生。
ふお~、楽しみだっ。
「明後日の昼くらいだと思います。皆さん立ち合いたいでしょうから、呼びますね」
皆もワクワクした顔で頷いてる。
ナギとカナンは見つめ合って微笑んでいる。
一番楽しみなのは、ふたりだよね。
で、今ラウンジでウロウロしているのは、その予定の時間だからです。はい。
休憩に来たラシードと一緒に、ココルが入れてくれた飲み物を飲みながらソワソワ。
「アイツらはミルク玉たっぷりやってるから、余裕で元気な子供が生まれるよ。タップリどころか3倍は作ってるもんな」
おっそろしいとラシードはブルっと体を震わせてる。
「ラシードのとこだって2つの卵にあげてもまだ余るくらいあるんでしょ?」
「う……まあな。カナンが作れ作れって鬼のように言ってくるからな」
「あ~、予備ミルク用にね。あればあるほど安心だもんね」
カナンの研究も順調みたいで、他の親のミルク玉でもちゃんと栄養が採れるように改良が進んできたらしい。
元の世界で言うところの粉ミルクだね。
ミルク玉の何がスゴいって、何もしなくても保存期間が100年を超えるってとこだな。
保存料とか無しにだよ?すごいわぁ。
俺やライジャのエキス玉はもっとスゴくて、1000年はいけるらしい。
もう驚異の世界。
超高級なラムネとチェリーボンボンだ。ふはっ。
「僕も人魚が生まれるのを見るのは初めてなんです。すっごいワクワクですよぉ」
飲み物のお代わりを注いでくれたココルは、トレイを持ったままウキウキとしてる。
「そっか、ココルも最終世代だったから見たことないんだね」
「はい。孵化施設自体も入ったことないので、それも楽しみです」
あ、そうか。子供を持たない民はミルクを届けるとか卵を抱くとかの用事がないから入らないのか。
俺はいつもフリーパスで入ってたから気づかなかった。
ちょっと気になる案件だな~。
「ココル。ココルはまだ結婚してないけど、孵化施設とか教育施設って興味はない?」
「え?興味はありますよ~。卵も見たいし。でも何か親になってないのに近づくのはいけないような気がして……」
ほほぅ、これはいつものメンバーで検討してみたらいいかも。
実は半ルルゥ化するのを躊躇ってるというか、怖がってる民がいるって小耳に挟んでるんだよね。
単純に変化が怖い人もいるんだろうけど、変化した先のことがピンときてない人もいるんじゃないだろうか。
それなら孵化施設とか、人魚が生まれたら稼働する教育施設とかを見学出来るようにしてみるのも手かもしれないな~。
よし、今後の計画に練り込んでみようっと。
「ナオ様、そろそろ変化しそうなので、施設においで下さい」
「わわっ、了解~っ」
ぶつぶつと考え込んでいたら、メルサが呼びにきたよ。
俺はラシードとココルと一緒に施設に向かって飛び出した。
孵化施設の中は、今や色とりどりの卵が仕切りの中でたくさん浮いてて、カラフルな部屋になってる。
「わあぁ~、スゴイ~」
ココルは大興奮しているけど、卵に何かあったら大変だから暴れないように必死に堪えてヒレがプルプルしてる。
うん、わかる~。
ひゃあ~って、のたうち回りたくなるよねぇ。
これが全部、新しい命なんだもんね~。
卵を管理してる施設の係の中に知った顔を見つけた。
「あ、ラース。リィサ~」
ふたりも俺に気づくと笑顔でやってきた。
「ナオ様、いらっしゃい」
俺がここにきて病気だったラースを治してから、恋人同士だったふたりはこの施設で保育士になって卵の管理をしてくれている。
よく顔を出す俺とはもう仲良しで、たまにココルのお菓子を持ってきて一緒に食べたりしてるんだ。
