66 / 73
第二章
夢の飴
しおりを挟む
はぁ~、今日の夕食は何だろう?
お昼を食べたばっかりなのに、もう夕食のメニューを夢想してる俺って食いしん坊かな?
でもココルの考案するメニューは、毎回凝ってて美味しいから楽しみなんだよ。
この間、焼いて持ち帰ったパンやルルゥの島の果物を食べてから、更に料理の研究意欲が上がってて、ホント毎回ワクワク。
実はさ、何種類かの実を海底の土を使って植えたら、なんと芽が出たんだよ。
いや~びっくりしたけど、そういえばここの海水は塩分ないから土も水もそのまま使えるんだわ。
で、空気がある施設で育てているんだけど、成長が早くてもう実が収穫できるようになったんだ。
太陽の光は水深100メートルなのにフツーに届いてるから、空気があれば育つんだね。
リリィの技術のスゴいところで、ガラスは無いんだけどそれに代わる透明なジェルみたいなものがあるんだ。
海藻から抽出して、それに色々と混ぜ物をすると出来るらしい。
かなり伸びるし丈夫だから、それで透明な巨大ドームみたいなものが作れる。
中に空気石を設置すれば、水の中でも地上と同じ植物が育てられるんだ。
水中ルルゥアイランドだね。
ココルが食べた時は、もう大興奮してたなぁ。
ココルって、興奮するとグルグルしちゃうから分かりやすい。
子供みたいだからなるべく抑えてるらしいんだけど、どうしても我慢出来なくて「ひゃあ~」ってそこらで円を描いて回ってた。
かっわいいなぁ。
面白くって、俺も一緒になって「はわわ~」って回ってたら、ライジャが爆笑したよ。
爆笑するライジャなんてすっげぇレアだから、回りの人達はあ然としてたね。
うん、楽しい~。
「ナオ様~、今日のおやつですよ~」
わーい、ココルのおやつだっ。
ドームの中でラシードさんがモーターのテストをしているのを見学してたところに、ココルがトレイに乗せたお菓子を持ってきた。
「ありがとう、ココル。わ、綺麗な色だね~」
今日のお菓子はクッキーとカラフルなキラキラしたものだ。
「このキラキラしたヤツは何?」
指で摘んでみると、ガラスのように固くて透けている。
「海藻から抽出した糖分に、ルルゥの島の果物を溶かして混ぜて固めてみましたぁ」
へえぇ~、キャンディみたいなものかな。
ピンク色したガラスみたいなのを口に入れてみる。
「……お?……おお?」
これはまさにキャンディだな。
見た目からすると、べっ甲飴みたい。
甘さの中に桃ぶどうの味がして、ゆっくりと舌の上で溶けていく。
「うんうん、美味しいよ~」
中指と人差し指を立ててクイクイと曲げる、美味しいのポーズをする。
「やった~」
ココルが弾けるような笑顔になった。
空気があるところだからグルグル出来なくて、ピョンピョン跳ねてる。
あはは、それも可愛い~。
朱色の三つ編みも一緒に弾んでるよ。
「ラシードさんもどう?」
俺はお菓子のトレイを受け取ってから、近くで作業していたラシードさんに声をかけた。
「おう、もう終わるところだから…」
機械のスイッチを消して振り返ったラシードさんの方に歩き出した俺は、手前にあったコードに足を引っかけてしまった。
「わわっ」
「うおっ」
「ひえっ」
人間、パニクると画像がスローモーションに見える。
俺は持っていたトレイをフリスビーよろしくぶん投げてしまい、前にいたラシードさんの頭上を越えて飛んでいこうとしたトレイは、反射的に手を伸ばしたラシードさんがキャッチし、奇跡的に中身のお菓子もほぼ零れなかった。
バッタリと倒れた俺は、無事だったお菓子にほっとしたけれど、何個か跳ね飛んだキャンディがラシードさんが停止した背後のモーターに吸い込まれたのを見た。
ガリガリガリッ
ひええっ、モーターにキャンディがっ。
「ナオっ、大丈夫かっ?」
「ひゃああっ、ナオ様ーっ、お怪我はっ?」
いやいや、俺よりもモーターだよっ。
「ご、ごめん。つまずいただけだから大丈夫だよ。それよりモーターがぁ~」
駆け寄ってくる2人に謝りつつも、俺は異音を発したモーターの方が心配だよぅ。
「はぁ、ビックリしたぜ~。機械なんか別にどうなってもいいんだよ。怪我がなくて良かったぜ」
青くなってるラシードさんに、立ち上がって平気アピールしてから3人でモーターを確認しにいく。
「あ~、中に入ったんだな。まあ、コイツはもう高速回転しなくなってたから、廃棄するつもりだったからいいさ」
ちょうど老朽化してたモーターで、ダメなことを確認していたんだと。
そうなの?いいの?
