異世界トリップ? -南の島で楽しい漂流生活始めました-

月夜野レオン

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第二章

夢の飴

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はぁ~、今日の夕食は何だろう?
お昼を食べたばっかりなのに、もう夕食のメニューを夢想してる俺って食いしん坊かな?
でもココルの考案するメニューは、毎回凝ってて美味しいから楽しみなんだよ。
この間、焼いて持ち帰ったパンやルルゥの島の果物を食べてから、更に料理の研究意欲が上がってて、ホント毎回ワクワク。
実はさ、何種類かの実を海底の土を使って植えたら、なんと芽が出たんだよ。
いや~びっくりしたけど、そういえばここの海水は塩分ないから土も水もそのまま使えるんだわ。
で、空気がある施設で育てているんだけど、成長が早くてもう実が収穫できるようになったんだ。
太陽の光は水深100メートルなのにフツーに届いてるから、空気があれば育つんだね。
リリィの技術のスゴいところで、ガラスは無いんだけどそれに代わる透明なジェルみたいなものがあるんだ。
海藻から抽出して、それに色々と混ぜ物をすると出来るらしい。
かなり伸びるし丈夫だから、それで透明な巨大ドームみたいなものが作れる。
中に空気石を設置すれば、水の中でも地上と同じ植物が育てられるんだ。
水中ルルゥアイランドだね。
ココルが食べた時は、もう大興奮してたなぁ。
ココルって、興奮するとグルグルしちゃうから分かりやすい。
子供みたいだからなるべく抑えてるらしいんだけど、どうしても我慢出来なくて「ひゃあ~」ってそこらで円を描いて回ってた。
かっわいいなぁ。
面白くって、俺も一緒になって「はわわ~」って回ってたら、ライジャが爆笑したよ。
爆笑するライジャなんてすっげぇレアだから、回りの人達はあ然としてたね。
うん、楽しい~。

「ナオ様~、今日のおやつですよ~」
わーい、ココルのおやつだっ。
ドームの中でラシードさんがモーターのテストをしているのを見学してたところに、ココルがトレイに乗せたお菓子を持ってきた。
「ありがとう、ココル。わ、綺麗な色だね~」
今日のお菓子はクッキーとカラフルなキラキラしたものだ。
「このキラキラしたヤツは何?」
指で摘んでみると、ガラスのように固くて透けている。
「海藻から抽出した糖分に、ルルゥの島の果物を溶かして混ぜて固めてみましたぁ」
へえぇ~、キャンディみたいなものかな。
ピンク色したガラスみたいなのを口に入れてみる。
「……お?……おお?」
これはまさにキャンディだな。
見た目からすると、べっ甲飴みたい。
甘さの中に桃ぶどうの味がして、ゆっくりと舌の上で溶けていく。
「うんうん、美味しいよ~」
中指と人差し指を立ててクイクイと曲げる、美味しいのポーズをする。
「やった~」
ココルが弾けるような笑顔になった。
空気があるところだからグルグル出来なくて、ピョンピョン跳ねてる。
あはは、それも可愛い~。
朱色の三つ編みも一緒に弾んでるよ。
「ラシードさんもどう?」
俺はお菓子のトレイを受け取ってから、近くで作業していたラシードさんに声をかけた。
「おう、もう終わるところだから…」
機械のスイッチを消して振り返ったラシードさんの方に歩き出した俺は、手前にあったコードに足を引っかけてしまった。
「わわっ」
「うおっ」
「ひえっ」
人間、パニクると画像がスローモーションに見える。
俺は持っていたトレイをフリスビーよろしくぶん投げてしまい、前にいたラシードさんの頭上を越えて飛んでいこうとしたトレイは、反射的に手を伸ばしたラシードさんがキャッチし、奇跡的に中身のお菓子もほぼ零れなかった。
バッタリと倒れた俺は、無事だったお菓子にほっとしたけれど、何個か跳ね飛んだキャンディがラシードさんが停止した背後のモーターに吸い込まれたのを見た。
ガリガリガリッ
ひええっ、モーターにキャンディがっ。
「ナオっ、大丈夫かっ?」
「ひゃああっ、ナオ様ーっ、お怪我はっ?」
いやいや、俺よりもモーターだよっ。
「ご、ごめん。つまずいただけだから大丈夫だよ。それよりモーターがぁ~」
駆け寄ってくる2人に謝りつつも、俺は異音を発したモーターの方が心配だよぅ。
「はぁ、ビックリしたぜ~。機械なんか別にどうなってもいいんだよ。怪我がなくて良かったぜ」
青くなってるラシードさんに、立ち上がって平気アピールしてから3人でモーターを確認しにいく。
「あ~、中に入ったんだな。まあ、コイツはもう高速回転しなくなってたから、廃棄するつもりだったからいいさ」
ちょうど老朽化してたモーターで、ダメなことを確認していたんだと。
そうなの?いいの?
不安そうに聞いたら、むしろ踏ん切りがついたとカラカラと笑ってくれた。
爽やかイケメンだなぁ。
「うん、クッキーもこの甘いのも美味いぜ」
トレイのお菓子を食べてココルに感想を述べているラシードさんは、こう見えて案外甘党だ。
でも、申し訳なかったなぁとモーターを見ていたら
「んん?これは……」
モーターの周りの板に蜘蛛の巣状のフワフワしたピンク色のものが付着してる。
……あ、これって、あれなんじゃない?
そうっとフワフワを持ち上げて口に含むと、一瞬でトロっと溶けて消える。
ふおっ、ま~さ~し~く~、綿飴だっ。
と、いうことは……
「ラシードさん、この壊れたモーター、ちょっと改良してもらえないかな?」
良いことを思いついて振り向いたら、ラシードさんクッキーを頬張ってリスになってた。ぶはっ。