ふたりも結婚して半ルルゥ化して、半年前に子供を作っている。
「ナギ様達の卵ですね。変化が始まったので、奥の部屋に移ってますよ」
「ありがとう、楽しみだね~」
「ええ、本当に。久しぶりの子供の誕生ですからね」
リィサもニコニコと嬉しそう。
「ナギ様とカナン様はもう中にいらっしゃいますよ」
ラースに促されて、皆で奥の部屋に向かう。
部屋にはナギとカナンの他に、レムルが機械の操作をしていた。
「おっ、ナオ様。ちょうど始まるところですよ」
「レムル、久し振り~」
さっきのふたりと同じく、俺がケガを治したレムルは勉強をすっごく頑張って、今や孵化施設長になってる。
ケガするまでは鉱山で働いていたから逞しい体をしてるし、性格はカラッとしてて明るくて頼りがいがある好青年。
地元の青年団とかに入ってそうなタイプだね。
今やモテモテの旬なイケメン。
「あ、ココルは初めて会うよね。レムルだよ~。俺がケガを治した人」
初対面のココルをレムルに紹介したら、人懐こいココルにしては珍しく緊張してた。
「は、初めまして……ココルです」
「ども、初めまして。レムルです」
白い歯がキラリとしそうな爽やか青年に、ココルは頬を染めてホワっとなってる。
おお?なんかいい感じ?
恋が始まっちゃう予感~とかポヤポヤしてたら、ライジャや他の統括の面々がわらわらと入ってきて、部屋はイモ洗い状態になってしまった。
いやプールじゃないけどさ。
水の中だけにね。
そう、生まれてくるのは人魚だから、孵化施設は全部屋水の中。
「あ、始まりますよ」
会話をする間もなく、卵の光が強くなってきた。
ナギとカナンの前で緑と青の混ざる光が煌めいて次の瞬間、ポンっと弾けるような音と共に光が消えた。
そこには緑の鱗と髪の小さな小さな人魚が自分のヒレを抱くようにして丸まって浮かんでいた。
「………わぁ…」
ち、小さい……片手に乗りそうなくらい小さい。
丸まっていた人魚の目がスウっと開くと、大きな水色の綺麗な瞳が現れた。
ナギがおずおずと手を差し出すと、両手の中に納まった子供が親指にきゅうっとしがみついてふにゃっと笑った。
「かっ……可愛いっ」
リカーさんとメルサさんの声がハモった。
「ちゃんと親だって分かるんだなぁ」
ラシードとダルクとアンヘルがうんうんと驚いたように頷いている。
ナギがカナンの手にそっと子供を渡すと、カナンの手が小さく震えていた。
「……ああ………ナギの小さい頃とそっくりだ…」
愛しくてしょうがないって気持ちが溢れているのが丸わかりだよ。
「…ナギ、俺が名前をつけてもいいかい?」
カナンがナギの顔を伺うように聞いた。
あ、そうか、名前のことを完全に忘れてたな。
「もちろんだ。お前の方がセンスあるだろ」
ナギも異存は全くないと頷いてる。
「………ナナリィ」
「ナナリィ?」
「うん、俺とお前の名前にあるナをひとつずつと、リリィの希望となる子供だからリィ、そしてお二人ルーリィの語尾とも同じになるので」
そう言って俺とライジャを見たカナンが、子供を俺達に渡してきた。
「お二人の子供でもあるんですから」
ライジャが両手で抱くと、大きな目をパチパチとしてライジャをじっと見ている。
「ナナリィ……良い名だ。きっと優しくて強い子になるだろう」
ライジャが優しく微笑んで、俺に子供を預けてきた。
ふわわっ、本当に小さくて可愛い。
そうっと丸い頬を人差し指で触ると、プニプニしている。
「…ああぅ」
ナナリィがくすぐったそうに笑ってから、俺の指を小さな手で掴んだ。
「…っ……」
一気に込み上げてきた気持ちは、色々と混ざっていて一言では言い表せない。