不安そうに聞いたら、むしろ踏ん切りがついたとカラカラと笑ってくれた。
爽やかイケメンだなぁ。
「うん、クッキーもこの甘いのも美味いぜ」
トレイのお菓子を食べてココルに感想を述べているラシードさんは、こう見えて案外甘党だ。
でも、申し訳なかったなぁとモーターを見ていたら
「んん?これは……」
モーターの周りの板に蜘蛛の巣状のフワフワしたピンク色のものが付着してる。
……あ、これって、あれなんじゃない?
そうっとフワフワを持ち上げて口に含むと、一瞬でトロっと溶けて消える。
ふおっ、ま~さ~し~く~、綿飴だっ。
と、いうことは……
「ラシードさん、この壊れたモーター、ちょっと改良してもらえないかな?」
良いことを思いついて振り向いたら、ラシードさんクッキーを頬張ってリスになってた。ぶはっ。
ラシードさんは機械にも明るいので、俺が説明をするとすぐにモーターを改良・加工してくれた。
スゴいなぁ、建設関係だけじゃなく機械工学の方も詳しいなんて。
やっぱり統括のメンバーは、スキルの引き出しがてんこ盛りだ。
ココルには、キャンディを大量に作ってもらったよ。
色と味を変えたのを、たくさんね。
で、今日は城の中庭に改良モーターを設置して、時間がある人達に集まってもらったんだ。
サプライズ綿飴パーティだよっ。
お城の人達にはいつもお世話になってるから、恩返しじゃないけど、ちょっと楽しんでもらおうと思ってさ。
あの場にいた2人が手伝ってくれることになったから、ラシードさんには綿飴製造を、ココルには砕いた飴の補充をお願いした。
俺もちょっと練習してみたんだけど、案外難しくて失敗続きだったんだよ。
割りばしの代わりに棒を使って綿をすくい上げるんだけど、実は棒の部分をクルクルと回しながらじゃないと、綺麗に巻き付かないんだ。
むずっ。激むずっ。
屋台のおっちゃん達、実は熟練の業師だったんだなぁ。
コツを覚えたのは、やっぱりラシードさんだった。
手先の器用さでは負けないと思ったにな~。
でも、フワッフワの綿飴がみるみる出来上がっていくのを側で見るのはすっごく楽しい。
俺の担当は、出来上がった綿飴に甘酸っぱいキラキラのパウダーを何色か振りかけて仕上げるところ。
食べるところで味が変わるから、飽きずに楽しめるんだ。
見た目もバッチリ。
容器に目の粗いガーゼみたいな布を被せて振りかけるのを考えたのはココルだよ。
ライジャも、モーターを見て??な感じだった。
ふふふ、この表情がどう変わるのか、楽しみ~。
「じゃあ始めるよ~」
ラシードさんがモーターのスイッチを入れ、回転が落ち着いたところでココルが真ん中の穴に砕いたキャンディを入れる。
モーターを調整したのと、キャンディを細かく砕いたおかげでチリチリと小さな音しかしない。
フワ~っと雲のような膜が回りの金属カバーに付いたところを、ラシードさんがひょいっと棒ですくい上げてクルクルと巻き付ける。
周りから一斉に驚きの声が上がった。
「わおっ、何これ~?フワフワの膜が……」
カナンさんも目を真ん丸にして見てる。
飴が丸く棒に絡まったら、俺が受け取ってパウダー降り掛けていく。
ゴールド、ピンク、グリーン…色とりどりになった綿飴を、まずはライジャに渡す。
「はいっ、食べてみて?」
「これは……食べ物なのか?甘い香りはするが…」
あまりにカラフルな外見に、ちょっと気後れしていたけど、俺がニコニコ顔で頷いたら恐る恐る口に運んだ。
「……っ、消えた…」
はむっと食べたライジャは、一瞬で溶けて消えた存在に驚いて、それからフワっと笑った。
「うん、甘酸っぱくて、美味しいな」
やった~、大成功。
俺はラシードさんとココルとハイタッチをパチっと決めた。
どんどん作って、振り掛けて、皆に配っていく。
口に入れた途端に、ふっと消えてしまう感覚が初めての体験で、皆は大喜び。
「きれい~、食べちゃうのもったいないな」
と、ウットリ眺めてる人もいたけど、早く食べないと萎んじゃうからね~。
「これは、ナオの世界にあったものなのか?」
せっせとパウダーを掛けている横で、ライジャがしげしげと綿飴を眺めている。
「ふふ、そうだよ。お祭りの時とかにこうやって作って売られるんだ」
「そうか。やはり違う文化のものは興味深いな。こんなに美しくて儚い夢のような食べ物があるとは…」
は、儚いとな……ふお~、ライジャったら詩人っぽいわ。
綿飴如きにその言葉が出るとは思わなかったよ。
でも、確かに一瞬で消えちゃうもんね、口の中で。
発想が、コケてキャンディをモーターに巻き込んだハプニングから得たと説明したら大ウケしてたけどね。たはは~
「ナオ様、ナオ様っ、この食べ物は何て名前なんですか?」
仲の良い警護の人達が綿飴片手に聞いてくる。
はっ、しまった。名前決めてなかったよ。
「えっとね~……」
どうしよう、まんま綿飴じゃな~。綿ってこっちには無いもんね。
幻のように消えるから…イリュージョン?ファントム?