ラシードさんは機械にも明るいので、俺が説明をするとすぐにモーターを改良・加工してくれた。
スゴいなぁ、建設関係だけじゃなく機械工学の方も詳しいなんて。
やっぱり統括のメンバーは、スキルの引き出しがてんこ盛りだ。
ココルには、キャンディを大量に作ってもらったよ。
色と味を変えたのを、たくさんね。
で、今日は城の中庭に改良モーターを設置して、時間がある人達に集まってもらったんだ。
サプライズ綿飴パーティだよっ。
お城の人達にはいつもお世話になってるから、恩返しじゃないけど、ちょっと楽しんでもらおうと思ってさ。
あの場にいた2人が手伝ってくれることになったから、ラシードさんには綿飴製造を、ココルには砕いた飴の補充をお願いした。
俺もちょっと練習してみたんだけど、案外難しくて失敗続きだったんだよ。
割りばしの代わりに棒を使って綿をすくい上げるんだけど、実は棒の部分をクルクルと回しながらじゃないと、綺麗に巻き付かないんだ。
むずっ。激むずっ。
屋台のおっちゃん達、実は熟練の業師だったんだなぁ。
コツを覚えたのは、やっぱりラシードさんだった。
手先の器用さでは負けないと思ったにな~。
でも、フワッフワの綿飴がみるみる出来上がっていくのを側で見るのはすっごく楽しい。
俺の担当は、出来上がった綿飴に甘酸っぱいキラキラのパウダーを何色か振りかけて仕上げるところ。
食べるところで味が変わるから、飽きずに楽しめるんだ。
見た目もバッチリ。
容器に目の粗いガーゼみたいな布を被せて振りかけるのを考えたのはココルだよ。
ライジャも、モーターを見て??な感じだった。
ふふふ、この表情がどう変わるのか、楽しみ~。
「じゃあ始めるよ~」
ラシードさんがモーターのスイッチを入れ、回転が落ち着いたところでココルが真ん中の穴に砕いたキャンディを入れる。
モーターを調整したのと、キャンディを細かく砕いたおかげでチリチリと小さな音しかしない。
フワ~っと雲のような膜が回りの金属カバーに付いたところを、ラシードさんがひょいっと棒ですくい上げてクルクルと巻き付ける。
周りから一斉に驚きの声が上がった。
「わおっ、何これ~?フワフワの膜が……」
カナンさんも目を真ん丸にして見てる。
飴が丸く棒に絡まったら、俺が受け取ってパウダー降り掛けていく。
ゴールド、ピンク、グリーン…色とりどりになった綿飴を、まずはライジャに渡す。
「はいっ、食べてみて?」
「これは……食べ物なのか?甘い香りはするが…」
あまりにカラフルな外見に、ちょっと気後れしていたけど、俺がニコニコ顔で頷いたら恐る恐る口に運んだ。
「……っ、消えた…」
はむっと食べたライジャは、一瞬で溶けて消えた存在に驚いて、それからフワっと笑った。
「うん、甘酸っぱくて、美味しいな」
やった~、大成功。
俺はラシードさんとココルとハイタッチをパチっと決めた。
どんどん作って、振り掛けて、皆に配っていく。
口に入れた途端に、ふっと消えてしまう感覚が初めての体験で、皆は大喜び。
「きれい~、食べちゃうのもったいないな」
と、ウットリ眺めてる人もいたけど、早く食べないと萎んじゃうからね~。
「これは、ナオの世界にあったものなのか?」
せっせとパウダーを掛けている横で、ライジャがしげしげと綿飴を眺めている。
「ふふ、そうだよ。お祭りの時とかにこうやって作って売られるんだ」
「そうか。やはり違う文化のものは興味深いな。こんなに美しくて儚い夢のような食べ物があるとは…」
は、儚いとな……ふお~、ライジャったら詩人っぽいわ。
綿飴如きにその言葉が出るとは思わなかったよ。
でも、確かに一瞬で消えちゃうもんね、口の中で。
発想が、コケてキャンディをモーターに巻き込んだハプニングから得たと説明したら大ウケしてたけどね。たはは~
「ナオ様、ナオ様っ、この食べ物は何て名前なんですか?」
仲の良い警護の人達が綿飴片手に聞いてくる。
はっ、しまった。名前決めてなかったよ。
「えっとね~……」
どうしよう、まんま綿飴じゃな~。綿ってこっちには無いもんね。
幻のように消えるから…イリュージョン?ファントム?
いやいや、綿飴ごときに大げさな。
「ド……ドリームキャンディ…」
言ってから速攻後悔したよ。
何それ、ベタ過ぎる~。
ううっ、だからネーミングセンスないんだってば~。
「お~い、これドリームキャンディって名前だってさー」
「ほおぉ、ドリームキャンディかぁ」
あああ、何か恥ずかしい~。
でも分かる人いないからいいか。
「夢の飴ね~、いいんじゃないの?」
ひょえっ、振り向いたらカナンさんがウンウンと頷いてました。
し、しまった~、この人がいたかっ。もう博識過ぎだよぅ、カナンさんは。
「色とりどりに光って、キレイだしさ……それに、恋人と分け合って食べてからキスすると甘~いキスになりそ」
ひええっ、そんなこと言ったら~。
横にいたライジャにちぎった綿飴を口に押し込まれ、速攻チュ~されました。
はい、とっても甘かったデス。恥ずかしいよぅ~。
のちにドリームキャンディは、ベリオン中で大ブームになりました。
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