可愛い、愛しい、嬉しい……
気持ちが玉になって目からボロボロと零れる。
笑いながらも涙は止まらない。
「ナナリィ……ようこそ、この世界に」
俺が零すルルゥの涙を不思議そうに目を丸くして見ていたナナリィは、不意に一粒をキャッチして、はむっと食べてしまった。
「ひえっ、食べたっ……カナン、ナナリィが玉を食べちゃったよ?大丈夫?」
パニクってカナンを見たら、大丈夫だと頷いてる。
「祝福のルルゥの涙だから問題ないよ。むしろ元気な子に育つよ、ありがとう」
よ、良かった~。
当のナナリィは美味しかったらしく、きゃっきゃと喜んでいる。
そういやライジャも甘くて美味しいって前に言ってたな。
「初めての食事がこんなに高級品じゃあ、グルメになっちまうかもな~」
ラシードがふざけて言うと、部屋中が笑いに包まれた。
これからこんな可愛いチビ人魚がたくさん生まれてくるんだ。
ベリオンの町は一気に騒がしく、活気に満ちるだろうな。
「ますます忙しくなるね、ライジャ」
ナナリィをナギに返してから、横にいるライジャを見上げると、銀色の目をキラキラさせて微笑んでくれる。
「そうだな、頑張らないとな」
腰に回ったライジャの手にグっと力が籠って、頭にキスを落とされた。
俺は周りで喜びあっている人達をグルっと見回してから、もう一度ライジャを見てニッコリと笑った。
「一緒にねっ」
「うん、そうなんだけどね~」
ウロウロと行ったり来たりしてたら、ラシードに呆れられちゃった。
う~ん、だって気になるんだよ。
「近くなったらメルサが呼びに来てくれるんだろ?」
「うん」
朝からソワソワしてるのは、一昨日メルサがラウンジで教えてくれたことが原因。
「そろそろカナンとナギの卵が孵化しますよ」
「えっ」
ビックリしてスプーンの上にあったプリンもどきがベチャッとテーブルに落ちた。
ひいっ、もったいないっ。
ごめんよぅ、ココル。今のは不可抗力だよ。
「孵るの?人魚生まれるの?」
わあっ、大変だ~
と、アワアワしてたら、横のライジャに笑われた。
「ナオ、そんなに慌ててもすぐには生まれないぞ」
「え、そうなの?」
キョトンとしてたら、カナンが説明してくれた。
「孵化の兆候が出てから、だいたい2日くらいはかかるよ~」
そうなのかぁ。
でも、もうすぐなんだな。
ライジャ達の後は生まれてないから、167年ぶりの人魚誕生。
ふお~、楽しみだっ。
「明後日の昼くらいだと思います。皆さん立ち合いたいでしょうから、呼びますね」
皆もワクワクした顔で頷いてる。
ナギとカナンは見つめ合って微笑んでいる。
一番楽しみなのは、ふたりだよね。
で、今ラウンジでウロウロしているのは、その予定の時間だからです。はい。
休憩に来たラシードと一緒に、ココルが入れてくれた飲み物を飲みながらソワソワ。
「アイツらはミルク玉たっぷりやってるから、余裕で元気な子供が生まれるよ。タップリどころか3倍は作ってるもんな」
おっそろしいとラシードはブルっと体を震わせてる。
「ラシードのとこだって2つの卵にあげてもまだ余るくらいあるんでしょ?」
「う……まあな。カナンが作れ作れって鬼のように言ってくるからな」
「あ~、予備ミルク用にね。あればあるほど安心だもんね」
カナンの研究も順調みたいで、他の親のミルク玉でもちゃんと栄養が採れるように改良が進んできたらしい。
元の世界で言うところの粉ミルクだね。
ミルク玉の何がスゴいって、何もしなくても保存期間が100年を超えるってとこだな。
保存料とか無しにだよ?すごいわぁ。
俺やライジャのエキス玉はもっとスゴくて、1000年はいけるらしい。
もう驚異の世界。
超高級なラムネとチェリーボンボンだ。ふはっ。
「僕も人魚が生まれるのを見るのは初めてなんです。すっごいワクワクですよぉ」
飲み物のお代わりを注いでくれたココルは、トレイを持ったままウキウキとしてる。
「そっか、ココルも最終世代だったから見たことないんだね」
「はい。孵化施設自体も入ったことないので、それも楽しみです」
あ、そうか。子供を持たない民はミルクを届けるとか卵を抱くとかの用事がないから入らないのか。
俺はいつもフリーパスで入ってたから気づかなかった。
ちょっと気になる案件だな~。
「ココル。ココルはまだ結婚してないけど、孵化施設とか教育施設って興味はない?」
「え?興味はありますよ~。卵も見たいし。でも何か親になってないのに近づくのはいけないような気がして……」
ほほぅ、これはいつものメンバーで検討してみたらいいかも。
実は半ルルゥ化するのを躊躇ってるというか、怖がってる民がいるって小耳に挟んでるんだよね。
単純に変化が怖い人もいるんだろうけど、変化した先のことがピンときてない人もいるんじゃないだろうか。
それなら孵化施設とか、人魚が生まれたら稼働する教育施設とかを見学出来るようにしてみるのも手かもしれないな~。
よし、今後の計画に練り込んでみようっと。
「ナオ様、そろそろ変化しそうなので、施設においで下さい」
「わわっ、了解~っ」
ぶつぶつと考え込んでいたら、メルサが呼びにきたよ。
俺はラシードとココルと一緒に施設に向かって飛び出した。
孵化施設の中は、今や色とりどりの卵が仕切りの中でたくさん浮いてて、カラフルな部屋になってる。
「わあぁ~、スゴイ~」
ココルは大興奮しているけど、卵に何かあったら大変だから暴れないように必死に堪えてヒレがプルプルしてる。
うん、わかる~。
ひゃあ~って、のたうち回りたくなるよねぇ。
これが全部、新しい命なんだもんね~。
卵を管理してる施設の係の中に知った顔を見つけた。
「あ、ラース。リィサ~」
ふたりも俺に気づくと笑顔でやってきた。
「ナオ様、いらっしゃい」
俺がここにきて病気だったラースを治してから、恋人同士だったふたりはこの施設で保育士になって卵の管理をしてくれている。
よく顔を出す俺とはもう仲良しで、たまにココルのお菓子を持ってきて一緒に食べたりしてるんだ。
ふたりも結婚して半ルルゥ化して、半年前に子供を作っている。
「ナギ様達の卵ですね。変化が始まったので、奥の部屋に移ってますよ」
「ありがとう、楽しみだね~」
「ええ、本当に。久しぶりの子供の誕生ですからね」
リィサもニコニコと嬉しそう。
「ナギ様とカナン様はもう中にいらっしゃいますよ」
ラースに促されて、皆で奥の部屋に向かう。
部屋にはナギとカナンの他に、レムルが機械の操作をしていた。
「おっ、ナオ様。ちょうど始まるところですよ」
「レムル、久し振り~」
さっきのふたりと同じく、俺がケガを治したレムルは勉強をすっごく頑張って、今や孵化施設長になってる。
ケガするまでは鉱山で働いていたから逞しい体をしてるし、性格はカラッとしてて明るくて頼りがいがある好青年。
地元の青年団とかに入ってそうなタイプだね。
今やモテモテの旬なイケメン。
「あ、ココルは初めて会うよね。レムルだよ~。俺がケガを治した人」
初対面のココルをレムルに紹介したら、人懐こいココルにしては珍しく緊張してた。
「は、初めまして……ココルです」
「ども、初めまして。レムルです」
白い歯がキラリとしそうな爽やか青年に、ココルは頬を染めてホワっとなってる。
おお?なんかいい感じ?