いやいや、綿飴ごときに大げさな。
「ド……ドリームキャンディ…」
言ってから速攻後悔したよ。
何それ、ベタ過ぎる~。
ううっ、だからネーミングセンスないんだってば~。
「お~い、これドリームキャンディって名前だってさー」
「ほおぉ、ドリームキャンディかぁ」
あああ、何か恥ずかしい~。
でも分かる人いないからいいか。
「夢の飴ね~、いいんじゃないの?」
ひょえっ、振り向いたらカナンさんがウンウンと頷いてました。
し、しまった~、この人がいたかっ。もう博識過ぎだよぅ、カナンさんは。
「色とりどりに光って、キレイだしさ……それに、恋人と分け合って食べてからキスすると甘~いキスになりそ」
ひええっ、そんなこと言ったら~。
横にいたライジャにちぎった綿飴を口に押し込まれ、速攻チュ~されました。
はい、とっても甘かったデス。恥ずかしいよぅ~。
のちにドリームキャンディは、ベリオン中で大ブームになりました。
お昼を食べたばっかりなのに、もう夕食のメニューを夢想してる俺って食いしん坊かな?
でもココルの考案するメニューは、毎回凝ってて美味しいから楽しみなんだよ。
この間、焼いて持ち帰ったパンやルルゥの島の果物を食べてから、更に料理の研究意欲が上がってて、ホント毎回ワクワク。
実はさ、何種類かの実を海底の土を使って植えたら、なんと芽が出たんだよ。
いや~びっくりしたけど、そういえばここの海水は塩分ないから土も水もそのまま使えるんだわ。
で、空気がある施設で育てているんだけど、成長が早くてもう実が収穫できるようになったんだ。
太陽の光は水深100メートルなのにフツーに届いてるから、空気があれば育つんだね。
リリィの技術のスゴいところで、ガラスは無いんだけどそれに代わる透明なジェルみたいなものがあるんだ。
海藻から抽出して、それに色々と混ぜ物をすると出来るらしい。
かなり伸びるし丈夫だから、それで透明な巨大ドームみたいなものが作れる。
中に空気石を設置すれば、水の中でも地上と同じ植物が育てられるんだ。
水中ルルゥアイランドだね。
ココルが食べた時は、もう大興奮してたなぁ。
ココルって、興奮するとグルグルしちゃうから分かりやすい。
子供みたいだからなるべく抑えてるらしいんだけど、どうしても我慢出来なくて「ひゃあ~」ってそこらで円を描いて回ってた。
かっわいいなぁ。
面白くって、俺も一緒になって「はわわ~」って回ってたら、ライジャが爆笑したよ。
爆笑するライジャなんてすっげぇレアだから、回りの人達はあ然としてたね。
うん、楽しい~。
「ナオ様~、今日のおやつですよ~」
わーい、ココルのおやつだっ。
ドームの中でラシードさんがモーターのテストをしているのを見学してたところに、ココルがトレイに乗せたお菓子を持ってきた。
「ありがとう、ココル。わ、綺麗な色だね~」
今日のお菓子はクッキーとカラフルなキラキラしたものだ。
「このキラキラしたヤツは何?」
指で摘んでみると、ガラスのように固くて透けている。
「海藻から抽出した糖分に、ルルゥの島の果物を溶かして混ぜて固めてみましたぁ」
へえぇ~、キャンディみたいなものかな。
ピンク色したガラスみたいなのを口に入れてみる。
「……お?……おお?」
これはまさにキャンディだな。
見た目からすると、べっ甲飴みたい。
甘さの中に桃ぶどうの味がして、ゆっくりと舌の上で溶けていく。
「うんうん、美味しいよ~」
中指と人差し指を立ててクイクイと曲げる、美味しいのポーズをする。
「やった~」
ココルが弾けるような笑顔になった。
空気があるところだからグルグル出来なくて、ピョンピョン跳ねてる。
あはは、それも可愛い~。
朱色の三つ編みも一緒に弾んでるよ。
「ラシードさんもどう?」
俺はお菓子のトレイを受け取ってから、近くで作業していたラシードさんに声をかけた。
「おう、もう終わるところだから…」
機械のスイッチを消して振り返ったラシードさんの方に歩き出した俺は、手前にあったコードに足を引っかけてしまった。
「わわっ」
「うおっ」
「ひえっ」
人間、パニクると画像がスローモーションに見える。
俺は持っていたトレイをフリスビーよろしくぶん投げてしまい、前にいたラシードさんの頭上を越えて飛んでいこうとしたトレイは、反射的に手を伸ばしたラシードさんがキャッチし、奇跡的に中身のお菓子もほぼ零れなかった。
バッタリと倒れた俺は、無事だったお菓子にほっとしたけれど、何個か跳ね飛んだキャンディがラシードさんが停止した背後のモーターに吸い込まれたのを見た。
ガリガリガリッ
ひええっ、モーターにキャンディがっ。
「ナオっ、大丈夫かっ?」
「ひゃああっ、ナオ様ーっ、お怪我はっ?」
いやいや、俺よりもモーターだよっ。
「ご、ごめん。つまずいただけだから大丈夫だよ。それよりモーターがぁ~」
駆け寄ってくる2人に謝りつつも、俺は異音を発したモーターの方が心配だよぅ。
「はぁ、ビックリしたぜ~。機械なんか別にどうなってもいいんだよ。怪我がなくて良かったぜ」
青くなってるラシードさんに、立ち上がって平気アピールしてから3人でモーターを確認しにいく。
「あ~、中に入ったんだな。まあ、コイツはもう高速回転しなくなってたから、廃棄するつもりだったからいいさ」
ちょうど老朽化してたモーターで、ダメなことを確認していたんだと。
そうなの?いいの?
不安そうに聞いたら、むしろ踏ん切りがついたとカラカラと笑ってくれた。
爽やかイケメンだなぁ。
「うん、クッキーもこの甘いのも美味いぜ」
トレイのお菓子を食べてココルに感想を述べているラシードさんは、こう見えて案外甘党だ。
でも、申し訳なかったなぁとモーターを見ていたら
「んん?これは……」
モーターの周りの板に蜘蛛の巣状のフワフワしたピンク色のものが付着してる。
……あ、これって、あれなんじゃない?
そうっとフワフワを持ち上げて口に含むと、一瞬でトロっと溶けて消える。
ふおっ、ま~さ~し~く~、綿飴だっ。
と、いうことは……
「ラシードさん、この壊れたモーター、ちょっと改良してもらえないかな?」
良いことを思いついて振り向いたら、ラシードさんクッキーを頬張ってリスになってた。ぶはっ。
ラシードさんは機械にも明るいので、俺が説明をするとすぐにモーターを改良・加工してくれた。
スゴいなぁ、建設関係だけじゃなく機械工学の方も詳しいなんて。
やっぱり統括のメンバーは、スキルの引き出しがてんこ盛りだ。
ココルには、キャンディを大量に作ってもらったよ。
色と味を変えたのを、たくさんね。
で、今日は城の中庭に改良モーターを設置して、時間がある人達に集まってもらったんだ。
サプライズ綿飴パーティだよっ。
お城の人達にはいつもお世話になってるから、恩返しじゃないけど、ちょっと楽しんでもらおうと思ってさ。
あの場にいた2人が手伝ってくれることになったから、ラシードさんには綿飴製造を、ココルには砕いた飴の補充をお願いした。
俺もちょっと練習してみたんだけど、案外難しくて失敗続きだったんだよ。
割りばしの代わりに棒を使って綿をすくい上げるんだけど、実は棒の部分をクルクルと回しながらじゃないと、綺麗に巻き付かないんだ。
むずっ。激むずっ。
屋台のおっちゃん達、実は熟練の業師だったんだなぁ。
コツを覚えたのは、やっぱりラシードさんだった。
手先の器用さでは負けないと思ったにな~。
でも、フワッフワの綿飴がみるみる出来上がっていくのを側で見るのはすっごく楽しい。
俺の担当は、出来上がった綿飴に甘酸っぱいキラキラのパウダーを何色か振りかけて仕上げるところ。