恋が始まっちゃう予感~とかポヤポヤしてたら、ライジャや他の統括の面々がわらわらと入ってきて、部屋はイモ洗い状態になってしまった。
いやプールじゃないけどさ。
水の中だけにね。
そう、生まれてくるのは人魚だから、孵化施設は全部屋水の中。
「あ、始まりますよ」
会話をする間もなく、卵の光が強くなってきた。
ナギとカナンの前で緑と青の混ざる光が煌めいて次の瞬間、ポンっと弾けるような音と共に光が消えた。
そこには緑の鱗と髪の小さな小さな人魚が自分のヒレを抱くようにして丸まって浮かんでいた。
「………わぁ…」
ち、小さい……片手に乗りそうなくらい小さい。
丸まっていた人魚の目がスウっと開くと、大きな水色の綺麗な瞳が現れた。
ナギがおずおずと手を差し出すと、両手の中に納まった子供が親指にきゅうっとしがみついてふにゃっと笑った。
「かっ……可愛いっ」
リカーさんとメルサさんの声がハモった。
「ちゃんと親だって分かるんだなぁ」
ラシードとダルクとアンヘルがうんうんと驚いたように頷いている。
ナギがカナンの手にそっと子供を渡すと、カナンの手が小さく震えていた。
「……ああ………ナギの小さい頃とそっくりだ…」
愛しくてしょうがないって気持ちが溢れているのが丸わかりだよ。
「…ナギ、俺が名前をつけてもいいかい?」
カナンがナギの顔を伺うように聞いた。
あ、そうか、名前のことを完全に忘れてたな。
「もちろんだ。お前の方がセンスあるだろ」
ナギも異存は全くないと頷いてる。
「………ナナリィ」
「ナナリィ?」
「うん、俺とお前の名前にあるナをひとつずつと、リリィの希望となる子供だからリィ、そしてお二人ルーリィの語尾とも同じになるので」
そう言って俺とライジャを見たカナンが、子供を俺達に渡してきた。
「お二人の子供でもあるんですから」
ライジャが両手で抱くと、大きな目をパチパチとしてライジャをじっと見ている。
「ナナリィ……良い名だ。きっと優しくて強い子になるだろう」
ライジャが優しく微笑んで、俺に子供を預けてきた。
ふわわっ、本当に小さくて可愛い。
そうっと丸い頬を人差し指で触ると、プニプニしている。
「…ああぅ」
ナナリィがくすぐったそうに笑ってから、俺の指を小さな手で掴んだ。
「…っ……」
一気に込み上げてきた気持ちは、色々と混ざっていて一言では言い表せない。
可愛い、愛しい、嬉しい……
気持ちが玉になって目からボロボロと零れる。
笑いながらも涙は止まらない。
「ナナリィ……ようこそ、この世界に」
俺が零すルルゥの涙を不思議そうに目を丸くして見ていたナナリィは、不意に一粒をキャッチして、はむっと食べてしまった。
「ひえっ、食べたっ……カナン、ナナリィが玉を食べちゃったよ?大丈夫?」
パニクってカナンを見たら、大丈夫だと頷いてる。
「祝福のルルゥの涙だから問題ないよ。むしろ元気な子に育つよ、ありがとう」
よ、良かった~。
当のナナリィは美味しかったらしく、きゃっきゃと喜んでいる。
そういやライジャも甘くて美味しいって前に言ってたな。
「初めての食事がこんなに高級品じゃあ、グルメになっちまうかもな~」
ラシードがふざけて言うと、部屋中が笑いに包まれた。
これからこんな可愛いチビ人魚がたくさん生まれてくるんだ。
ベリオンの町は一気に騒がしく、活気に満ちるだろうな。
「ますます忙しくなるね、ライジャ」
ナナリィをナギに返してから、横にいるライジャを見上げると、銀色の目をキラキラさせて微笑んでくれる。
「そうだな、頑張らないとな」
腰に回ったライジャの手にグっと力が籠って、頭にキスを落とされた。
俺は周りで喜びあっている人達をグルっと見回してから、もう一度ライジャを見てニッコリと笑った。
「一緒にねっ」
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