食べるところで味が変わるから、飽きずに楽しめるんだ。
見た目もバッチリ。
容器に目の粗いガーゼみたいな布を被せて振りかけるのを考えたのはココルだよ。
ライジャも、モーターを見て??な感じだった。
ふふふ、この表情がどう変わるのか、楽しみ~。
「じゃあ始めるよ~」
ラシードさんがモーターのスイッチを入れ、回転が落ち着いたところでココルが真ん中の穴に砕いたキャンディを入れる。
モーターを調整したのと、キャンディを細かく砕いたおかげでチリチリと小さな音しかしない。
フワ~っと雲のような膜が回りの金属カバーに付いたところを、ラシードさんがひょいっと棒ですくい上げてクルクルと巻き付ける。
周りから一斉に驚きの声が上がった。
「わおっ、何これ~?フワフワの膜が……」
カナンさんも目を真ん丸にして見てる。
飴が丸く棒に絡まったら、俺が受け取ってパウダー降り掛けていく。
ゴールド、ピンク、グリーン…色とりどりになった綿飴を、まずはライジャに渡す。
「はいっ、食べてみて?」
「これは……食べ物なのか?甘い香りはするが…」
あまりにカラフルな外見に、ちょっと気後れしていたけど、俺がニコニコ顔で頷いたら恐る恐る口に運んだ。
「……っ、消えた…」
はむっと食べたライジャは、一瞬で溶けて消えた存在に驚いて、それからフワっと笑った。
「うん、甘酸っぱくて、美味しいな」
やった~、大成功。
俺はラシードさんとココルとハイタッチをパチっと決めた。
どんどん作って、振り掛けて、皆に配っていく。
口に入れた途端に、ふっと消えてしまう感覚が初めての体験で、皆は大喜び。
「きれい~、食べちゃうのもったいないな」
と、ウットリ眺めてる人もいたけど、早く食べないと萎んじゃうからね~。
「これは、ナオの世界にあったものなのか?」
せっせとパウダーを掛けている横で、ライジャがしげしげと綿飴を眺めている。
「ふふ、そうだよ。お祭りの時とかにこうやって作って売られるんだ」
「そうか。やはり違う文化のものは興味深いな。こんなに美しくて儚い夢のような食べ物があるとは…」
は、儚いとな……ふお~、ライジャったら詩人っぽいわ。
綿飴如きにその言葉が出るとは思わなかったよ。
でも、確かに一瞬で消えちゃうもんね、口の中で。
発想が、コケてキャンディをモーターに巻き込んだハプニングから得たと説明したら大ウケしてたけどね。たはは~
「ナオ様、ナオ様っ、この食べ物は何て名前なんですか?」
仲の良い警護の人達が綿飴片手に聞いてくる。
はっ、しまった。名前決めてなかったよ。
「えっとね~……」
どうしよう、まんま綿飴じゃな~。綿ってこっちには無いもんね。
幻のように消えるから…イリュージョン?ファントム?
いやいや、綿飴ごときに大げさな。
「ド……ドリームキャンディ…」
言ってから速攻後悔したよ。
何それ、ベタ過ぎる~。
ううっ、だからネーミングセンスないんだってば~。
「お~い、これドリームキャンディって名前だってさー」
「ほおぉ、ドリームキャンディかぁ」
あああ、何か恥ずかしい~。
でも分かる人いないからいいか。
「夢の飴ね~、いいんじゃないの?」
ひょえっ、振り向いたらカナンさんがウンウンと頷いてました。
し、しまった~、この人がいたかっ。もう博識過ぎだよぅ、カナンさんは。
「色とりどりに光って、キレイだしさ……それに、恋人と分け合って食べてからキスすると甘~いキスになりそ」
ひええっ、そんなこと言ったら~。
横にいたライジャにちぎった綿飴を口に押し込まれ、速攻チュ~されました。
はい、とっても甘かったデス。恥ずかしいよぅ~。
のちにドリームキャンディは、ベリオン中で大ブームになりました。
2
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる